「────そういうわけで、スネイプとメルボーン、それからシモンズにはそれぞれ50点の減点と3ヶ月の罰則が言い渡されて、彼らの捕縛に関わった私とリーマス、ヘンリー、メイリア、ハリエットにはそれぞれ50点の加点となりました、とさ」

乾いた喉でなんとか語り終えると、目の前の悪戯仕掛人の3人は揃って目を丸くしながら長い溜息をついた。

「はー、まさか僕達が談話室で平和に遊んでる間にそんなエキサイティングな冒険をしてたなんて」
「来年は僕達もクリスマスの飾りつけ、手伝うか?」
「ジェームズ、シリウス。笑い事じゃないぞ」

私達の"一騒動"を茶化す2人に、リーマスが厳しい声を掛ける。

「君達は何も見てないからそうやって冗談を言えるのかもしれないけど────」
「ムーニー、合言葉を忘れたか? "有事の時こそ笑顔を忘るるなかれ"、だ」

シリウスはまるで太った婦人に語り掛けるように当然の顔をして言うが、いつの間にそんな不謹慎な合言葉ができていたのか────とリーマスを見ると、彼も唖然とした表情をしていた。どうやら初めてその言葉を聞かされたのは私だけではなかったらしい。

────私とリーマスが校長室から解放され、夕食を取る気にもなれずグリフィンドールの談話室に戻った時、そこにいたのは悪戯仕掛人の3人だけだった。聞くところによると、他の生徒は夕食に行っているか、早めの帰省準備を進めているとのこと。残るにしろ帰るにしろ、こんな時間帯に談話室でのんびり遊んでいるのは彼らだけだったらしい。
私とリーマスが物凄い形相をして帰って来たせいで、3人はすぐ私達に"何かがあった"ことを察した。「まさか柊の陰からトロールでも出てきたか?」と笑うジェームズに「妖精の粉を振りまいてたら3人の死喰い人候補が出てきたよ」とリーマスが返すなり、何があったのか話せとせがまれ、今に至る。

私の話については、彼らが相手ならと、包み隠さずあったことを全て体験した通りに話した。メイリアが偽ハリエット────後でシモンズという本当の名が判明したスリザリン生だった────に向けて一喝した時の口調を真似ると、ピーターが予想通り「ヒッ」と小さい悲鳴を漏らした。

リーマスの話は、こちらも校長室で聞いた通り。

彼は私と別れた後、まっすぐヘンリーの助力を願い出に行った。会話の一端は聞いていたものの、「スラグホーン先生が偽物である可能性が高い」と言ったリーマスの言葉をヘンリーが即座に信じてくれたと聞いた時には、思わずシリウス達と一緒に感心からの溜息をついてしまった。

リーマスとヘンリーはまずスラグホーン先生を起こしに行った。ヘンリーが強力な酔い覚まし薬をスラグホーン先生のデスクから見つけ出し、泥酔している先生に飲ませたのだそうだ。事情を話したところ、確かに眠り込んでしまう直前、3人の生徒が先生を訪ね、「魔法薬の神秘性について知りたい」と言い、先生の演説をうまく聞きながら酒をぐいぐい勧めていたと認めた。

その後彼らはスリザリンの談話室に突入した。スネイプと偽スラグホーン先生────こちらはメルボーンという名の、これまたスリザリン生だった────はすぐに計画が頓挫したことを察したらしい。抵抗する素振りをひとつも見せず、珍しく怒っていたスラグホーン先生についてそのまま校長室へ直行したのだそうだ。

予想はしていたが────今回の犯人は、やはり全員スリザリン生だった。

「ただ、スネイプとメルボーンがすぐに大人しくなったのは、何もあいつらが心から反省したからってわけじゃないと思う」

と、続けるリーマス。
校長室で合流した私達は、まず告発人である私とリーマスがなぜその計画を知ったのか、実行犯である彼らに誰の助力を仰いで何をしたのかというところまで含めて微細に語った(掃除用具入れに見せかけた隠し部屋に身を潜めていた部分だけ、"物陰に隠れて"とぼかしていたが)。
次に口を開いたのはスラグホーン先生。先生は先程リーマスが言っていた通り、自分が無様に酒に溺れたことを短く肯定しただけだった。ダンブルドア先生の手前、自分の失態が彼らの計画をひとつ有利に進めた事実はかなり痛かったらしい。普段の快活な態度はどこへやら、もにょもにょと指を絡ませながらハッキリしない言い方で自分の非を認める先生の姿は、まるで同じセイウチでも赤ちゃんのようだった。

