時は限りなく | ナノ


16

突然現れた女性。その顔には、ニーナも見覚えがあった。
手配書に載る写真は幼い頃のものだが、確かに面影が残っている。気付かない筈がなかった。政府が古代兵器を復活させるのでは、と恐れている存在。

(ニコ・ロビン……彼女が、クロコダイルとアラバスタに?)

悪い予感しかない。クロコダイルが彼女の利用価値を見紛う筈がなく、また利用しない筈もない。その上で手を組んでいるということは、まさか。

「本気でバロックワークスを敵に回して、国を救おうとしている王女様が…あまりにもバカバカしくてね」

クスリと小さく笑うミス・オールサンデーに、ビビが目を剥いて怒りをあらわにする。
同時にそれまで船室にいた筈のウソップとサンジが彼女の横で武器を構えるが、

「そういう物騒なもの、私に向けないでくれる?」

彼女自身は何もしていないように見えたのに、二人が二階から吹き飛ばされた。

「悪魔の実か!?何の能力だ…!?」
「フフフッ…そう焦らないでよ。私は別に何の指令も受けてないわ。あなた達と戦う理由はない」

そう言ってビビにエターナルポースを投げて渡すミス・オールサンデー。指し示すと教えられたのは、アラバスタの一つ手前の“何もない島”。
ログポースの進路では“リトルガーデン”で全滅すると言い、それが嫌なら渡したエターナルポースを頼れと勧めてきたのだ。

それを受け取ったビビの表情を暗くさせる。イガラムを目の前で殺した相手なのだから、そんな相手から施しを受けるなど耐えられないだろう。が、安全な航路を望むのも事実。

だが、そんなビビの迷いなど構わず、ルフィがさっさとそのエターナルポースを握り潰してしまう。

「この船の進路を、お前が決めるなよ!」
「……そう、残念」

そう言ってミス・オールサンデーは去ろうとするが、その前にニーナが彼女の後ろに立った。

「ねえ、聞きたいことがあるんだけど」
「………っ!?」

すぐ後ろに立たれたことに驚いたようだが、ミス・オールサンデーが目を見開いたのはそれだけが理由ではないだろう。

「能力は使えないでしょ。ちょっと質問に答えてくれるだけでいいんだけど」
「………」

海楼石の指輪を嵌めた手で彼女の肩を掴めば、当然能力は使えない。

「貴方も国取りに興味があるの?」
「どういう意味かしら?」
「アラバスタという国を奪った後、貴方とクロコダイルは何がしたいの?って意味だけど」
「…………さァ」

ニーナの視線が鋭くなるが、ミス・オールサンデーは表情を崩さずに小さく肩を竦めて見せた。
どうやら、質問に答える積もりはなさそうだが、ニーナの予想はあながち外れてもいなさそうだ。

そんな会話が交わされるが、ニーナがミス・オールサンデーを拘束しているようにも見えるその光景に、下のナミ達がよくやった、と歓喜した。

「よ〜し、ニーナよくやった。敵を捕まえたぞ。このウソップ様の指示通りだ」
「なんだか分からないけど、今度はこっちが有利ってことよね!」

喜ぶナミ達には悪いが、ミス・オールサンデーをここで捕らえるのは賢い選択ではないだろう。そう判断し、ニーナはそのまま静かに手を離した。

「……行くわよパンチ」

ニーナの海楼石が離れるとすぐに大きなカメに飛び乗って行ってしまったミス・オールサンデーに、途端に不満が飛びかう。

「なんで!?ニーナ、アンタ強いんでしょうが。なんであのまま捕まえなかったのよ」

階段を下りながらニーナは短く息を吐いてナミ達を落ち着かせなければ、と口を開いた。

「彼女を捕まえたら、余計厄介なことになるから。絶対に」
「……どういうこと?ニーナさん」
「今の状態なら、クロコダイルはビビや私達には対策するだけ。でも、ここでパートナーのミス・オールサンデーを失ったら、速攻で“対処”に移る。つまり、数日でアラバスタが落ちる可能性が高くなるってこと。少なくとも、クロコダイルはそれくらい周到な男よ」

アラバスタ王国王女ビビの存在は厄介なのだろう。けれど、それは彼女を殺すなり、彼女の発言力を奪うなり、どうとでもなる。少なくとも、標的はビビのままで終わるだろう。
しかし、恐らくだが計画の重要な鍵を握るミス・オールサンデー。ニコ・ロビンをクロコダイルが失えば、彼は即座に動く。

