35

パーティーに到着してから暫し、センゴクのエスコートに付き添っていたニーナは、一時間程経った頃に漸く腕を離した。

それまで絶え間なく群がって来た政府関係者や貴族の波が引いた隙に、壁近くの目立たぬ場所へ移動する。


その間に、引いたと思った人の波が、またもやセンゴクに押し寄せていた。
彼等の狙いは、滅多にこういった場に現れない海軍元帥だ。ニーナの事は知らされていないだろう彼等にしてみれば、誰ともしらない少女よりも、海軍のトップの方が重要だった様子。

これは予想内の事だ。だからこそ、ニーナはセンゴクから離れず、主にこちらを遠巻きに伺ってくる連中にアピールを込めて、友好的に腕を添えたまま耐えた。

それから漸く解放されたところで今一度、ニーナは会場をじっくり見回してみた。


「……役人、貴族…… 天竜人まで。私達海賊が集めた財宝が、捕まれば最後、こんな所に消えてるんですねぇ」
「まあ、言いたい事は解るけどね。でも、その分ニーナちゃんも楽しんでるじゃない」

派手で煌びやかな内装や貴族の指に乗った大きな宝石を眺めながらニーナが呟けば、その手に持たれる目一杯のアイスクリームが乗った皿を指差しながらクザンが苦笑した。

それにニーナが、ニッと少し気を許した笑みを返せば苦笑したクザンだが、話はそこまでで、次には誰かに声を掛けられそちらへ行ってしまった。
海軍大将ともなれば、やはり色々な人間に呼ばれるのは仕方ないだろう。

それを追う事はせず、ニーナは別に気になるものを見つける。

「あ、ストロベリーさんのごま団子、美味しそう。何処にあったんですか?」
「ああ、これか。向こうにあったものだが。いるか?」
「いいんですか?嬉しい」

少し離れた場所で固まっている中将達に近寄り、会話に混ざる。一人でぼんやりしているよりも、この方が気楽だ。

「ニーナ。中々似合ってるぞ」
「ありがとうございます。ヤマカジさんも、かっこいいですよ。スーツ新調されましたね」

「普段からそれくらいしおらしくしてたらどうなんだ?」
「ステンレスさん。センゴクさんにも同じ事言われましたよ」

数人の中将と会話を楽しんでいるが、決して普段の弾けた様な笑みはない。あくまで淑やかに、それこそセンゴクが言った様にしおらしく、だ。

それに中将達も不必要に突っ込むことはせず、落ち着いた会話で時間を過ごしていた。

すると、フッと近付く気配。うん?と首だけ反らせば、頭を上からやんわりと押さえつけられる。

「ちょっとニーナちゃん動かないで」
「クザン?どうかしましたか」
「ん、んん?意外と難しいなこれ…… ほい。出来た」
「えっ?これって」

結い上げた髪に何かを挿されたようだというのを感じ取り、手でそっと確認すれば指先に当るやわらかい感触。

「……花?」
「そこら辺に生けてある奴で悪いけど、ちょっとしたプレゼント。似合ってるよ」
「クス、ありがとうございます。クザン」

はにかんだ様な笑みを向ければ、いいよ、とクザンの相変わらずの柔らかい表情。胸がくすぐられる様な感覚に、若干のむず痒さも覚えるが。

ニヘッ、とニーナが頬を緩めれば、目の前の中将達も少し口角を上げてそれを見守る。
穏やかな、ほんの一時。


が、次の瞬間、その場の空気がピシリと固まった。

「フッフッフ。おいおい、青キジ。少し手荒にすれば潰れちまう花なんか、いらねえだろう」

避ける間もなく、耳元に届くグシャリという音と床に舞い落ちる花弁。

「どんな時でも、同じ表情しか浮かべられねえ、何色にも染まらねえ。その女には、操られ造られた造花で十分だ」

花を握り潰されたのだ、とニーナが気付いた時にはその影の気配が更に近付いていて、髪を軽く引かれる感触。
そのままクザンの挿した花よりもよほど大きく鮮やかな、しかし作り物である造花がその場所を取る。

ハッとした瞬間には無意識の内に手が出ていた。

「造花に、棘は無いと思うけど。ドフラミンゴ」
「……フッフッフ。相変わらず、小生意気な女だ」

肉眼では捉えられないほどの早さで突き出された手刀が目前に迫った瞬間、男は首を逸らしたが指先がその頬を掠める。
擦った肌が微かに赤い線を描いたがそれは気にせず、唐突に現れた男、ドンキホーテ・ドフラミンゴは不敵に笑ってみせた。
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