不審だったのが────その後の、スリザリンの3人の話だ。

彼らは「死喰い人なんて関わっていない」「自分達はちょっとした好奇心で他の談話室の様子を覗いてみたくなった」「先生に変化したのは尊敬する先生の気分を少し味わいたかったから」「今は反省している」と、それを繰り返すばかりだったのだ。

「反省してる? よくもまあ、そんな殊勝な言葉をあいつらが知ってたな」
「言い訳もお粗末すぎるぜ。僕ならそういう時は適度に"その寮にしかない秘密を知りたかった"とかなんとか、ちょっとした真実を混ぜて話すけどな。まあ、あいつらにとって何が真実かなんてわからないけど────

そう。
ここまでしておいて、結局私達はスネイプ達がポリジュース薬まで用いて何をしたがっていたのか、知ることができなかったのだ。

ダンブルドア先生は何度も「イリスとリーマスは死喰い人という単語を聞いておるということじゃが」とスリザリン生に詰問していたが、彼らは頑なに死喰い人の関与を否定した。

「誰かの姿を模して他人を騙す行為が許されないことはわかっていたんです。そういうのは死喰い人の常套手段ですし────スラグホーン先生がそれを知ったらきっと良い顔をしないだろう、という意味のジョークのつもりでした」
「あれはそんな言い方じゃ────」
ジョークでした
「ふむ。…しかし、姿を模してその気持ちを味わいたい、と思うほど敬愛しているそのスラグホーン先生が嫌がるようなことを、なぜわざわざ進んでしようと思ったのかね?」
「それは────自分達の魔法薬が、どこまで通用するか試したかった…という驕った気持ちがあったからです。もちろん、スラグホーン先生ほどの方には全く通りませんでしたが」

メルボーンのそんな言い訳を聞かせると、シリウス達が揃って鼻で笑った。
先生に呼び出されることが日常茶飯事の彼らにとって、スネイプ達の矛盾に満ちた稚拙な言い訳など、全てが真っ赤な嘘だと────又聞きでもすぐにわかったのだろう。

私でさえ、なんていい加減なことを、と思った。
そして私が彼らの嘘を見抜いているというのなら、ダンブルドア先生がそれを見通していないわけがない────と思ったのだが────。

「で? その結果が減点と罰則?」
「ダンブルドアはどこまで本気なんだ?」

シリウス達の言う通り、ダンブルドア先生はそんなお粗末すぎる言い訳を平然としてのけるスネイプ達にそれ以上の厳罰を科すこともなく、"それだけの結果"を言い渡して私達を校長室から締め出してしまったのだ。

「まあ、あのダンブルドアだからな。生徒にはその程度で済ませて、騎士団本部の方を動かしに行ったのかもしれない」
「生徒には────って?」
「おいおい、君が言ったんじゃないか、フォクシー。これは死喰い人に関わる話だって」

ジェームズが当たり前のように言った言葉に、ショックを受けてしまう。
いや、わかってはいた。わかっていたはずなのだが────。

「本当に…ホグワーツの中に死喰い人がいるのかな」

それは、あまり考えたくないことだった。
私の力ない声を聞いて、シリウスがソファにふんぞり返る。

「今の段階ではただの"候補"、かもしれないけどな。なんにせよ、ヴォルデモートがホグワーツの内情を、というかダンブルドアの弱点を暴こうとしてるのは誰でも知ってることだろ。本当は先生を操れたらそれが一番良いんだろうけど、先生の採用や雇用管理にはダンブルドアが絡んでるから難しいだろうし。その点、生徒は魔力も信仰心も薄いから操りにくい反面、なんせ数が多いからダンブルドアの目を掻い潜りやすい。方法は知らないが、何かしらのやり方で生徒と接触し、何かヴォルデモートの知りたがっている情報を提供させるべくポリジュース薬で他の寮の生徒や教師に扮するよう指示した────って話は、ありえる線だと思う」
「スリザリンに潜入するのが"生徒"じゃなくて"教師"だったってところも、その仮説で考えれば納得だな。ヴォルデモートの片棒を担いでるなんて一応"世間的には体裁の悪い罪"を、仲間意識の強いあいつらが同属に押し付けるとは思えないし」

ヴォルデモートの知りたがっている情報────。
何を知りたかったんだろう。今回狙われたのはレイブンクローとスリザリンだった。そのうち、ハッフルパフやグリフィンドールにもその手が伸びることがあるんだろうか?

