兄達に
大学受験を控える兄達は何故か祈願そっちのけでお守りを買いに行ってしまい一人で待ちぼうけしていた私は、人混みの中一際目立つ三人組を見付け、その内の一人とうっかり目があってしまった。
「左近君、あけおめ!」
「名前、ことよろ!」
「名前……ということは、奴も来ているのか。チッ」
「落ち着きやれ三成」
「石田先輩、大谷先輩も明けましておめでとうございます」
集団の中でもわかる、茶と赤のメッシュの派手な髪の同級生。二学期の最初に隣の席になってから少し仲良くなった彼は、よく自慢している先輩達と一緒に初詣に来ていたようだった。
「おい名前、家康もいるのか。何処にいる。直ぐにでも斬滅しなくては」
「正月早々なんて物騒な…お兄ちゃんならお守りを買いに行ってますけど、一般の方もいるので止めたほうが」
「イエヤスゥゥゥゥッ!!」
「お兄ちゃんと政宗先輩と慶次先輩と元親先輩及び周りの方々逃げて超逃げて!」
「ヤレ、困ったやつよ」
すぃー、と輿に乗ったまま石田先輩を追いかける大谷先輩。残された私たち。
ほんと石田先輩お兄ちゃん嫌いだよな、とため息をはいた。
「お兄ちゃん達大丈夫かなぁ…」
「どうなってもいいだろ家康なんか」
「左近君も大概お兄ちゃん嫌いだよね!か、仮にお兄ちゃんは慣れてるから大丈夫だとしても、一般の人とかいるからねっ!?」
「そっちはヤバイかもしんないけど…まぁ、刑部様行ってるし大丈夫っしょ、多分。それより名前、待ってる間暇だよな?」
「まあうん…5分経っても帰ってこないし、石田先輩行ったから更に時間かかりそうだし」
「じゃあ、先に御神籤ひいちまおうぜ!あっちの簡易なヤツならそんな並んでないしさ。待ってるだけじゃ暇っしょ?」
確かにそうだ。
この5分間、人波を避けながら待つのがどれほど暇だったことか。「御詣り一緒にしような」とは言われているが「御神籤一緒に引こうな」とは言われてないし、勝手に引いたって別にいいだろう。
「いいよー。100円の安いやつ?それともちょっと高めのやつ?」
「んー、正月だし景気よく高いやつにすっかな!名前は?」
「じゃあ私も高いのにする!」
300円の少し高めの御神籤には、あまり人が並んでなくすぐに買うことができた。
オマケで勾玉のキーホルダーがついた御神籤。私は何となく、お兄ちゃんのイメージカラーの黄色にした。左近君は赤だ。
「…うわっ」
「え?何?何かあった?」
「いや…小吉だった。スゲー微妙」
「いや、大吉よりいいんじゃないかな。大吉逆に縁起が悪いって聞くし」
「そうなのか?」
「うん。何か、『今の状態が最上』、つまり伸び代がないってことになっちゃうんだって。それに比べると小吉なら、左近君の有り様で中吉、大吉って上がる可能性があるからね。まだ下もあるし」
「へぇー…そういう名前のは何?」
「ふっふっふー、聞いて驚け!!…凶です…」
「テンションの落差すげぇな!ってかマジで!?」
「うん。マジマジ。こいつはひでぇや」
凶なんて生まれて始めて見た。大体いつも大吉から小吉、時々末吉みたいな御神籤だったし、お兄ちゃんなんか殆ど大吉だったし。
大丈夫かなあ今年。受験生じゃないだけまだマシだけど、留年したりスゴい病気したりしたらどうしよう。
もんもんと考え混んでいた私の手が、急にガッと掴まれた。相手は当然、左近君だ。
「え?え?何?どうしたの左近君」
「………」
「左近君?」
「…あー、こっちのが早いな!」
「へ、うわっ!」
突然腕を引っ張られて、左近君にギュッと抱き締められた。
ちょ、公衆の面前!ああ数人こっち見てる!何か「リア充爆発しろ」って聞こえる!はずっ!!
「ちょ、ささささささささ左近君!?」
「あんま動くなよ。今俺のツキを名前に移してるから」
「へ?」
「俺の運を名前にお裾分けってやつ!はーいチャージ中ですから動かないでくださいねー」
「ちょ!わばばばば」
「ちょ、慌てすぎ。ブフゥ」
ネットだったら確実に草生やしてそうな台詞にイラッときてちょっと殴りたくなったけど、両腕使えないから出来なくて、左近君の体温になんだか安心してる自分もいて。……ああ、もう。
(…ばか)
こっちの気も知らないで、サラッとこういうことやっちゃうんだから、ずるい。何も考えてなさそうな分、余計にずるいよ。
その後、皆でお詣りしてから、左近君に何をお願いしたの?と聞いたら。
「決まってんだろ?名前が今年一年幸せに過ごせますよーに、だ!あと、…やっぱ何でもねぇ!」
そう答えてそっぽをむく左近君に、御神籤も外れることあるんだなぁって考えた。
だって今私、こんなに幸せだもの。
幸せな一年の幕開け
(で、名前は何願ったわけ?)
(左近君がさっき何て言いかけたのか言ってくれなきゃ教えない)
(え、んじゃやめとく)
(諦めはやっ!)
《俺が名前を幸せに出来るようになんて、言えるわけないっしょ》
《私が左近君を幸せに出来るようになんて、言えるわけないじゃん》
無理矢理甘くしてみた。