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海軍本部内で、何の手掛かりも掴めないまま、クザンは苦虫を噛み潰した様な顔で舌打した。
「やっぱり、戻ってねえか」
「見事に消えたもんだねえ〜。何処行ったのやら」
「本当に、逃げたんだと思うか……」
「さあねぇ。そうじゃなければ、と祈るしか……ないよぉ〜」
横で上へ下への大騒ぎを繰り返す海兵達を尻目に、二人は一度センゴクの元へ確認に行った。が、やはりここでも進展は無い。
「これで逃げられたら、今度こそ……」
「まあまあ、センゴクさん。そう怒らないで。もしもの時は、俺が連れ戻しますから」
「そういう問題では無い!お前は、あれが下手をすれば世界を滅ぼせる力があると理解しとるのか!それが、多少素直で明るい娘だから、と甘くみれば……… なんだその笑いは」
「おっと、いけねえ」
思わず肩を揺らしたクザンが、もう手遅れではあるが顔を逸らす。それを代弁するかの様に、ガープが大声を上げて笑った。
「ぶわはははは!やっぱりお前も認めてるじゃないか。政府の研究所送りにはしないわ、鎖は解くわ。なんだかんだ言って、一番甘やかしとる男がよく言うわ」
「その結果がこれだ。すぐに見付け出し、今度こそインペルダウンにでも……」
そこまで言った所で唐突に開いた部屋の扉に、全員の視線が集まる。
するとそこには、普段と同じく厳しい表情のサカズキが、何かを腕に抱えて入ってきた。
「赤犬?…… 見つかったのか」
サカズキが抱える、己の上着で覆われたそこから僅かに覗いた足と腕に、センゴクが立ち上がる。
横抱きにされているらしいニーナに、クザンが安堵と共に近づく。
「ああ、よかったぁ。ちゃんと居るじゃない。ニーナちゃん」
「煩い。娘が起きる」
「……寝てるのか?」
言われてよく見れば、上着がもっこり膨らんだ部分が、規則正しく上下している。
「島の裏の方で昼寝しとった」
「ひ、昼寝だと…… ? こんな状況で、あり得ないだろう」
「………寝ておりました」
「赤犬」
問い詰めようとするセンゴクに、サカズキはそう言い切った。厳格な彼が必要な報告を怠るとはあまり思えない。しかも、海賊を庇うなどはしないだろう。
寝ていた、というのが怪しいのは百も承知だが、赤犬がこう言うなら少なくとも、問題視する様な事態ではなかったのだろう。
「なら、部屋に放り込んでおきます」
「あ、ああ……」
そう言ったサカズキがニーナを抱いたまま踵を返す様を、センゴクは心底疲れた言わんばかりに脱力しながら深くため息を吐いて見送った。