ニコ・ロビンの抜けた穴を、なんらかの形で対処しようとするだろうが。それならば恐らく、のんびり国取りに時間を掛けない筈だ。

「この船が二、三日。遅くても五日の間にアラバスタに到着する速度が無ければ、彼女を捕らえるのは無意味だってことよ。まあ、私がこっちに居ると知ったら、アイツがどう出るかによるけど」
「………ニーナさん。貴方、クロコダイルを知ってるの?」

疑惑の眼差しでこちらを見てくるビビ。他の船員も、概ね似た表情だ。
……まあ、いずれ話さなければ、と思っていたこと。むしろ、話す切欠を探していたのだから丁度良い。

「……私とクロコダイルは同僚なのよ」
「はっ?」
「つまり、私も七武海って訳」

「え、ええええ!?」

驚きの悲鳴が、漸く海へと出た船の上で響いた。

「ん?なんだ、それってすげェのか?」
「私だって訳が分かんないわよ。ニーナ、アンタがどうして七武海なの!?」

一人、先ほどから何食わぬ顔で首を傾げるルフィ以外は、状況に追いつけずに混乱している。

「ちょっと待てよ。ニーナが“鷹の目”の妹で、“鷹の目”が七武海で、ニーナも七武海!?どうなってんだよこれァ。七武海ってのは皆家族で出来てんのか!?」
「なにィィ、本当かそれは?」

ウソップの若干的外れな分析に、漸く反応したと思ったルフィだが、次に飛び出た言葉はそれ以上に的外れだった。

「じゃあなんだ?ニーナ。お前クロコダイルのネーチャンなのか!」
「違うわよ!!」

あまりにも素っ頓狂なことに、思わず怒鳴ってしまった。どこをどうしたらそうなるのか。多少の動揺は予想していたが、これほどまでに訳の分からない混乱の仕方は初めてだ。

その時、その場を落ち着けるようにサンジがニーナとルフィの間に入ってくれた。

「まァ、待てよ。取り敢えず、愛しのニーナちゃんの話を聞こうじゃないか。それに、俺とウソップはどうにも状況が掴めてねェ。麗しのミス・ウェンズデーが船に乗ってる事情も聞きてェしな」
「ありがとう、サンジ」
「そんなぁ。君の為なら俺は何時でも駆けつけるさ」

事態を収拾してくれた時は落ち着いた声だったのに、途端に目をハートにしてくねくねと奇妙に踊りまわるサンジに、思わず苦笑が漏れる。が、今は説明の方が先だろうと、ニーナは一番不安そうにしているビビに向き直った。

「まあ、同僚って言っても、私は正式な七武海じゃないんだけどね」
「……なら、貴方と政府に関わりがあるなら、クロコダイルの行為を告発して貰えたりしない?」
「多分役に立たないわね。きっちりした証拠がないと、政府も自分で認めた男をそう簡単に捕縛出来ないし。クロコダイルもそれが分かってるから、下手に尻尾は掴ませない筈よ。だから、バロックワークスの社訓が謎、だなんてダサいことしてるんでしょう……つまり、タチの悪い男に目を付けられたってことね」
「…………」

ニーナの言葉に、ビビがガクッと脱力したように膝を付いた。

「……私、本当にこの船にのってていいのかしら…皆に迷惑を」
「なーに言ってんの…… あんたのせいで私たちの顔はもうわれちゃってんのよ!迷惑かけたくなかったら初めからそうしてよ!」
「う……ごめんなさい」
「アンタもよ、ニーナ」

ビビの額を指で押して顔を上げさせるナミが、今度はニーナをビシッと指差した。

「アンタの立場は分かったけど、運命共同体なのは変わってないのよ。こうなったら付き合ってもらおうじゃない」
「あ、はい」
「それに、アンタだってこの船に乗らないと動けないんだから、その間はしっかり私を守りなさいよ」
「ええっとォ…」
「そうでしょう?ルフィ」

「朝だーっ!サンジ朝メシー!!」

ナミが同意を求めれば、ルフィは早速朝食だと明るく指示を飛ばしている。まるで、何も気にしていないようだ。
その様子に、思わずニーナも笑ってしまった。
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