にかりと笑う霊刀と
「主、君はどうして髪で顔を隠しているんだい?」

時の幕府…正式には政府なのだけれど自分の居た時代背景からなのかこんのすけがそう称した…へと提出する書類とにらめっこをしている中、耳へと届いたのは低めの落ち着いた声色。
相手は誰かの察しはついている、この本丸でそのようなことを言いそうなのは一振りだけだ。

「急にどうした、青江」

「疑問に思っただけさ、君の左目は僕や宗三くんのように色が異なるわけじゃないだろう?」

声の主、いつも結わえている翡翠色の髪を珍しく下ろしている彼の方へ視線を向けると、にっかり青江は猫目石のような瞳を細めていた。
確かに、自分と同じように長い前髪で顔の半分を隠している刀は左右の瞳の色が異なる…オッドアイの者が多い。
けれど、自分の眼はどちらも同じ色、金に近い色だ。
疑問に思っても仕方ないか、と手にしていた筆を硯へと置き、青江と向き合うように座り直す。

彼はきょとりとした顔だったけれど、すぐに普段から浮かべている微笑みを浮かべた。

「仕事はいいのかい?」

「こんな量、大したものではないからね」

「へぇ、手馴れているんだね」

「青江、本当に気になったという理由だけで来たの?」

自分の言葉に青江はくすりと楽しそうに微笑んだ、その顔は普段の大人びた、妖しさを含んだものではなくて幼い印象を与えるものだった。

背の高さから忘れそうになるが、青江は脇差、背伸びをしている子のようだ。含んだ物言いはアレだ、知ったばかりのことを言いたくて仕方がない学生の行動だ。そう思えば、青江は成長が早いだけの単なる子供だ。

「あの、ね。君さえよかったら髪型変えてみないかい?僕の髪型とか、どうかな」

意図は察しているけれど、あえて分からないふりをしよう。普段は困らされているから、今は困らせてやろう。

「どうして?」

言い方が違うのに気づいたのか、青江は頬を少し膨らませながら「もうっ」と言ったかと思えば、視線を泳がせながら、頬を赤色に染めながら小さく呟いた。

「……お揃い、を、やりたくて」

恥ずかしかったのか、俯き長い前髪で顔を隠してしまった青江の頭を優しく撫でてあげると、彼は目を瞬かせてチラチラと自分を見た。返事を期待しているんだろう。

髪型に特にこだわりはないし、今の髪型をしているのは『彼』を意志しているがゆえだ。でも、この世界で『彼』の真似事をする必要性は皆無に等しい。

「やっても良い、けれど、他の刀には内緒にすること。それでも良い?」

「! うん!!」

顔を上げた青江の周りに桜が咲き誇り、薄紅色の花弁が舞う。いつも思うけれど、この桜は一体どういう原理なのだろう。しかも床に落ちれば綺麗さっぱり消え去る、刀剣男士たちの霊力だとかから作られているものなのだろうか。

何度もしきりに頷いて、喜色満面状態の青江は本当に嬉しそうで。

「少し前に、加州くんが主とお揃いって言いふらしていたでしょ?それで少し憧れていたんだ、これで僕も主とお揃いが出来るね」

「普段の髪型も似ているけど?」

「そうだけど、一回でもいいからお揃いにしたかったの!それに、前髪で顔を隠すのは僕や宗三くんに五虎退くんに今剣、うちには居ないけれど鶯丸もだし……ぽにーてーるをしている刀は多いし…僕より先に来た太郎さんとかさ」

「なるほど」

桜を纏ったまま、にこにこと微笑む青江の言葉に頷く、確かに言われてみればぽつぽつとうちの本丸にもいる。
自分は特に気にしていなかったけれど、他の刀達は気にしていたのか。
もしそうなら何かしらしてあげたいけど……。

そう考えていると青江が首を傾げているのが視界に入り、思考するのを一旦中断する。悪い癖だな、これは。

「明日の朝にやってもらっていいか?」

「うん、僕に身を委ねてくれたらきちんとするよ。……髪のせっとのことだよ」

「知ってる。さて、青江、仕事もほとんど終わって暇だから、久し振りに三味線を弾こうかと思っているのだけれど……聴く?」

審神者の仕事を始めたばかりは慣れていないからか、三味線を弾く時間を確保するのが難しかった。
残っている仕事は夕餉前に終わる量だ、今から休憩しよう。
静かに腰を上げ、襖に立てかけていた三味線を取りに行き、手にした三味線の弦を軽く爪弾く。音の心配はいらないようだ、よかった。

「聴くよ、主の好きな曲とか聴いてみたいから」

「ならもっと近くにおいで」

「ーーっ!! うん!!」

ふんにゃりと笑った青江がいそいそと近寄ってきて、どうしてか正座した。その姿にくすりと微笑み、座り直して三味を構えた。


弦を弾く音が、政務室の近くに響いた。

16.04.06
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