時は限りなく | ナノ


07

ギンの決死の覚悟とは裏腹に、それを向けられたサンジもルフィも涼しい顔だ。ルフィなどは更に、クリーク海賊団の神経を逆撫でするようなことを平気な顔で口にする。

「別に。おれはお前らみてェな弱虫には敗けねェから」

途端に飛び交う怒声。まだ海賊として新参らしい少年に弱虫などと言われれば、東の海(イーストブルー)最強を自称する彼らが怒るのも当然だろう。

が、怒り狂う海賊団を他所に、ルフィは核心を突く言葉でトドメを刺す。

「一番人数が多かっただけじゃねえの?」
「!!!?」

「あーあー核ついちまったよ」
「やっぱりか」

いやいや、とニーナは思わず漏れそうになる笑いを必死に押し殺す。そういう本当の事は、特に大人には、言わない方が良いのでは。とも思うが、面白いことには変わりない。

ニーナが必死に笑いを堪えていると、今度はクリークがニヤリと不敵に笑いながら口を開いた。

「なァ小僧、てめェとおれとどっちが“海賊王の器だと思う…?」
「おれ」

間髪いれずに答えたルフィ。

「プックク」

今度はニーナも耐えきれずに吹き出してしまった。
が、クリークは、当然だが、面白いとは思わなかったようだ。

「よォし。どいてろ野郎ども」
「っ!!まさか……」
「その夢見がちな小僧に、『強さ』とはどういうモンかを教えてやる」
「エ、“MH5”っ!!!」

クリークが立ち上がり大きな盾を構えると同時に、海賊達に動揺が広がっていく。それが毒ガス弾だと言われれば、その慌てぶりも納得できる。その一息吸えば全身の自由を奪う猛毒をクリークが派手に撃ちはなった。

それを叩き落そうとルフィが飛びかかるが

「えっ?」

途端に炸裂したのは毒ガスではなく、無数の手裏剣。飛んできたその一つをニーナも手で弾き返すが、目の前でそれを食らったルフィは肩を切りつけられていた。

「ダマし撃ちだ!」
「貴重な毒ガス弾だ…… たかだか2匹のゴミを殺るのに使うまでもあるまい」

そういって笑うクリーク。元々、正々堂々戦うタイプには見えなかったが。
汚い手だ、とニーナが思わず眉を顰めたが、それを食らったルフィはケロリとしていた。

「なるほど一本とられた」
「……さァ言ってみろ。おれかお前か、どっちが海賊王の器だ!」
「おれ!お前ムリ!」

肩から血を流しながら、それでも自信満々に、少しの疑いもなくそう言い放ったルフィ。
それまで余裕げだったクリークも、さすがにしびれを切らしたのか。ルフィを自らの手で葬ると宣言した。


サンジとギン、ルフィとクリーク。それぞれが一歩も譲らんと向き合った。

「……いくぞ!」

先に動き出したのはギンとサンジ。トンファを回しながら向かっていくギンをサンジが咄嗟に躱す。が、それ以上の俊敏な動きで、“鬼人”の異名を名乗ったギンが、サンジをあっというまに押さえ込んでいた。

サンジは咄嗟にギンの隙を突いて抜け出すが、お互いに繰り出した一撃の差は大きい。

彼を下っ端と呼んだサンジがどう思っていたかは分からないが、ギンは決してサンジに実力で劣ってはいない。万全の状態なら良かったのだろうが、先ほどのタテ男の攻撃でかなりダメージがある今のまま、ギンと戦えるのだろうか。


と思えば、こちらではルフィがクリークに飛びかかった。が、先ほどの手裏剣同様、大きな盾から飛び出した槍に足を射抜かれる。

「い…いでェ!ぢくしょう!!」

こちらもこちらで苦戦しそうだ。

どうなるのだろうか、とニーナが息を飲んで見守っていれば、ギンとサンジの決着は意外な形でついた。

「できません。首領・クリーク!!」

倒れたサンジに止めの一撃を刺す寸前で、それが出来なかったギン。サンジを押さえ込んだまま、涙を流しながらギンが叫んだ。

「おれには、この人を殺せません……だっておれは……あんなに人に優しくされたのは、おれは、生まれてはじめてだから……おれには、この人を殺せません」

誰もが呆気に取られたギンの訴えだった。けれど更に驚く事態は続く。

「あわよくば……この船を、見逃すわけにはいかねェだろうか」
「!!!」

涙ながらに懇願するギンの姿だが、クリークはブチリと怒りの篭った睨みを向ける。
これまで一番忠実だった部下の命令違反と、敵への情は、許されるものではなかった。

「ガスマスクを捨てろ。てめェはもう、おれの一味じゃねェよ」
「っ!?」

毒ガス弾を構えたクリークは本気の声でそう言った。
動揺がクリーク海賊団の船員に広がるが、クリークの要求は変わらない。

「マスクを捨てろ!!」

再度命令され、ギンはそれに従うべく自分の懐からマスクを取り出した。

「ギン!!」
それを制止するように叫んだのはルフィだ。
「あんな弱虫の言うことなんて聞くことねェぞ。今おれがぶっ飛ばしてやるから」
「貴様!首領・クリークを愚弄するな!……首領・クリークは最強の男だ。お前になんか勝てやしねェ」

あんなことを言われて尚、クリークへの気持ちが揺らがないギンは、これが報いだと迷いなくマスクを捨てた。

それを見たニーナが、流石に毒ガス弾を構えるクリークを止めようと立ち上がりかける。ニーナの能力なら、毒ガスを風で霧散させることは可能だ。
が、その動きを感じ取ったギン本人が止めた。

「アンタも、手ェ出すな!」
「……っ!だけど、貴方」
「これが俺のケジメだ。報いを受けないままじゃ、俺はあの人の元には戻れない」

そんな風に言われてしまえば、ニーナは当然手が出せなくなる。彼は自分から毒ガスを受けにいく覚悟だ。それがケジメだと。
知ったことか、とニーナは手を出しても良いが、それではきっとギンは納得できないままだろう。彼はまだクリークを慕い、部下でいたいのだ。

そうこうしている内に、クリークが今度こそ本物の毒ガス弾を放った。

「店主!おれ達も店の裏へ…… ほら、お前も来い!」
「え、あ、ちょっと…でもっ!」

ならば、不自然に見えない程度に早めにガスを霧散させよう。と能力を準備したニーナだが、急に脇腹を抱えられてしまった。ゼフを手伝いながら自分を抱え上げたパティを、必死に声を上げて止めるが一向に聞き入れて貰えない。が、怪我人の彼に本気で抵抗など出来る筈もなく。

必死に逃げるパティ達に抱えられたニーナは、その後どうなったのか確認する術がなかった。

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