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ニーナがマリンフォードの港に着く頃、軍艦へ向かうその背を見送る視線はかなりの数になっていた。

「あれ?クザンが来るんですか?」
「うん。ほら、一応ね。ニーナちゃんの実力的に、俺が監視だって」

軍艦のタラップの前で何時ものダラッとした姿勢のノッポな影を見付け、ニーナは首を傾げた。
海軍大将まで動かすことになるとは。護送一つで随分と迷惑を掛けてしまったようだ。

センゴクの額に浮かんでるだろう青筋に、ニーナはフルリと少し寒気を覚える。

「あらら、今更怖くなった?」
「別に、インペルダウンが怖い訳じゃないんですけど」
「あ、そう。まあ、死にゃしないだろうけど、ね」

チラリと視線を投げて来るクザンの表情は、とても複雑そうだ。
まあ、ニーナも自分が大監獄(インペルダウン)に入れられて無傷で出てこれるとは思ってない。けれどそれも承知済みである。

「ああ、うん。まあ、そのなんだ…… んじゃそろそろ、ニーナちゃん。行こうか」

明らかに気乗りしていない様子のクザンに続いてニーナがタラップを踏んだ瞬間。

『ニーナ嬢〜〜〜〜!!』

悲痛な声にビクリとニーナも思わず驚いて振り返る。すると、遠くから見送る大勢の海兵達。

『お早いお帰りを、お待ちしてます!』

涙ながらに訴える彼ら。海賊相手に無事を祈る海兵に、クザンはポリポリと頭を掻き、モモンガは頭を抱えた。

そして当のニーナといえば、思わぬ暖かな言葉に、自然と頬が緩む。そのまま満面の笑みで手を思い切り振った。枷が着いたままの腕は重いが、それでもニーナは普段の調子で朗らかに笑って見せる。

その姿に当然、海兵達の涙の量は増えたのだった。


***


大監獄(インペルダウン)へ向けて、タライ海流に乗った軍艦の甲板で、ニーナは船首近くの甲板に立っていた。

クザンには中に居る様勧められたが、ここで風を感じている方が落ち着くと断った。

フワリ、と髪を梳く風にニーナは自然と口元を緩める。
向かうのは大監獄(インペルダウン)。この世の地獄と称される場所の噂くらい、ニーナも知っている。

今後に思いを馳せながら、ニーナは背筋を伸ばしながらゆっくりと目を閉じた。


***


数時間で到着した、海軍が誇る海賊達の末路。
海底へと続く監獄の入り口が視界に入り、護送の任についていた海兵達は一様に生唾を飲み込んだ。

周りを固く守る軍艦の列が異様な空気を生んでいる。それに気圧されてか、護送用の軍艦からニーナを見送っている海兵達も、黙り込んでいた。

獄内まで同行することになっているクザンの後ろを歩きながら、ニーナはボソリと呟いた。

「でもこれ、地上まで出れば私なら脱獄出来そうですね」
「……ニーナちゃんさぁ」
「冗談ですよ」

ケロリと言ってみせるがクザンの微妙な表情は治らない。

「でも脱獄者を“金獅子”以外一人も出してないっていうのは、何となく頷けますね。流石、海底監獄」
「まあ、政府が誇る大監獄だからね。ほら。そろそろお喋りは終わりだよ」

正面入口の扉が近付き、ニーナも口元を引き締める。
凛と顔を上げ背筋を伸ばせば、その腕を拘束する手錠がジャラリと音を鳴らした。

その姿を確認した署員達によって、インペルダウンの地獄へと続く固い扉が開かれた。

「わ、か……か…かわい…イヤ、開門!」
「全開!可憐さ全開!」

何やら騒ぐ所員達にニーナが首を傾げれば、更にざわつきが増す。

「あれ、何の儀式ですかね?」
「………まあ、気にしなくていいんじゃないの」

彼等の真意を計りかねたニーナが問えば、クザンは徐に視線を逸らした。
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