時は限りなく | ナノ


31

ユバの町から北へ砂漠をまる1日越え漸く見えた、ギャンブルが盛んな夢の町「レインベース」。
一味が移動に時間を費やしていた間にも、刻一刻とバロック・ワークスの計画は進行している筈だ。敵に顔が知られているからと行動を惜しんでいる場合ではない。

とはいえ、町に着いた途端走り去っていったルフィとウソップに物資調達を任せてもよかったのだろうか。

などというニーナの心配が当たったらしい。またしても海軍に追われて戻ってきたルフィとウソップに、一味全員が逃げる羽目になった。今はチョッパーがこの場を離れているというのに。

「おいみんな!海軍が来たぞォ!」
「お前らが連れて来てんだよっ!!」

逃げながらニーナもチラリと後ろを伺ったのだが。

「げっ!?」

思わず妙な声が出てしまった。が、その原因である葉巻を加えた顔見知りが、見間違いではないと分かるとニーナの背筋にサァッと冷や汗が流れた。

(嘘でしょ!なんでここに?)

振り向いた時にバッチリ目があってしまった。これは、向こうもこちらに気付いただろう。
何故、ローグタウンに赴任されている筈のスモーカーがここにいるのか。よりにもよって海軍側の顔見知りとここで鉢合わせになるとは。

が、今更嘆いた所で状況が改善されることもない。しかも、話して分かるスモーカーではない。
ここはニーナも逃げるが正解だろう。

それにチラチラと街の至る場所からこちらを窺ってくる、妙な視線も気になる。既に海軍どころか、バロック・ワークスにまで自分たちのことは知られていると思った方がいい。

「じゃ行こう!クロコダイルのとこだ!!」
「うん…あそこに、ワニの屋根の建物が見えるでしょ!?あれがクロコダイルの経営するカジノ“レインディナーズ”!」
「よしっ!じゃあ後で…… “ワニの家”で会おうっ!!」

バラバラに逃げるとのことで、ニーナはルフィにまっすぐ向かっていったスモーカーを任せることにし、その場を離れた。


***


適当に街中を走ってレインディナーズを目指していたのだが、道の先で騒ぐ人物に若干頭痛を覚えた。
海軍の集団とその戦闘に立つのは、たしぎだ。スモーカーが来ているのだから、彼女も来ているとは思ったが。そしてそれに相対するのはゾロ。

不味い状況ではあったが、今は時間が無いのだから。とニーナは、たしぎと何やら言い争いを続けるゾロの背後まで一瞬で迫り、その襟首を掴んでまた走り出した。

「なっ!?あれ?………ニーナちゃん!!?」
「ごめんねたしぎちゃん。今は急いでるから、また今度」
「うぉい!おまっ、ニーナ!」

バランスを崩しそうになるゾロに構わず、呆気に取られた顔をするたしぎを尻目に、レインディナーズへ向かって走る。
たしぎに姿を見られたのは不味かったが、ゾロをあの場に放置もできない。

「って、なんでそっちへ走ろうとするのよ!」
「ああ!?」
「こっちだってば」

海軍を振り切ったと思った所でゾロの襟首を離したのだが、どこか訳の分からない方向を向いたので、慌てて引き戻した。

ゾロはまた文句を飛ばしてきたが、そんなことに構ってられない。漸くレインディナーズの正面まで来たのだ。
すると、今度は先に来ていたらしいナミとウソップがガラの悪い男たちに銃で狙われている。

バロック・ワークスか、と確信したニーナは、襟首を掴んでいたゾロを思い切り投げ飛ばした。飛んでいくゾロはそのまままっすぐに銃を構える男たちに直撃する。

「ゾロ!ニーナ!」
「テメェ、ニーナ!何してくれてんだあ!」
「非常事態よ。仕方ない、仕方ない」

見事にバロック・ワークスに命中したゾロから文句があがるが、そのまま聞き流していればルフィが到着した。後ろにそのままスモーカーを引き連れているのは問題だが、店の中へと突っ走るルフィに続き一味が走る。

「待ってろ!!クロコダイル〜〜〜っ!」



息込んで店内に乗り込んだのは良いが、カジノのフロアにいるのはギャンブルを楽しむ客ばかりで、クロコダイルの姿は見えない。おまけにビビの姿すら無い。
さらに、後ろから迫ってくるスモーカーのせいで、立ち止まる暇すらないとは。

