禁断の果実(メグレズ+オルフ+エウリケ+?)




夢をみた。
遠い遠い昔の夢を。
まだ世界が狂っていなかった時代の話。
アダムとイヴがまだ生きていた時の話。

「父様と母様を生き返らせたい。」

全てはまだ幼いまま両親を亡くした皇帝のあどけない声音から始まった。
皇帝直属の研究者だったアダムは、与えられた大きな研究所という名のエデンの中で何年も研究を続けていた。
皇帝の願いは家族を生き返らせる事。
その為の研究の内容は謂わば死んだ人間の蘇生方法と不老不死。
まるでエデンの禁断の果実に手を伸ばす罪に似て、それは間違いなく禁忌だった。
何年か後。アダムは私に言った。

「人間が神の領域に手を出してはいけない。この研究を完成させてはいけないんだ。」

それを影で聞いていた皇帝はさぞかし焦ったのだろう。
アダムを謁見に呼び出し、真意を問うた声音は怒りと焦燥に震えていた。

「研究を止める気なのか。僕の父様と母様はどうなるんだ。」

「お言葉ですが皇帝陛下。蘇生方法また不老不死は人間の手に負えるものではございません。もし実現すれば世界が……、」

「世界なんてどうでもいい!僕はただもう一度父様と母様に会いたいだけなのだ!」

純粋な、本当に純粋な想い。
アダムには皇帝の願い、それを実現するだけの力があった。けれどその願いを叶える訳にはいかなかった。

「どうしても、研究を止めると言うのか。」

「世界の秩序を壊してはいけない。それが今の私に出来る事なのです。」

「分かった。……連れてこい。」

皇帝の手招きに応える様に側近が連れて来たのは、イヴだった。
アダムの目が見開かれる。
イヴは震えながらアダムの名前を呼んだ。

「皇帝陛下……!?何を……」

「研究を止めるなら、仕方ない。」

「お止めください!」と叫んだアダムの声と、皇帝の手に握られた銃の引き金を引いた乾いた音が重なって響きながら弾けた。
崩れ落ちたイヴを、アダムは絶望に染めた瞳で凝視しながら立ちすくんでいた。
そして駆け寄ったアダムはイヴを抱き上げて叫びながら泣いていた。
皇帝のあどけない声音が響く。

「ほら、君の大切な家族が死んでしまう。あぁそうだ生命維持機能は完成していただろう。今ならまだ間に合う。彼女を媒体にして研究を続けろ。分かったな。」

目の前でイヴを撃ち殺されたアダムに、拒否権など無かった。
皇帝の言った通り、エデンには彼女を救える方法があったから。
禁断の果実を食べたのは、イヴではなくアダムだった。

「メグレズ。」

それから数年後。
アダムの研究は“神”を完成させる一歩手前まできていた。
あの日撃ち殺されたイヴは、いつしか研究者達から“神”と呼ばれていた。
研究の完成間近に、皇帝は大いに喜んだ。
そしてアダムは二人きりの時、私に言った。

「狂った研究を終わらせるには、狂った研究者を殺せば良い。」

あぁ、彼は、もう自分で止められないところまで来てしまっていた。
愛する人を死なせたくないと続けた研究は、気が付けば“神”の領域にしっかりと足を踏み入れていた。

「メグレズ、この研究を完成させてはいけない。」

分かっていた。彼が何を言いたいのか。

「後で私をどんな悪役にしてくれても構わない。君が私を罰してくれただろうから。」

そんなに、辛そうな顔をしないで下さい。
本当は、貴方が苦しむ必要なんて無かったのに。
どうして。

「私を殺してくれ。」

そして運命の日。
禁忌を犯したアダムは、私の手で無惨な死を遂げた。
けれど、貴方を失っても、まだ研究は続いている。
多くの犠牲を捧げて、悲劇を生んで、全てを奪い尽くしても尚。
“神”を再生しようと、運命の歯車は軋みを上げて廻り続ける。

貴方はどんな悪役にしてくれても構わないと言った。
けれど、私はそれを聞き入れたつもりは無い。
貴方を悪役になんてさせない。

「私が、最期まで悪を演じ終えてみせる。」

“神”を殺しエデンを燃やす。
甘い禁断の果実など、踏み潰してみせましょう。









終わり。



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