ザックスと合流し、ソルジャー三人で魔晄炉内のモンスター達を殲滅する。息絶えたモンスターを見つめるザックスの視線は、アンジールの顔が刻まれた箇所に注がれていた。ルカ同様困惑しているのだろう。それにアンジールが自ら細胞を提供していると想像すれば、より一層失意は深くなる。
セフィロスはふと立ち止まり、思いだすように語り始める。

「…本社ビルのトレーニングルームに――」
「ん?」
「2ND達の留守に忍び込んでは、よくふざけていた。ジェネシス、アンジール、俺」
「本当に仲がいいんだ」
「ふん、どうだか」

ザックスの言葉に対し、素直には返さないセフィロス。彼らを見つめてルカは微笑みを浮かべながら、セフィロスは事の発端に至る出来事について話し始めた。
トレーニングルームにて三人で手合わせしていた事。ジェネシスとセフィロスとの斬り合いは次第に熱を帯び、斬撃は苛烈になり――ジェネシスが負傷してしまった事。一通り話し終えると、セフィロスはその後の不穏な空気を思い出したのか口を噤んでしまった。

「で、平気だったのかよ?」
「…命に別状は無かったわ。ただアンジールが、ね」
「アンジール?どうかしたのか?」

代わりに返答したのはルカであった。苦笑混じりに「説教」を食らった二人の様子を伝えた。とは言っても彼女が実際にその場に居たわけではなく、あくまでセフィロスから聞いていた話を簡略して説明するに留まった。説教はアンジールお得意の「夢や誇り、ソルジャーとしての心構え」などだ。ザックスも「わかる気がする」と笑みを零した。
会話は自然と途切れ、唸り声を上げる機械音だけが三人の間を過ぎっていく。沈黙の中で思う事柄はひとつ故か、誰となく魔晄炉の奥へと歩み始めた。










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06番扉を開けると先程まで明かり代わりの魔晄の光は消え、安っぽい蛍光灯が施設内を照らしていた。バノーラ村の工場でも見かけた同型のポッドや、外部から運び込まれたと思われる機器が複数設置されている。
ポッドの中身は予想通りコピー達であった。
セフィロスは、コピーが生産されている様子を初めて見たせいもあるだろう。哀れだと憐憫の言葉を投げかけながらも、露骨に顔を顰めて嫌悪感を丸出しにしていた。一刻も早くジェネシス達を探し出し、ここから離れた方が得策だろう。特にセフィロスの精神衛生上、非常に良くない場所だとルカの勘が警告音を鳴らす。

「ねえ二人とも、これを見て」

ルカは機器の上に無防備に放置された資料を取り、セフィロスとザックスを呼び掛けた。表紙に書かれた文字をザックスが読み上げる。

「えーっと?古代種プロジェクト、プロジェクト・G、ソルジャーの劣化現象…。なんだこれ?」
「ホランダーに盗まれた極秘資料よ。ページめくるわね」

<古代種プロジェクト概要資料>

地中より発見された生命体こそが伝説の古代種であったことは周知の事実。
また、古代種は星と通じる力を使って、大地を切り開いたことは史実である。我々は発見された古代種の細胞を使い、同等の能力を持つ種族を量産する研究を開始。
魔晄採掘コストを大幅に削減することが主たる目的である。


<プロジェクト・G実験概要>

人間の胎児に古代種の細胞を埋め込み、古代種の能力を得ることを目的とする。


<ソルジャーの劣化現象に関する報告>

ソルジャーの能力はさまざまな要素が微妙なバランスを保つことで維持される。バランスの変化は因子情報の流出が原因と考えられるが、通常は起こりえない。
この現象はG系ソルジャー特有のものである。


ザックスが力無く項垂れ、痛む頭を押さえていた。不可解な内容はもちろんのこと、科学部門の倫理観の欠如に対する嫌悪も含まれているだろう。半ば嫌気がさしていたがルカは資料を閉じた。

「古代種、プロジェクト・G。この二つはホランダーが発案した実験…そして生み出されたのがジェネシスなのね…」
「――プロジェクト・ジェネシス」

Gとはジェネシスの名から由来されているのだろう。セフィロスが呟いた一言に反論はなかった。
プロジェクトによって生まれた彼は「ごく普通の子ども」として、つまり失敗作であったのだが、劣化やコピーといった異常反応が現れている。
――セフィロスとの手合わせの後、ジェネシスの回復は遅れていたのは事実だ。傷口に魔晄が入ったのが良くなかったと治療を施したホランダーは言っていたが、異常反応の始まりだったのかもしれない。


『俺達はモンスターだ』


彼が揶揄するのも無理はない。彼の命そのものに罪はないのだ、同情の余地はあるし心境の一欠片くらいならば理解は出来るかもしれない。
しかしそれがバノーラの人々を惨殺した理由には成りえるはずがなかった。

「下らない実験だわ」
「ルカ…」
「こんなもののせいでジェネシスとアンジールは……バノーラのみんなは…!」

ジェネシスが、これを神の裁きだと驕っているのならば許しがたい。
だがそれ以上に黒く膨れ上がるのは、幼馴染達を追い詰めた愚かな科学者への憎悪。
複雑に絡み合い、腫れあがっていく感情は行き場所をなくしてしまう。勢いよくポッドを叩きつけた手が痛み、ルカの身体が震える。握り締めすぎて爪が肉に食い込んでいる掌をセフィロスは掴み、そっとおろさせた。


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