予定外の恋でした。 ― 1
坂下結。
ただ今わたくし、プチピンチに陥っております。
「えーっ?アンタ、白石くん狙いなん?むっちゃ競争率高いやんか!」
「そういう由里こそ、財前くん狙いなんやろ?人の事言えへんやん」
中3の6月。
新しいクラスに段々馴染んできて、仲良しの友達が出来た頃。
突然振りだした雨になす術もなく、雨が小降りになるまで教室で時間を潰そうという事になったウチら仲良し3人組。
放課後の教室で、他に誰も居らんとなると、話題になるのは1つしかない。
……そう、恋バナや。
その恋バナが、後のウチの人生を大きく変える事になろうとは。
この時のウチは、思いもよらなかったんや。
予定外の恋でした。
「「…で、結は?」」
『………えーと、』
突然向けられた矛先に、苦笑いをするしかない。
何故ならば、ウチは生まれてこのかた人を好きになった事がないからや。
他の人の恋バナを聞くのは興味深くてむっちゃ楽しいんやけど、そこはギブアンドテイクの世界。
人の好きな人を聞いておいて、自分だけ「好きな人はいません」なんて言えるハズもなく。
故に、プチピンチ状態なんや。
「結、もしかして謙也くんが好きとか?」
『…は?』
「やっぱそうなん!?せやろな、アンタらむっちゃ仲ええもんなぁ、羨ましいわー」
『ちょ、ちょっと』
謙也っちゅーのは幼馴染みの忍足謙也の事。
家が隣で、物心ついた時からずっと一緒に居った謙也は、巷ではカナリの人気者らしい。
テニス部レギュラーで、明るくひょうきんで、人見知りしない謙也がモテるっちゅーのは確かに頷けるんやけど。
(……ウチからしたら、ただの残念なヘタレなんやけど)
とは言え、ウチにとって一番仲良くて一番近くて一番好きな男子に違いない。
だけどそれは勿論、好きとかそういった恋愛感情じゃない訳で。
「で、どうなん?白状しい!」
そう言って、尚も問い詰める友達'sの目からは、キラキラした期待の念が込められておって、どうやら異論は認めてくれない様子。
別に好きとかちゃうけど。
でも“好きな人いません”なんて言えへんし。
……ん〜〜〜〜。
そこで、ウチは一大決心をしたんや。
『そ…そうやねん。ウチ、ずっと…け、謙也の事が…好き、やってん』
嘘をついてもうたと言う背徳感故に、俯きがちに答えると、それをいわゆる“照れ”と受け取ったらしい。
目の前の友人二人は「きゃー!」と言いながら、純粋に喜んでおった。
「そうとなれば、お互い協力していこうな!」
「せやな!夏に向けて一歩でも好きな人に近づくんや!」
『お…おー!』
とまあ、こんな風に適当に応えて何とかやり過ごす。
まぁこの子らが周りに謙也の事好きとかバラす事しないやろうし。
このまま何となく冷めたって流れにすればええか。
ごめん、謙也。
勝手に名前を挙げさせてもろたでー。
そんなこんなで話は誰と誰が付き合ってるとか、誰々が白石くんに告白したとか、そんな話に移っていって、ウチも謙也の事をすっかり忘れてその話に加わっていった。
けど、この時ウチは既に失敗しててん。
この時、ウチは…ウチらは気付いてなかったんや。
この一連の会話を、謙也に聞かれてたっちゅー事を。
(これが、離れていくきっかけ)
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