時は限りなく | ナノ


32

主賓、とクロコダイルが呼んだのはビビだろう。彼女が到着するまで待てと言われ、ルフィたちは大人しく時間が過ぎるのを待った……

「サンジのマネ……肉くったのお前かー!!」
「あっひゃっひゃ!」

「まじめに捕まれ!」

アホなことを始めるアホ二人を叱るついでに、その辺で寝だすバカもナミが叩き起こしてくれたが。
本当に、王下七武海を目の前にして、しかも檻の中に閉じ込められているルーキーの態度だろうか、これが。妙な余裕があるとか、肝が座ってるとか、そういう問題で片付けてもいいものか。

そんなことを考えていれば、部屋へと続く階段の上から気迫のこもった声を上げるビビが登場した。

「クロコダイル!!」
「…やァ…ようこそアラバスタの王女ビビ。よくぞ我が社の刺客をかいくぐってここまで来たな」
「来るわよ、どこまでだって!あなたに死んでほしいから。Mr.0!」
「死ぬのはこのくだらねェ王国さ…ミス・ウェンズデー」

その言葉に激昂したビビがクロコダイルに武器を振りかざすが、ロギア「スナスナの実」の能力者であるクロコダイルに、普通の攻撃は効かない。
簡単にビビも捕らえられ、クロコダイルの前にあった椅子に拘束されてしまった。

「座りたまえ、ちょうど頃合……パーティーの始まる時間だ。違うか?ミス・オールサンデー…」
「ええ……」

その言葉に、ニーナはそもそも自分がこのことに首を突っ込む切欠になった人物に視線を移した。先ほどは、ビビを迎えに行っていたらしいクロコダイルのパートナー。ミス・オールサンデー。
ニコ・ロビンは、涼しい顔で時刻を確認している。

「7時を回ったわ」

その言葉と共に紡ぎ出された作戦の内容は、決して愉快なものではなかった。

それまで擽っていた反乱軍を、偽国王を使い暴挙を演じて彼らの怒りを煽り。総攻撃を決意した反乱軍を、残された国王軍が迎え撃つ。まさにこの国を左右する、何万人もが死ぬほどの大決戦だ。

「クハハハハハ………耳を澄ませばアラバスタの唸り声が聞こえてきそうだ。そして心にみんなこう思っているのさ。おれ達がアラバスタを守るんだ…アラバスタを守るんだ…」
「やめて!!なんて非道いことを…!」

聞いていたビビが叫ぶのも分かる。とことん人の心を踏みつける、外道な作戦だ。

「なぜおれがここまでしてこの国を手にいれたいかわかるか、ミス・ウェンズデー」
「あんたの腐った頭の中なんてわかるもんか!」

憤りを隠せずに、ビビが椅子に縛られたまま倒れ、そのまま這ってこの場から離れようとする。

「オイオイ、何をする気だミス・ウェンズデー」
「止めるのよ!まだ間に合う…ここから東へまっすぐアルバーナへ向かえば。まだ反乱軍を止められる可能性はある!」
「……ホォ、奇遇だな。オレ達もちょうどこれからアルバーナへ向かうところさ。てめェの親父に一つだけ、質問をしにな」


その言葉にニーナはピクリと反応した。ニコ・ロビンが一緒に行動している時点で、可能性としてはあった。そして、今の言葉で更にニーナの中で疑惑は高まる。ここまで来れば、これがただの国取りで終わる筈がない。

「コブラ王に会って、玉座の座り心地でも聞くのかしら?」

先ほどの反吐が出そうな作戦への苛立ちも含めた声で言えば、クロコダイルがビビから注意をニーナへと移した。

「偉そうに作戦を語ってたけど、やってることは何処かの“鳥男”の二番煎じじゃない」
「……なんだと」
「国の簒奪なんて、どこの誰でもやることよ。わざわざ3年も掛けるなんて、よっぽど暇なのね。それとも……」

檻の外で立つ男へ、鋭い視線を向ける。

「その後で、もっと派手なことをするつもり?」
「………クハハ。ムカつく名前を持ち出したのは感心しねェが、賢い女だ。やはり、ここで殺すことにして正解だったな」

そこでクロコダイルは懐からキラリと光る小さな鍵を取り出した。この檻の鍵らしいが、それを彼はポイと床に放った。すると床の仕掛け扉が開き、出現した穴に鍵は吸い込まれていく。

ビビに反乱軍と国王軍を止めに行くか、鍵を探して檻からニーナ達を出すか。クロコダイルはどちらか選べと笑っているが、彼が両方ともビビにさせる気がないのは明らかだ。

奴がニーナに最後に寄越した一瞥が、全てを物語っていた。やはり、国を奪った後に更なる大事を起こす為の手段が、彼の計画の中に組み込まれているらしい。その手段も、ニーナの予想を裏切らないものだろう。

その“兵器”に安易に手を掛ければ、それは自分の力まで呼び起こす切欠になりかねない。たとえ些細であろうと、可能性としてはある。ヨークが命を落とした理由の“兵器”を、あんな男が易々と手に入れるのか。

そんなこと、許せる筈がない。

(だって……)

“古代兵器”を手にしたとして、彼はビジネスを好む人間だ。ただの無意味な破壊活動を好むような男ではない。

自分のもう一つの望みを、叶えるような種類の人間では……ない

「ビビ!!何とかしろ!おれ達をここから出せ!」

ルフィの声にニーナがハッと意識を取り戻す。

「おれ達がここで死んだら!誰があいつをぶっ飛ばすんだ!」

部屋に響き渡る力強い声だった。七武海が一角、クロコダイルを実際に目にしてもまるで怯まず、本気でぶっ飛ばす気でいるのか。

「自惚れるなよ、小物が……」
「お前の方が小物だろ!!」

そう言い放ったルフィに、暗い方向に傾きかけた思考が引き戻された。

顔をあげれば、クロコダイルに嗾けられたバナナワニにビビが必死で立ち向かっている。凶悪な牙を避けながら、頭から血を流しても諦めずに。

そうだ。彼らは国と仲間のために、必死になっているんだ。
そして、それを助けたいと思った。純粋に。今はルフィ達と同じ方向を向きたいと、本当にそう思ったのだから。

とはいえ、海楼石の檻の中というニーナであっても絶望的な状況を思い出し、タラリと冷や汗が流れた。

どうしようもないような絶望の中、1匹の電伝虫の声が響き渡る。

『え~~こちら……クソレストラン』
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