「それならまあ、ダンブルドアがあんまり深入りしなかったのも頷けるな」

シリウスの推測に乗ったのはジェームズだった。

「その段階で下手なことを言って手の内を晒すようなことは、ダンブルドアもしないだろ。どうせ"大して使えない駒"扱いされてるスネイプ達ごときに躍起になるより、一旦あいつらの"反省した"、なんて痒くなるような言葉を信じたフリをしておきながら、裏では本命の騎士団を動かしてヴォルデモートとの戦いに備える方が遥かに賢明だ」

どんどん辻褄が合ってしまう。
何も確たることはないのに────スネイプ達が、死喰い人になってヴォルデモートと内通している可能性だけが、どんどん高まっていく。

「────それより、メルボーンとシモンズって言ったら、どっちもクィディッチの選手じゃないか。僕はそっちの方が健全なスポーツマンシップを傷つけられたようで腹が立つ」
「ジェームズ…」

これが真実ならそんな悠長なことを言っている場合ではないのに、彼は真剣な顔をして冗談を言っていた。

「メルボーンとシモンズか…。どっちもスネイプに従うようなタマじゃないよな?」
「ああ。あいつらが従う相手なんてキャプテンのバナマンか……あー…そのくらいだろ。だから首謀者がスネイプ1人で、あとの2人は何も知らずに加担したって説はまずないな」
「少なくとも校内に3人も死喰い人がいるってことか。良いね、こっちも防衛のしがいがあるってもんだ」
「シリウスまで!」

どうしてこの人達はこうも全てをお遊びに仕立て上げないと気が済まないのだろう。
今回はたまたま私とリーマスがあの掃除道具入れで聞き耳を立てていたからなんとか防げたけど、あそこで何かひとつでも事実が狂っていたら、彼らはダンブルドア先生の鼻の先で宿敵に"何か大事な情報"を差し出していたかもしれないのに。

「まあまあ。落ち着けよ、イリス」
「そうそう。少なくとも今回は君達"監督生軍団"のお陰で悪事は未然に防がれたんだ。これからのことを憂いていても仕方ないだろ。今はまず君達の健闘に乾杯、だ」

ことの重要さをわかっているのかわかっていないのか────まだ納得のいかない私より先に、彼らの"スタイル"に慣れているリーマスが体の力を抜いた。

「まあ、ジェームズ達の言ってることにも一理ある。今回は防げた。これからのことをダンブルドアがどう捉えているのかはわからないけど────僕らは僕らなりに警戒しつつ、変わらないで済んだ毎日を楽しもう
「…まあ、リーマスがそう言うなら」
「おい、ムーニーの言うことなら聞くのか? 恋人の僕の言うことは何一つ聞かないのに?」
「リーマスの言うことは当事者の言葉だからでしょ。それにシリウス、私の言うことを何一つ聞いてくれないのはあなたも同じだからね」

ずっと頭の片隅にこびりついていた、"ホグワーツ内から死喰い人が出るのではないか"という噂。単なる噂だ、と一蹴できていたその予想が、この日初めて────名前の付けがたい"何か"の形を伴って、私の背後に忍び寄るような感覚を抱いた。

────ちなみにその後、寝室に戻ると待ち構えていたようにリリーが「何があったの」と鋭く尋ねてきた。突然何事かと思いきや、夕食にも来ず、夜に延々とシリウス達と話している私の様子が異常だった、とのこと。

本当に彼女の観察眼には参るばかりだ、と思い、私はまたこの長い話を喉を枯らしながら語って聞かせた。

リリーはシリウス達ほど楽観的に物を見ていなかった。
ただ、最終的な結論としてはリーマスと同じようだった。

「何にせよ、誰にも被害がなくて良かったわ」
「わからないよ。私がレイブンクローの談話室に行った時には既にシモンズは誰かに話しかけてたし、メルボーンだって────」
「まあ、100%これからも安全、って言えるわけじゃないかもしれないけど…。でも、少なくともあなた達"監督生"は、その立場に相応しい行動を示してみせたじゃない? ダンブルドア先生が指名した生徒達は、本来先生の目が届かないはずのところでちゃんと生徒を"監督"してくれていたのよ。ヴォルデモートにとってそれがどれだけ正しく理解されるかはわからないけど────少なくともホグワーツはダンブルドア先生だけの牙城じゃない、ってことくらいは向こうさんにもハッキリわかったんじゃないかしら」

なるほど、そういう見方もあるのか。

「良かった、私がたまたま監督生で────」
「何言ってるのよ」

リリーは私の安心を鼻で笑って蹴飛ばした。

「そんなあなただから監督生に選ばれたのよ。私、ずっとそう言ってなかった?」



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