01



「船長ーー!!」

轟音に包まれながら、燃え上がるのは一隻の船。その帆を飾っていた髑髏の象徴は、既に炎に包まれ姿を消している。

「イヤだ、イヤだよお!船長、皆。船長……船長ぉぉぉ!」

炎に包まれる船を囲む様に並んだ大量の軍艦。小舟一隻、小鳥一羽も逃さない、とばかりにズラリと並んだそれらの一隻に、まだ女と呼ぶには僅かに至らない、子供の域を出たばかりという歳の少女が、大男三人に取り押さえられていた。

手にも足にも、そして首にも嵌められた海楼石で声を出すのすら辛い筈なのに、少女は叫び手を伸ばす事を止めない。

その瞳にはつい先ほど別れた男の、最期を悟りながらも笑ってみせた顔が、未だに焼き付いている。

「例の少女は捕らえた。直ちに、本部へ護送する」
「ハッ!モモンガ中将」

白い軍服を着た海兵達によって、少女と燃え盛る船の距離が開く。

「イヤだああああ!」

虚しく響き渡る泣き声に、何時もなら笑って頭を撫でてくれた仲間達は、炎の中に包まれていた。




***



遠くでカモメの鳴く声がする。微睡みを邪魔するそれを煩わしく思って寝返りを打てば、今度は何かに肩を揺らされた。

「……嬢、ニーナ嬢。起きて下さいってば」
「う、うーん……」

もう少し寝ていたいとも思うが、久しぶりに見た夢から醒めたいと無意識に脳が働いたのか、ニーナは瞼をこじ開け、自分を心配そうに見詰める海兵の顔を見た。

「コビー君?」
「大丈夫ですか。なんだか魘されてましたけど」

ふわっ、と大きな欠伸をしながら、ニーナは首を廻して昼時に賑わう海軍食堂を見渡した。途端、サラリと長い黒髪が首筋を伝い落ちて背中に広がる。

「……ああ、起こしてくれてありがとう。可笑しいなあ、久しぶりにここのアイス食べてた筈なんだけど」
「それより、モモンガ中将達が探してましたよ。本部には着いてる筈なのに、元帥の執務室に顔を出さないって」
「海賊は自由なモノなんです。まずはここでアイスを食べて、ちょっとおつるさんとガープさんの所にお土産渡してから、センゴクさんに会おうと思ってたのに」

舌を出しながら、目の前で既に溶けたアイスを弄べば、隣の少年海兵から苦笑が漏れる。

「そんなこと言ってると……」
「こらあ、ニーナ!!」

ドカン!と食堂の扉が開けば、モモンガ、ドーベルマン、キャンサーといった、海軍本部中将が怒り顔で入って来た。

「ヤバッ!」
「逃げるなぁ」
「海賊が海軍から逃げるのは当然ですよぉ、だっ!」

剃(ソル)で攻撃を仕掛けてくる中将達を、それでも余裕げにヒラリと躱し、挙げ句の果てにはその頭を踏み台に舌を出しながら食堂から逃げ失せてしまった。


ああ、始まった。と食堂に居た海兵達は、逃げたニーナの後を追って飛び出す中将達を見送りながら苦笑いをこぼす。

今となっては海軍本部名物と言っても過言では無い。海軍本部将校と、海賊ニーナとの追いかけっこ。

さて、今日はどうなることか、と賭けに興じる者達まで居る。

「今日も中将達が疲れ果ててギブアップでニーナ嬢の勝ちじゃないか?」
「その前に、またつる中将の仲裁が入るんじゃ?」
「いや、ガープ中将のゲンコツだ」
「それよりも、センゴク元帥の怒声放送の方が早いと思うぞ」
「そんなこといって、また黄猿大将との喧嘩にならなきゃいいが」

けれど誰もが微笑みながら逃げた彼女を見送る。外で何発か大砲の音が響いた気もしたが、それも今となっては笑いを誘う種でしかない。


海軍本部を駆け巡り逃げ回る海賊の女。異質である筈のその事態を構うことをしない程、その存在は馴染んでいた。

世界政府に認められ容認される唯一の海賊としての称号、七武海。その、影の八人目に五年前から君臨する女海賊と、海軍達の日常である。
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