「ロンドンに!?」
「一人暮らし!?」
「すっごい!」
「思い切ったなあ」

8月12日、引越し作業を終え、ある程度の荷解きを終えてからポッター家を訪ねると、既に全員揃っていた悪戯仕掛人とジェームズの両親が去年と同じように温かく出迎えてくれた。

どうして来るのがこんなに遅くなったのか────その理由を一番に尋ねられ、夕食の席で事の顛末を話すと、この通りの反応。

「魔法省の国際魔法協力部だなんて…志が高いのね、イリスは」と、ユーフェミアさんが言う。フリーモントさんも、「うん。若いのにちゃんと考えて、マクゴナガル先生を呼んでまでお母さんを説得したのはすごいことだ。頑張ったね」と言ってくれた。

本当は家出が第一の目標で、進路はその理由付けに過ぎません…とは流石に言えなかったので、私は2人の誉め言葉を素直に受け取っておくことにした。
魔法省に興味がないわけじゃない。ただ、それと同じくらい今は他にも色々なことに興味があるというだけ。私の場合はまず、"どの職に就くか"より"どう生きるか"を定めなければいけない。

かなり荒っぽい手を使った自覚はある。でも、まだ後ろ盾も資金もない私が一人で生きていこうと思ったら、こうするしかなかったのだ。もちろん本当に自立するまでに援助してもらった資金は、職に就いた後でしっかり返すつもりだ。

────夕食後、私達はジェームズの部屋に呼ばれ集まっていた。

「イリスがまさか家出するなんて思わなかったよ」と、まだ彼は興奮している。

「家出じゃないよ。エリートコースを進むための"社会勉強"なんだから」
「っていうのが建前なんだろ?」

シリウスはいつも通り皮肉たっぷりの笑顔で言った。

「マクゴナガルまで利用して、国際魔法協力部の名前を盾に家出するとはなあ…考えつかなかった」
「だから家出じゃ…まあもう、みんなの前なら良いか。そう、私、あの家を出たかったの」

1年生の時からそうだった。
ずっとあの家を出たかった。夏休みの二ヶ月でさえ、帰りたくなんてなかった。

でも1年中ホグワーツにいることなんてできないから、どうしても帰らないといけなくて────それがどうしても辛かった。辛くて、辛くて、耐えられなくなって────。

私は、壮大な家出計画を立てることにしたのだ。

もちろん彼らは(シリウスを除いて)"リヴィア家が教育に厳しい"というふんわりとしたことしか知らない。私がただのリヴィア家のお人形で、人格を持つことを許されなかったということまでは流石に語っていないから、この家出騒動は彼らに相当なショックをもたらしたらしい。

そりゃあそうでしょ、規則厳守を是としているはずの私が、突然家出してきたっていうんだから。その背景にある13年蓄積された強い思いを知らなければ、「なんでまたそんな"いきなり"家出なんて」となるのも当たり前のことだ。

「イリス、君って意外と冒険好きだったりする?」
「しない。超堅実派」
「でもわかる、一回してみたいよね、家出…!」
「ピーターには無理だよ。3日で野垂れ死ぬぞ」
「でもどうしてそんなことに思い至ったの?」
「どうせまた"自分にどこまでできるか試してみたかった"とか、そんなんだろ」

答えに困るリーマスの質問が飛んだ瞬間、シリウスがいい加減な返事でカバーしてくれた。一瞬会った視線から、私への深い理解を感じる。

「自分にどこまでできるかって…笑えるなあ、それ」
「だってこいつ、意外とやらかしてるぞ。1年生でマルフォイに杖を向けて、2年で必要の部屋を開けて、3年でポリジュース薬作ってるからな。そろそろ家出でもしとくかって思ったんじゃないのか?」
「じゅ、順番がめちゃくちゃだ…」

ピーターはそう言うけど、私にとっては"家出"こそが一番難しいことだった。シリウスがうまく言い繕ってくれはしたけど、本当に"自分にどこまでできるか"なんて簡単な気持ちしかなかったとしたら、ここまでのことはできなかった。

「まあなんでも良いや、幸せそうだし! とりあえずイリスの自由に乾杯!」
「かんぱーい!」

どこからか持ち出したらしいかぼちゃジュースで乾杯し、その晩は解散した。

その後、与えられた客間にひとり入り、数日前に初めてご対面した新居のことを思い出した。
どこにでもある、ワンルームのアパートメント。この間までお母様のはとこ(私は会ったことがない)が住んでいたというその部屋は、確かに電気や水道も通るし、家具まで一通り揃っていたので、すぐにでも暮らせる状態になっていた。

私はその時、ホグワーツに初めて来た時と同じような感覚に陥った。

私はひとりだ。私は自由だ。
自分の言動に責任を持ち、自分の考えに基づいて生きていくんだ。

その重みが、心地良い。

「────イリス、いるか?」

太陽の光を一心に浴びながら背伸びをした、あのなんともいえない気持ちよさを思い出しながらここでも体を伸ばしていると、外からシリウスの声が聞こえた。

「どうぞ」

シリウスはこの一ヶ月でまたいくらか背が伸びたようだった。ホグワーツで毎日顔を合わせていた時にはあんまり意識していなかったけど、もう首を曲げないと視線が合わない。
そんな彼は迷いなく私のベッドにぼんと腰掛けて、おもむろにこちらに向けて拳を突き出した。

「?」

よくわからないままガチンと拳を合わせると、シリウスはニヤリと笑った。

「家の呪い、解いたんだな」

────わざわざそれを言いに来てくれたのか。
私が自分の家をどう思っているのか、その真相を全て知っているのはシリウスだけだ。だからさっきもああして悪意のない質問をさらりと逸らしてくれて、こうして2人の時間を作って────改めて祝いに来てくれたんだ。

「まだ完全に、じゃないけどね。資金援助はしてもらってるから」
「それでも1年生の時の君だったら絶対できなかっただろ」
「あー…うん、そうだね」

それはそうだと思う。縛られていることを自覚しながらも、縛られたままでないと生きていけないと盲信していたから。
家を出るなんて選択肢が、あの頃の私にはなかったから。

だから、最初から家に真っ向から反発していたシリウスとは何度も喧嘩した。みんながみんな、あなたのように強くはないと。自己主張なんて、そんなに簡単にできないと。

「まあでも、今回もかなり姑息だったとは思ってるかな、流石に」
「そりゃそうだ。誰が国際魔法協力部になんか行くかよ」
「だから、本気で自分の思ったことを言って家から解放されたわけじゃないんだよね。お母様の中ではまだ、"イリスはリヴィア家のために生きてるのよ"って認識のまんま変わってないよ。これを本当に自由って言って良いのか…正直、ただ都合の良いことを言って逃げただけのような気もしてて」
「良いんじゃないか? それが君だろ?」
「うーん…」

それが皮肉なのか真剣なのか、判断がつかずに唸っていると、シリウスはふっと小さな笑みを漏らした。

「良いんだよ。どれだけ本心を伝えても捻じ曲げて捉える奴が、世の中にはごまんといるんだ。だったらもう、最初から面倒だってわかってる奴には都合の良いように勘違いさせておいて、わかってる奴にだけわかってもらいながら思うように生きるのが一番楽しいに決まってる。それだって、十分な"自由"だよ」
「それがシリウスの信条?」
「そういうこと」

言いながらシリウスは仰向けに寝転がった。艶のある黒髪がはらりと目元にかかって、まるで綺麗な肖像画を見ているようだった。

「あー…でもまさかあのイリスがこの僕より先に家の呪いを解くとはなぁ…」
「まあ、うちのお母様はやり方さえわかれば攻略が簡単だからね。シリウスのお母様はまた…別じゃん?」
「ま、説得って方法が無理なのはそうだな。…でも次は僕もあの家を出るぞ」
「出たところで、次に身を置く当てはあるの?」
「ここ」
「はは…」

まあ、フリーモントさんとユーフェミアさんなら喜んで迎え入れそうではある。

「…僕、君のこと尊敬してるよ」
「…うん? ありがとう…でも急にどうしたの?」

隣に腰掛けて、寝転がっているシリウスの顔を見る。上から見下ろすシリウスは真面目な顔をしていた。何の表情もない顔で、薄い灰色の目をこちらに向けている。

「1年生の時はあんなにペラペラだったのに、今はちゃんと地に足つけて、自分で道を選んで歩いてる感じがする。最高にクールだよ、君」
「シリウスにそう言われると嬉しいな。1年生の時からシリウスは私の憧れだったから」

言いたいことが言える人。
家の教えであっても間違っていると言える人。
自分の信じたものを信じ抜ける人。

そうだ、私は、彼のようになりたかったのかもしれない。
別に無鉄砲になりたいわけじゃない、攻撃的になりたいわけでもない。

それでも、私は彼に憧れていた。

彼の奔放さに、情の厚さに、そして、強さに。

「イリス…」
「シリウスなんて最初っからクールだったよ。昔はちょっと怖かったけど、自分を持ってて、迷いがなくて…格好良いなって、思ってた」

シリウスが身を起こす。寝転がっていた時は距離があったけど、彼が起き上がったせいで急に顔が近づく。
この3年で随分と彼も大人になった。生意気にしか見えなかった顔は品のある狡猾さへと変わり、パーツの可愛らしさに対してアンバランスでしかなかったニヒルな表情は今、鋭い目とまっすぐ通った鼻筋と薄い唇によって究極のバランスを保っている。髪を少し伸ばしたのだろうか、少しだけ目にかかるその細い黒が、どこか色っぽかった。

「シリウス…?」
「…最初は、君のことがそんなに好きじゃなかった。境遇は似てるのに、家のくだらない教えに呑み込まれた弟みたいで…あんまり良くない意味で、気になってたんだ」
「うん、そんな感じはしてた」
「まあ、それで大喧嘩したもんな。覚えてるか? お互いに弱虫、単純って罵り合ったの」
「覚えてるよ。この間だって頭でっかち、傲慢って言い合ったよね」

お互い、離れようとはしなかった。ちょっと動けば触れてしまいそうな距離のまま、ひっそりと笑う。

「でも、だんだん君は変わっていった。色んな奴の話を聞いて、ご丁寧にホグワーツの歴史まで調べ上げて、君だけの意見を…信条を創り上げていった。正直、君が変わったことそのものより、変わろうと必死になっている君の姿が眩しかったんだ」

そしてもう一度、「だから今は素直に尊敬してる」と言われた。

顔が熱い。こんな近いところで言われてしまうと、どう反応したら良いのかわからなくて…心臓が、どうしたってドキドキしてしまう。
今までだって、私の意思じゃない"家の言いなりになった行動"によって「尊敬してる」って言われたことなら、何度でもあった。
でもこんな風に、私自身が考えて、動いて、手に入れたそのものを────そしてその過程を「尊敬してる」と────そんな風に認めてもらえたのは、初めてだった。

「イリス、あのさ……」
「うん…?」

これ以上何を言われるのだろう。何を言われても恥ずかしくなるだけな気がする。思わず目を逸らしながら、シリウスの言葉を待つ。

「その、もし…君にその気があれば────ジェームズ!!

せっかく何か大切なことを言おうとしてくれていたみたいなのに、突然吠えたシリウスの、今まで聞いたこともないような大声に、私のお尻がぴょんと跳ねた。
見ると、戸口の隙間からハシバミ色の目がこちらを覗いていたのだ。

「良いんだ、僕に構わず続けてくれ」

ジェームズはニヤニヤしながら部屋に入ってきた。
シリウスが頭に手を当てて大きな溜息をつく。

「その気があれば、何?」

私も聞けずじまいになっていたので尋ねると、シリウスは信じられないようなものを見る目で私を見た。

「…その口のうまさを分けてくれって言いたかったんだよ」

ヤケクソのような口調でそれだけ言って、シリウスは部屋を出て行ってしまった。

「子供だよな、あいつって意外と」
「口のうまさはリヴィア家で11年育てられて初めて身に着いたものだからなあ…」
「良いんだよ、あんなの真面目に聞かなくて。それよりさ」

体よくシリウスを追い出したジェームズが、今度は私の前に座った。ベッドを我が物顔で占領したシリウスとは違い、彼は床にあぐらをかいて座っている。

「僕、気づいちゃったかもしれないことがあって」
「なに?」
「その…エバンズのことなんだけど」
「うん、好きなんじゃないかなって思ってた」

もったいぶった言い方には慣れていたので、スパッと本題に切り込む。
ジェームズの反応は意外なものだった。
目を見開き、背をのけぞらせ、腕で顔を隠している───真っ赤になった顔を。

…え、今のってわざともったいぶったんじゃないの?

「知ってたの!?」
「知ってたっていうか…なんとなくそうかなって…え、ていうかジェームズこそ自覚なかったの?」
「いや、だって女の子はみんな可愛いし、賢い子も多いし、魅力的だし、その中で誰かひとりを特別に思うことがあるなんて────」

ジェームズはぶつぶつと何か言っているけど、私は最初から彼の言動に引っ掛かるものを感じていた。

「ていうかなんでエバンズは僕らのことをそんなに嫌ってるんだ?」
「そりゃ、ジェームズおまえ、エバンズはあのスネイプとヌルヌルつるんでるんだぞ。僕たちなんて"ものもらい"みたいにうっとうしい存在なんだろうさ」
「もったいない、せっかく可愛いのに」


