時は限りなく | ナノ


23

魔女の居場所の情報が齎れるなり、ドルトンがソリを滑らせてくれた。
ニーナたちを乗せ、四人はドルトンの家があったビッグホーンを飛び出し、隣町ココアウィードを目指す。

山の頂上の城に医者が居ないのでは、ルフィたちがそこへ行っても意味がない。今はとにかく、その魔女に会って城へ戻ってもらうことが先決だろう。

そう思っていたが、ニーナたちがココアウィードに着いた時には、既に魔女が町を出てしまっていた。幼い少年の足の化膿を治療していったのだという。

「何てこった、すれ違いかよ」

頭を抱えるウソップの気持ちはよく分かる。ニーナも同じ気持ちだった。

その後の行き先を聞けば、どうやらギャスタという北の町らしい。ならば一刻も早く向かおうとするビビたちだが、店に飛び込んできた男の一言で、その場が凍りつく。

「ドルトンさん助けてくれ!おれ達の力じゃ……ワポルの奴が、帰ってきやがった!」

ワポルの名に周りもどよめく。まるで電気が走るような緊張感が張り詰めるが、次の瞬間にはドルトンが飛び出していった。

ニーナたちが止める間もない。また、止めることも出来ないだろう。ワポルの帰還こそ、ドルトンの最も恐れていたことなのだから。

ドルトンが去って一瞬呆然としていたが、ビビたちもすぐに正気を取り戻し行動を開始する。

「と、とにかく、私たちは魔女を探さなきゃ。ギャスタの町ってどう行けばいいんですか?」

町人に魔女の向かったとされる町の場所を確認するビビたち。ギャスタへの行き方と地図を貰ったビビとウソップは急いでソリへと飛び乗った。

「ニーナさんも、早く乗って」

急かすビビに、ニーナは小さく首を振った。

「ビビたちだけ先に行って」
「えっ?まさかドルトンさんを追いかける気じゃ?」
「あ、ううん。それも気になるけど、ビッグホーンの近くの海岸にゾロが居るんだし。町人も集結してるみたいだから、そっちはとりあえず大丈夫だと思うわ。そうじゃなくて、魔女のことでちょっと気になることがあって。とにかく、ビビたちは後を追って」
「……分かった。ウソップさん行きましょう!」

頷いたビビがソリを走らせるのを見送り、ニーナは一つ小さく息を吐いた。

ドルトンが気になるのは確かだ。けれど、ワポルといえば、昨日ルフィに簡単に吹き飛ばされたという話も聞いた。王族といえど所詮は島の人間であり、海賊ほどの腕っ節はないと思える。なら、ビッグホーンの近くにはゾロが居るのだし。そもそも、緊急を要するのは魔女の件だ。

「あの、すみません。もう少し、魔女のことお尋ねしたくて。今が大変な状況なのは分かってるんですが」
「……ああ。何が聞きたいんだ?」

ワポルに対抗すべく武器を、と息巻く町民の一人に申し訳なく思いながらも声を掛ければ、少し渋ったようだが答えてくれた。

「その、魔女がどっちから来たかは分かりますか?」
「……?さあ、見てないからなァ」

分からないと考え込む男の後ろで、別の女性がそれに反応した。

「ああ、それなら。ここから西にある町から来たって。馬で少し行ったところだよ」
「ありがとうございます!」

教えてくれた女性に礼を述べると、ニーナはすぐさま飛び出して西へ向かって飛んだ。
西の町へ続いているという道を能力で飛べば、その後ろを雪煙が舞う。時折ぶつかりそうになる木々を避けながら、ニーナは考えを纏めた。

魔女を追うのはビビたちがしてくれる。けれどもしそこでもすれ違ってしまえば、また時間が無駄になるだけ。ならばニーナは、魔女が来た方向を辿るのが良い。
その先でもし、魔女がドラムロッキーの頂上にある城から町まで降りる方法が分かれば、確実に魔女に会える。

