4月、時瀬高等学校の入学式が終わって、各教室に新入生は移動した。

「なあー、あれってよ…」
「西中の…」

オリエンテーションで担任が色々説明するが、
それを聞かずして男子生徒たちがコソコソ喋り合う。

「西中の久遠愛の…」
「…なんでこのクラスにいるんだよ」
「去年、警察沙汰の事件を起こした奴だぞ…」

生憎、その男子生徒たちと距離がある為か、そこまで詳しく聞こえなかったが、彼からは丸聞こえだ。

「(……違う、のに…)」

皆が思ってるほど愛は何も悪くないんだ。
だから、愛を馬鹿にするな。
ギュッとスカートをクシャクシャに握り締め、俯いた。

「愛!」

担任の説明が全て終わり皆帰り支度したり、部活動を見に行く人たちで廊下がごった返した。
そんな中、目立つ茶髪に見慣れた背中を発見して、人をかき分けるようにして愛を元へ行った。

「…勇音(いさね)。」
「愛、哲と一緒に帰ろう!そんでさ、ゲーセン行って」
「わりぃ、ちょっと寄るところあるんだ。哲生と先帰ってろ。」

あんまり、あたしの顔を見ないように視線を逸らして苦笑する。

「………ん、わかった。」
「またな!」

どこへ何しに行くのかっていうのが、なんとなく分かってしまった。
きっと"償い"を果たしに行くのだろう。
ぽつんと取り残され、意気消沈気味に校門を抜けた。

「勇音じゃねーか。」
「あ、哲生。」

哲生もちょうど帰りなのか、後ろから声をかけられた。

「テツの家行っていい?漫画の続き読みたい!」
「おう、いいぜ。」

次の日になれば、また三人で悪ふざけしながら帰れると思っていた。

「筝曲部…?」
「おうよ、そこに入部した」

彼は、変わってしまった。
あの事件が起きてから、愛は祖父を弔うかのように筝に熱中していった。
しかも同じ部員の女の子と隣同士で、暇さえあれば筝入門の本を真剣に読んでる。

「……ち、か…」

愛がものすごく遠くにいる気がした。
前まではあんなに近くにずっと隣にいる存在だったのに。
気づけば愛は別の拠所に移ってしまった。

「っ…!」

嫌だ嫌だ嫌だ。
哲も筝曲部の先輩とちょくちょく話してるのを見た。

置いていかないで。

サネ達も気づいたら筝曲部に入部して、愛に借り返しをするためらしい。

一人にしないで。

「――愛の嘘つき」

『ふ、ぁう、うぇっ…ちかぁ、いなく、ならっ、ないっ?』
『俺がずっと一緒にいるから泣くな!!』
『やぐそ、ぐ、…!』

「――約束、したじゃん、バカヤロー」

ギュッと屋上の日陰になってる角で膝を抱え、頭をうずめた。
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