流されるまま店内の奥を目指して全員で走っていれば。

「おい、おれ見ろ!」

ウソップの声に釣られて前方へ視線を向けると……

『どうぞこちらへ!』
『V.I.Pルームでございます!!』

黒服の店員と踊り子たちが「V.I.P」と書かれた扉の前で歓迎するように自分たちを導いてくる。

「“かかって来い”ってことじゃないかしら?」
「話のわかるやろうじゃねェか!」
「いいの?これ絶対罠だよ」
「うっし!行くぞーっ!!」
「V.I.Pだと?あいつら、クロコダイルとどんなつながりが」

それぞれの感想は様々だが、全員が一直線にその扉の中へ飛び込んだ。そしてその先で……


ガチャン、と当然のように檻の中に納まってしまった。

「こうみょうなわなだ」
「ああしょうがなかった」

「敵の思うツボじゃない!避けられた罠よ!バッッカじゃないの!?あんた達!」

ナミの怒号が響くなか、ニーナは、やられたと項垂れた。
まさかあそこで落とし穴とは。というか、迂闊に突っ込みすぎだと言いたい。主にそこで仕方ないと頷いている麦わらの男に。なんの警戒もせずに、全速力で走ったまま穴の中にダッシュされては、フォローのしようがない。

更に、今のニーナには居心地を余計に悪くしてくる人物が一人。
チラリと背後を振り返れば、ギロリと睨んでくる双眸とぶつかる。

ああ、睨んでる睨んでる。と内心で嘆いていれば、向こうに先に口を開かれた。

「テメェ、こんな所で何をしてやがる」
「私はただの通りすがり。むしろそっちの方がここに居ることが可笑しいと思うんだけど。ローグタウン赴任の筈が、なんでグランドラインに入ってきてるのよ」
「そこの麦わらを追ってきたんだ。この国になんの用があるのかは知らねェが……」

そこでスクッと立ち上がったスモーカーは、背中の十手に手を掛けると、それまで柵を掴んで怠そうにしていたルフィを薙ぎ払った。

「ちょっと!スモーカー!?」

急にルフィに手を出したスモーカーにニーナは焦るが、彼はただルフィたちが認識していなかった海楼石の説明をしただけだった。

「海が固形化したものだと考えればいい…」
「じゃあこの柵も同じ物で」
「でなきゃおれはとっくにここを出てる。お前らを全員二度と海へ出られねェ体にしてからな」

そう凄むスモーカーに、ゾロが刀に手を掛ける。今にも斬り合いが始まりそうな緊張感に、ウソップが慌てて制止した。

「ギャ〜〜〜、待て待ておい。こんな状況で戦ってどうすんだ!!」


「その通りさ。やめたまえ」

ウソップの言葉に同意した聞き覚えのある声に、ニーナは漸くご登場かと柵の外へ視線を移した。

「共に死にゆく者同士。仲良くやればいいじゃねェか」

視線の先で椅子に寛ぐ男の余裕気な態度に、ニーナは思わず眉を寄せる。
海兵であるスモーカーまで檻の中に閉じ込めている状態なのに、解放するどころか始末しても何の問題もないと言い放つあたり、そもそも猫をかぶるつもりすらないらしい。

「おいお前ェ!!勝負、し、ホ……」
「だからその柵に触るなって!」

「“麦わらのルフィ”。よくここまで辿りついたな… まさか会えるとは思ってもみなかった。ちゃんと消してやるからもう少し待て… そして、今回はスペシャルゲストまでいるらしい」
「………」
「なあ、パスカル・ニーナ」

こちらを向いた男の口元には、変わらず余裕の笑み。それをニーナは、冷めた視線で見返した。

「場合によってはお前が一番厄介になる可能性があった。が、そうやって檻の向こうに入ってくれたなら好都合だ。行きずりのルーキーに入れ込みすぎて、失敗したな」
「行きずりのルーキーに入れ込みすぎて、檻に放り込まれるのは慣れてるから。ご心配なく」
「まだ減らず口を叩く余裕があるらしい。だがまさか、このまま無事に解放されるなんて思っちゃいねェだろう。俺の縄張りに首を突っ込まなければ、見逃してやってもよかったが……だが、話は後だ。まだ主賓が到着してねェ」
prev - 31/32 - next
back
しおりを挿む

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -