38

快晴の空にカモメが遠くで鳴いている。その声に応えるように、カモメとMARINEの文字の載った旗も揺れていた。

「今度こそ、本当に良いんですね?」

少し不機嫌さを表す顔で、ニーナが小舟の上から確認すれば見送りに来ていたクザンが頷いた。
実はボルサリーノも行こうかと提案していたのだが、昨日思い切り理不尽な苛立ちをぶつけられたニーナは、怯えてそれを断っていた。

「だから、今度こそ大丈夫だって。でもちゃんと連絡はしてよォ」
「解ってますってば。じゃあ、半月後に戻ります」

そう言って今度こそ出航した小舟は、タツタツの能力に押されながらマリンフォードから滑る様に離れて行った。



***


同じ頃、ここは海軍本部の一角。人目に着き難いその場所で、何時もの如く後ろ暗い取引が行われていた。

「さあ、買った買った。ニーナ嬢のドレス姿。なっかなかお目にかかれないぞ」

簡要な商品棚に並べられた写真には、パーティーの夜のドレスを纏ったニーナの姿。しかも、照れた様に笑ったり、頬を染めたりしている様子に、海兵からは商品への注文が殺到していた。

「ベストアングル五枚セット。今なら四百ベリーだよ。更にドアップ写真も付けて、四百三十ベリー!」

パンと鳴ったハリセンに、若い海兵達が一斉に駆け寄る。

「買った!五枚セット三つくれ」
「おい、押すなって。こっちはアップ写真二枚だ」
「くぅぅ可愛い。でもこの間ヒナ嬢シリーズ揃えたばっかで金が……」

大変な盛況であるが、最近は新たな客層も増えている。

写真家アタッチから預かった品を懐に、海軍本部内を駆け回る海兵が一人。

駆け足で目当ての人物を探していれば、訓練兵の指導を終えたばかりの様で稽古場から出てくる所であった。

「モモンガ中将!」

自分の姿にこれが何を意味するか正確に理解したらしく、とても気まずそうな顔を見せた海軍将校。

「またお前か」
「はい。また新しいのが出まして。しかも今度のは貴重ですよ」

スッと取り出したその品々に、目の前のモモンガは傍目にも解る程動揺を見せる。

「ニーナ嬢のドレス姿。しかもアップから全体像まで各種取り揃え。タイトルは『夜の海に映えるドレスのニーナ嬢』。今なら五枚セットが九百ベリー。可憐に振り返る瞬間の後ろ姿ベストショットもお付けして、なんと千五百ベリー!」

如何ですか?と海兵が差し出せば、見るからに肩を震わせるモモンガ。己の理性と欲望との葛藤が続くが、その結果は既に海兵も解っている。



新たな売り上げ金を握りしめながら、若い海兵は次なる将校を探していた。次の狙い目はステンレス中将か、ストロベリー中将だと予想を付ける。

値段が若干割り増しのこれは、己の身分を憚って売り場へと足を伸ばせない、彼等のプライドの代金である。




***



「おぉー。今度こそ、行っちゃいましたねぇ」

センゴクの執務室のソファで寛ぐボルサリーノが、長い足を組み直しながらぼやいた。

「まあ、危険は無いと、一応は政府共も様子見を決定したみたいだしね。何はともあれ、よく切り抜けたよ。あの娘も」

やれやれ、とつるがため息を吐けば横から豪快な笑いが響く。

「ぶわっははは!まったく中々芸達者で、毎度の事ながら驚かせてくれるわい。これでまあ、暫くは何も起こらんじゃろ……… 暫くは、な」

ガープのバリッと煎餅を齧る音に、周りの緊張が高まる。また一枚、袋から取り出した煎餅を眺めながらガープは続けた。

「取り敢えず、あの娘の扱い方は大体決まった。だが今後どうなるか…… 古代神器の力を管理出来たと高を括って良いもんか。それに所詮は海賊。何時政府に牙をむくか」
「そこまで馬鹿な真似をする様な娘じゃないだろう。自分が何であるか、自覚もある」

首を振るつるがガープの言葉を切った。

「その気なら、あの娘一人でこの海軍本部から逃げ出す力もあるんだ。そうしないのは、本人が言う様にその力を把握していない事を重くみているのか。それとも何か思惑でもあるのか。アタシは、前者に賭けるね」
「おぉー。ホント、可愛くないですよねぇ〜。いっそ海軍が嫌いって喚いてくれたら、こっちもやりやすいのに」
「ボルサリーノ。あの娘が見送りを断ったからって、拗ねるんじゃないよ」
「ンン。別にそういう訳じゃ……って、適わんねぇ、おつるさんには」

そんな会話が成される場に、扉の方から入室を問うノックの音が響く。センゴクが許可を出せば、頭をポリポリと掻くクザンが現れた。

「行っちまいましたよ。今度は呼び戻すなって、釘刺されちゃいました」
「ぶわはは。まあ、当然じゃろうな」
「んで、政府の上層部は?何か言ってきましたか」

クザンが問えば、センゴクが先ほど届いた政府からの連絡をそのまま伝える。

「様子見だ。一応身柄の保護はこちらに任せると言って来た」
「あらら。そりゃ、幸先良いんじゃない?一応、海軍とすぐに事を構える積もりはないんだろうし」
「やはり、そうなるな」

結局行き着く結論はそこだ。互いに様子見。妥協し合って出した一つの答え。

それが何時まで続くのか、解らないが。
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