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目の前で他の海兵達が訓練を続ける中、端のベンチに座ったフルボディは茶の水筒を飲みながら話を続けた。

「んで、お前何処の所属だ?」
「………これ言ったら怒られるし嫌われるから、嫌なんですけど」
「なんだ、なんかあるのか?」
「えっと…… 私、海賊なんです。海軍じゃありません」
「はあああ!?」

ブゥッと飲んでいたお茶を盛大に吹き出しながら驚愕に目を見開く。

「冗談にしても笑えないぞ」
「本当です。海賊、パスカル・ニーナって言います。どうぞ宜しく」
「まさか、今噂の、なんか訳ありで海軍本部に拘束されてる女海賊って。もしかしなくて、お前かぁ!?」
「ええ、噂になってたんですか?全然知らなかった」

ズザッとフルボディは後退した。まさか相手が海賊だったとは。その見事な戦闘スタイルに感心などしてしまった自分に、顔を青くする。
すると途端にニーナは不満そうに唇を尖らせた。

「やっぱり。だから言いたくなかったのに」
「な、なんで外に出てるんだ!そうだ、脱獄したのか?」
「違います。センゴクさんに許可貰ってますもん」
「げ、元帥ぃぃ」

益々顔を青くさせるフルボディ。腰を抜かした男の様子に周りの海兵が騒ぎ出す。が、ニーナは気にせず、久々に体を動かす口実があるのだから、ここで終わるなど勿体無い、とフルボディに向き直った。

「それで、どうします?フルボディさん。近々昇格が決定の海軍中尉さんは、海賊に負けたまま降参しますか?」
「なんだと!?この俺が、海賊なんぞに負けたままな筈が無いだろう!もう一回勝負だ」
「そうこなくっちゃ!」

にぃっとニーナが笑えば、二人は立ち上がり訓練場の真ん中を目指した。



***



「十戦十勝!」
「……グヘェ」

小一時間後には、楽しげに笑うニーナと、ボロボロで顔だけでなく、身体中猫や犬のつぶらな瞳が可愛い絆創膏で一杯のフルボディ。

遠巻きにそれを眺めていた海兵達も、どうしたら良いのか解らない。

「まふぁ、まふぁふぁぁ(まだ、まだだぁ)……」
「何言ってるのか解らない」

ヘロヘロのフルボディは、言葉すらまともに発せない状態だ。にも関わらず、果敢に立ち向かってくる。それを、ニーナがまた喜んで迎え撃つのだ。

とはいえ、さすがに限界だったのだろう。最後に振りかぶった拳が躱されるのと同時にフルボディは地面に沈んだ。
ああ、やりすぎたか。と若干反省しながら、ニーナは動かないフルボディを担ぎ上げる。

「ヒュヒュヒュ、ホレフェファッファフォフォフォフファフォ〜 (フフフ、これで勝ったと思うなよぉ〜)」
「なんとなく分かった。勝ったと思うなって、私の勝ちでしょ?取り敢えず…… すみませ〜ん。医療部ってどっちですか?」

何時の間にか噂を聞きつけたのか、集まったギャラリーに尋ねれば、おずおずといった様子で数人が方向を指し示す。

「あ、いえ。あっち、ですけど……」
「ありがとうございます!」

ニコニコと笑顔で礼を述べたニーナと、少女に担ぎ上げられたまま目を回すフルボディを、海兵達は互いに顔を見合わせながら見送った。
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