15

一旦は終結を迎えた様に見えたニーナとフルボディの勝負だが、フルボディは認めなかった。次の日も、散歩がてらなんとなく同じ時間に訓練場に寄ったニーナを、フルボディが見つけるなり再び始まる組手。

その度に増えていく可愛らしい絆創膏に、フルボディも顔を真っ赤にする。

それに触発されたのか、周りからもフルボディを助太刀する声が上がった。
流石に少女に負けっぱなしでは海兵のプライドが許さないのか。けれど……

「また私の勝ち!」
「くっそおおお」
「はい、これ。足、怪我してますよ」

何時の間にかニーナに敗れた残念章と化している、動物や星が載った可愛い絆創膏。頬や腕にニーナとの組手の証であるそれを着けた海兵が、三日目辺りから目立ってくる。



今もペタリと頬に貼られた分を多少不快に思いながら、仕方ないと漏らしている戦闘丸という少年に、ニーナはニコリと笑いかけた。
特に、正規の海兵ではないし海賊に因縁もない、と言った彼とは打ち解けるのも早かった。

「一体、どれだけ持ってるんだ?」
「元々持ち歩くのが習慣だったんだけどね。欲しいって言ったらクザンもボルサリーノさんも、おつるさんまで大量にくれて…… 戦闘丸君、猿が似合ってるよ。可愛い」

途端に微妙な顔をされる。

そろそろ出歩きの許可が下りるだろうと言われた頃、何か入り用では無いかと聞かれて応急用の絆創膏、と頼めばクザンが真っ先に用意してくれたのが、猫と犬の柄のそれだ。可愛いと喜べば途端にボルサリーノが、カエルやら星やらの柄を揃えてくれた。

「あの大将達がか? わいには想像出来ねえよ」
「そう?」

小首を傾げれば途端に目の前に迫る鉞。
けれど、それは危な気もなく躱される。

「チッ!」
「ほらほら、行くぞぉ」
「来い!わいのガードは世界一…… グッ」
「正直に降参って言ったら?」
「わいは口の堅さも世界一だぜ。例え思ってもそう簡単に……」
「でも本当は?」
「敵わん!……… あ、今のはお前を油断させる為に言ったんだ」

そういう戦闘丸の姿に思わず可愛いと思ったニーナは、トンっと戦闘丸の振り回す鉞を足場に宙に躍り出る。

「いけえ、ニーナ嬢!」
「そっちだ、右、右」

集まったギャラリーから湧き上がる歓声。ニーナと海兵の軽い組手が続いて一週間もすれば、ニーナ嬢の称も馴染み始める。

「これで、お・わ・り」
「グヘェ!」

振り下ろされた踵が頭に決まるのと、戦闘丸が白目を向くのとは同時だった。

「次はどうします?」
「あ、俺等が行きます!」

手を挙げる若い海兵に続き、場に降り立つ数人。下級将校やそれ以下の実力では到底勝てず、数人がかりで挑む事も、五日目辺りから増えた。
それでも、彼女の蹴りを食らう人数が増えるだけで、殆ど意味は無いが。

訓練後に腕試しを、と息巻く海兵達を次々と撃沈させていくニーナに、再び歓声が上がる。始めこそ海賊という立場をどう扱えば良いのか戸惑われたが、ニーナ自身が海賊に遠慮無用、と明るく笑ってみせた。

それに、素直に可愛いと言わせる容姿に素直な性格。親しみやすさから、その姿が馴染み始めたのは、不思議ではないだろう。



***



「こらあ!貴様らぁ」
「あ、モ、モモンガ中将殿!!」

突然響き渡った怒声に振り返れば、青筋を立てたモモンガがその場に立っていた。

「海賊相手に何をしとる!しかも、応援までしおって」
「待って下さい」

モモンガの怒り具合から、もしやこれは拙い状況では、と察したニーナが前へ進み出た。

「私が始めた事です」
「お前は…… そもそも、何故お前がここに居る」
「センゴクさんの許可は貰ってます。たまたまここに来たので、彼等の訓練に私が無理に乱入しただけです」
「そんな言い訳が通用するか。もういい。お前は部屋へ戻れ」
「嫌です。納得して戴くまで、私は動きません!」

キッと強気に目を釣り上げて対峙するニーナとモモンガ。その様子を周りの海兵が全員息を飲んで見守れば、やがてニーナが何かを思い付いた様に瞳を輝かせた。

「じゃあ、勝負で決めましょう」
「はっ?」
「私が負けたら、モモンガさんに従います。でも、私が勝ったらここはお咎め無しにして下さい。序でに、これからも私がここに顔出すのも許して下さい」
「な、何を勝手な……」
「だって、ここはグランドライン。力あるものがその時を征する海ですもん」
「海軍ではそんな理に適わぬ事はしない!」
「私は海賊です。海賊と海軍が衝突したら、力で決着つけるのは道理じゃないですか」

まるで正論の様に聞こえるが、実際はメチャクチャだ。けれどモモンガが何を言う前にニーナが追い打ちを掛けた。

「なんですか。小娘相手に勝つ自信が無いんですか?」
「き、貴様…… 」

ギリリと奥歯を噛んだ表情を了承と受け取り、ニコリとニーナが笑いかけた途端、ガキンッと鋭い音が訓練場に響いた。
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