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「いいか。何度も言うが」
「……何度も聞きました」

昨日から同じ台詞を数えるのすら嫌になるほど聞かされていた為か、そんな台詞がボソリと出たニーナに、センゴクは再び歯を剥いた。

「いいか!!何度も言うが、半月だ。半月で戻れ。三日に一度はクザンにでも報告をしろ。暴れるな、騒ぎを起こすな、問題になるな。いいか、間違っても世間に存在がバレる様な行為はするな…… って、聞いとるのか貴様ぁ!」
「聞いてます。さっきも聞きました。もう、大丈夫ですってば。エヘへ」
「そうやって大事な話の最中にニヤケるな!」

そうはいっても、嬉しいのだから仕方ない。三ヶ月の約束期間、将校達の遠征に同行したニーナに漸く、本部から解放の許しが出たのだ。

といっても、それにも半月という期限がついているが、それでも喜ばしいことに変わりない。

「大丈夫ですよ、センゴクさん。ちゃんと、出来る限り、大人しくしてますから」
「なんだその“出来る限り”という部分は?」
「それじゃあ、行ってきます!」

ペコリと一礼したあと、踵を返して嬉しそうに部屋を出て行くニーナに、センゴクは大きなため息と同時に頭を抱えた。





心なしか歩調が軽いニーナが廊下をスキップでもしそうな調子で急いでいれば、廊下の先に待ち構える様にして立つ人物。

「あらら、嬉しそうだねぇニーナちゃん」
「それはそうですよ」

クザン、とその名を呼んで足を止めれば、背を凭れる壁から離れ向き直る海軍大将。

「まあ、解らなくもないけどねえ。それより、これ持ってきな」
「えっ?こ、これって…… お菓子?に果物?」
「まあ、あんまり多くても困るだろうけど。オヤツにでも食べなさいよ」
「って言っても、凄い量ですね…… クス、ありがとうございます」

両手に袋一杯のそれを渡され、零れ出そうになる林檎を必死に受け止めながらニーナは礼を述べた。かなりの量だが、それを背負ったリュックへ無理やり詰め込む。

「あ、それとはい。俺の電伝虫の番号」
「解りました。三日に一度はきちんと定期連絡しますね」
「別に何時でも、寂しくなったりした時に掛けてくれてもいいんだよ」
「でも定期に連絡しなきゃいけないことに変わりありませんし」
「……やっぱり解ってねえな、こりゃ」

少し呆れた口調のクザンに、ニーナは首を傾げるが、それ以上の反応は返ってこなかった。



クザンに見送られて再び廊下を進めば、今度は黄色の上着が視界に映った。

「オー、ニーナちゃん。嬉しそうだねぇ」
「……さっきクザンにも同じ事言われたんですけど、そんなに顔に出てますか?」
「うん。出てるねえ。この辺が緩んでるよ」
「ひょ、ヒャヒヒュルンヒェフハ(ちょ、なにするんですか)」

頬を軽く引っ張られてニーナはバタバタと暴れる。そこで漸く手を離したボルサリーノがその懐に手を伸ばし、小袋を一つ取り出した。

「それでねぇ、これ持ってくといいよ〜」
「はい?なんですかこれ」
「んんン、ちょっとしたお小遣い。今ニーナちゃん一文無しだし、必要でしょ」
「お、お小遣い、ですか?…… ちょっ!?な、なんですかこれ?駄目です、無理です!戴けませんよ。こんなおっきい宝石が何個も」
「オー、じゃあねえ。気をつけるんだよ」
「ちょっと、ボルサリーノさん!駄目ですってば。返します。返却です!」
「いらなかったら捨てていいよ〜」

そう言って無理矢理手に握らされた袋と、その中の重みに、ニーナはどうしよう、と顔を青くする。

確かに、金銭は入用だし、今自分が一文無しなのも事実だ。けれど、それは航海中に出くわした海賊から頂戴することも出来たし。なによりこんな大金要らない。


「本当に、こんなに沢山戴けません」

懸命に腕を突き出して返そうとする。すると、漸く諦めてくれたのか、はぁっとため息が聞こえた。

「んんン?仕方無いね。じゃあ、海にでも捨てようか」
「へっ?えええええ!」

そう言ってボルサリーノは本当にニーナが返した袋を窓の外へ放り投げた。

慌てて窓の外に飛び出してそれをキャッチしたニーナだが、あまりの出来事に窓枠から廊下に戻りながらボルサリーノに思わず詰め寄る。

「な、何するんですか?」
「だって、ニーナちゃんが要らないなら、わっしだって要らないし。要らないものは捨てるのが普通だろう〜」

こういう時、ボルサリーノはこちらが首を縦に振るまでどんな手でも尽くしてくることを、ニーナはとても良く知っている。

「…………あ、ありがたく。大切に。ちょっとずつ。慎重に。使わせていただきます。どうも、ありがとうございます」
「うんうん。素直ないい子は好きだよ〜」

ニコリと頭を撫でてくるボルサリーノに、ニーナは思い切り苦笑いが漏れた。
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