Aランチを運びに行って
それから常連さんに封筒を渡す。
「ありがとー」
「お仕事頑張って下さいねー」
「うん。ねえゆあちゃん」
「はい」
「オレの仕事が終わったらさ、オレとデートしてよ」
「…え?」
「考えておいてね」
パチン、と素敵なウインクを頂いた。え、いま…なんて、デート?えっ…デ、デート?!聞き返す前にじゃあね。と笑顔も頂いて常連さんは出て行ってしまった。
「始めて…誘われた、かも」
その後ろ姿をみながら顔が熱くなるのを隠すようにキッチンへと逃げ込んだ。
「店長ー」
「渡したか?」
「渡しましたー料金は前払いですよね?」
「うん。もうもらってある。…ていうかゆあ顔どうした?」
真っ赤だぞ。と指摘される。うう…やっぱり赤くなってますよね…。隠すように手で覆う。
「常連さんに、デートに誘われました…」
「…へえ」
「男の人にデートに誘われたの、初めてで…」
「んー」
「冗談だと、思いますけどね…」
わたしなんかが相手にされるわけないし、きっと動揺するわたしをみて楽しんでるんだろう…いや、そんな性格悪い人にはみえないけど。
「ゆあっていまヒソカと一緒にいるんだっけ?」
「そうですよ?」
「で、確かゾルディックの長男とも知り合いなんだろ?」
「はい。念の師匠でもありますね!」
「…なるほど」
店長はヒソカさんのことも知っていた。以前情報を提供したことがあるらしい。顔が広いからイルミさんのことももちろん知っていたしこんなところで繋がりを感じてちょっと嬉しくなった。
わたしの知っている小さな世界の中で人と人が繋がってるなんてすごい偶然。
「なにがなるほどなんですか?」
「ん?いや」
「?」
「(そういう人種に好かれるタイプ、ね。わたしもだけど。)」
モアさんはそれ以上は言わずにほらとっとと働けーと適当にあしらわれてしまった。む、モアさんだってサボってるくせに…。フロアに戻って空いた机の片付けをする。
その姿をキッチンから眺めながら
店長、モアはため息をついていた。
「世の中には知らない方がいいことと、知り合わない方がいい人がいるのよね。」
今日の顧客である金髪の男のことを調べた資料を眺めていた。自分は情報屋だ。依頼された情報は調べる。もちろん依頼人のこともある程度は調べる。
「(噂には聞いてたけど…幻影旅団、ねえ…)」
最近あちこちで暴れている。盗みに殺しになんでもする集団。さっきの金髪も普通の人を装ってはいるけど周りとは違う雰囲気。違和感程度の微妙なものだけど。
「(ゆあはいい子なんだけどねぇ…)」
念能力者だと知ったときはびっくりした。どうみても普通の女の子だったから。違和感も、不自然さも感じなかった。
しかもあのヒソカと一緒にいるというしゾルディック家の長男とも知り合いだし…。明らかに異常なのにもかかわらずゆあはびっくりするほどに普通の子だった。
「(だから私たちが惹かれるのかもね)」
笑顔で一生懸命に働くゆあをちらりとみてからモアはまた読みかけだった本へと目を落とした。