ナミの状態と、更に帰還してきたワポルを考えれば、これ以上時間を無駄に出来ない。

そう思い、ニーナは視界に入った町でまた魔女の行動を遡るべく聞き込みに駆け回った。


***


魔女が来たと言われる町を四つほど遡ったところで、次の町の名を聞いたニーナは僅かに目を見開いた。

「ギャスタ?」
「そう。今朝方、ギャスタの方から来たのを見たよ」

ギャスタと言えば、ビビたちと分かれた時に魔女が向かったとされる町だ。もしそうなら、ニーナたちは魔女の道筋をぐるりと一周することになる。

「そのギャスタへは、どうすれば行けますか!?」
「ああ、あそこの道をまっすぐ進むと、そのうちギャスタって書いてある看板がある。そこを曲がってそのまま行けば着くはずさ」
「ありがとうございます!」

挨拶もそこそこに、ニーナはまた能力で飛び上がった。
魔女がギャスタから来たなら、間違いなく魔女は城からギャスタへ降りたということだろう。そしてギャスタから丁度城へ帰ろうとしていた。ということは、ギャスタから城へ繋がるなんらかの移動手段があるのだ。

ドルトンの話では空を飛んでいたとも言っていたから、もしかしたら悪魔の実の能力かもしれないが。その場合はお手上げだが、確認する価値はあるはずだ。

そう考えてギャスタの町へニーナは着いた筈なのだが。

(ビビたちが、居ない?)

看板に沿ってギャスタに来て早々、先に着いている筈のビビたちを探したのだが、どこにもその姿が無いのだ。それならば、もう魔女を追って城へ行ったか、ドルトンを心配してビッグホーンへ戻ったかと思ったのだが。町の人に聞いても、誰もそれらしい二人組を見ていないという。

妙には思ったが、そればかりに気を取られてもいられない。ワポルの帰還のニュースが伝わっているのか、慌ただしく右往左往している町民を、なんとか捕まえながら情報を集めていく。

「あのすみません。この町に魔女が来てるって……」
「ああ?今はそんなこと言ってる場合じゃ… 見たには見たが、森へ入ってって消えちまったよ」

(森……町外れ?)

誰に聞いても同じような反応だが、それだけ目撃者が多いということだ。
ならばまずは、魔女の移動手段を突き止めるべきか。恐らく、問題の魔女は既にこの町からなんらかの手段で城へ戻っただろうが、やはり確証が欲しい。

あの高度と距離を移動出来るとすれば、方法は限られてくる筈。と思い何かないのかと町の外れをくまなく探す。

雪に塞がれる視界を、木の一本一本見落としが無いように。まさにしらみつぶしと言えるほど、町の周りを探し回れば、ようやくニーナは目当てのものを見つけることができた。

町から少し離れた森の中、僅かに開けた場所に立つ大木。その幹にしっかりと固定され、そのまま遠くにそびえるドラムロッキーまでまっすぐに伸びているのは……

「白い、ロープ……なるほど。雪の中じゃ見えないってわけね」

そのロープが巻き付けられている大木の幹に、堂々と取り付けられた扉。まるで木の中が家になっているようだ。
同じく木に付いた窓からそっと中を覗いてみる。するとやはり、きちんと人の住める家になっていた。

ここが魔女の家か?などと思ったが、城に住んでいると聞いたし、それに見たところ埃が溜まっているし暫くは人が住んでいた様子はない。

とにかく、このロープが魔女の移動手段であることに変わりはないだろう。そして、間違いなくあの城へ戻っている。
結論が出たところで、ニーナはギャスタへ一旦戻ることにした。

次にするべきはビビとウソップを見つけることだろう。ワポルに立ち向かっていったドルトンも気になるし。国王が戻ったなら真っ先に城を目指す筈だから、城の方も気になる。

そう思って未だ騒ぐ町民を数人捉まえることに成功したのだが。この数時間の間に事態は急展開していたらしい。

「ええ!?ビッグホーンの町で雪崩?それにドルトンさんが巻き込まれて。ワポルたちが城へ向かった!!」
「ああ。戦える者はビッグホーンに集まってるんだが、城へ向かうことが出来なくて。ドルトンさんも重体だって話だし」

話を聞く限り、ビビたちもビッグホーンに居るらしい。ドルトンも、命は保っているようだ。しかしそれ以上は動きようがなく、皆頭を抱えている。

「だったら、町外れに白いロープが。城への何かの移動手段になりませんか?」
「はっ?」

どうやら、ニーナの捜索は無駄にはならなかったようだ。町での戦闘に加勢出来なかった分、あの発見で補えそうな手応えにグッと拳に力をいれた。
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