1年生の時のそんな会話なら、確かに"たくさんいる可愛い子のひとり"で良かったかもしれない。

「エバンズって、結構良い子だよな? 可愛いし、頭も良いし」
「おいおい、エバンズはやめとけよ。お前とは絶対合わないから」


2年生の終わりの時には、私もシリウスも同じように思っていただろう。
気にかけているのはわかるけど、合わないだろうからあんまり近づかないようにしときなよって。

「エバンズもゾンコに行くの?」
「なに、悪い?」
「君が行くなんて意外だなあって思ってさ。でもめちゃナイスアイデア。あそこ、すっげえ面白いよ!」

「そういえばリリーのために夕食の席を取っておく約束してたんだった。そろそろ行くね」
「───あ、ねえ、僕らも一緒しちゃダメかな? エバンズって話してみたら意外と面白いと思うし、その…向こうがあんまり友好的じゃないだろ? この機会に親交を深めたいと思ってるんだけど」


3年生のハロウィンの日、私はもしかしてこれは本気なんじゃないだろうかって思った。

「エバンズってやっぱり良い子だよな! 公平で、勇敢だ! ああ、それなのにどうしてあんな弱っちいナキミソなんかと一緒にいるんだろう…」

そして3年生の学期末、その疑惑がほとんど確信になった。

ジェームズはリリーを特別視してる。

「どうしてだろう、あの子が僕のことをそんなに好きだと思ってないのはわかってるんだよ。僕だってスネイプなんかとつるんでる子のことをこんな風に思うなんて思わなかった。でもさ、ふとした時に思い出しちゃうんだ、あの赤い髪と緑の瞳を────」

混乱しているジェームズを見て、私の顔に笑みが広がる。
人には良いところも悪いところもある。
悪いところで折り合いがつけられないのなら、それは仕方ない。
良いところがうまく噛み合う人とだけ友達でいれば良い。

じゃあ、悪いところで折り合いが"つけられそう"な人がいたら────?

それは、ぜひ"これから"仲良くなってほしいな、と思う。

「だってリリーは可愛くて優しくて賢くて明るくて強い子だよ。好きにならない方がおかしいよ」
「そう? …うん、でも君の言う通りだ。あの子は可愛くて優しくて賢くて明るくて強い。スネイプと仲が良いのだけが欠点だけど、人間には誰しも欠点があるものだから、それも仕方ない…」
「うん、だからもう少しスネ────」
「そうだ、もう少しアピールしてみよう。そうか、やっぱり僕はエバンズのことが好きだったのか…。あ、でもそれじゃ僕のファンの子達になんて言ったら良いんだ?」
「…とりあえずそれはリリーとうまくいってからにしなよ」

他のファンの子なんかより、もう少しスネイプへの態度を和らげることが一番なんだと思うんですけどね。

「ねえイリス、そういうわけで、君には協力してほしいんだ」
「それはもちろんそのつもりだけど、今のままじゃリリーを落とすのは正直難しいと思うよ」
「何を言う、それが燃えるんじゃないか」

厳しいことを言うなら早めに、と思って心を鬼にして言ったのに、逆にジェームズに火を点けてしまったらしかった。壁は高い方が良いとかいうあのわけのわからない男の子理論が、まさかここで出るとは。仮にも14歳じゃないのか、この人は。

「ウーン、いきなり2人きり…は難しいから…やっぱり僕らの輪の中にエバンズを入れるのが一番自然なんだけど…」
「断られると思う」
「じゃあ僕が君らの中に入る?」
「私は良いけどリリーがどこか行くと思うよ」
「ええ…じゃあどうしたら良いのさ」

どうしたら良いんだろう。今の段階では、ジェームズとリリーをいきなり仲良くさせるのは難しい気がする。どちらかというと、リリーのジェームズに対する嫌悪感を薄めるのが第一優先というか…。

「わかった。じゃあとりあえず、クィディッチの試合に連れて行ってみよう。一番ジェームズが輝ける瞬間だからね」
「ナイスアイデア! ありがとう!」
「それから…そうだね、ホグズミードで偶然を装って同席してみる? 一番混んでる時間に三本の箒に行くとか」
「それも良いな…あ、待って、今メモするから…」

ジェームズは私が言った案をひとつひとつメモしていった。
そして5つほどリストができたところで、不意に顔を上げる。

「────なんか、"僕とエバンズ"の時間が少なくない? いつも他の誰かが混ざってるんだけど…」
「あのね、この際だから言うんだけど、今までのリリーのジェームズへの評価って最悪なの。たぶん、あの…なんだっけ、名前を言っちゃいけないあの人の信者」
「死喰い人?」
「そう。その死喰い人の次くらいに嫌われてる」
「え、そこまで?」

良かった、やっぱり自覚がなかったんだ。ジェームズは愕然とした顔をしているけど、これは事実だ。こんな状態のまま"正攻法"で攻めたって、リリーが落ちるわけがない。

「だからまずは"遠い距離"から始めないと。偶然とか、噂とか、そういうので良い。ジェームズの良さをリリーに少しずつわかってもらっていって、それから直接誘うんだよ」
「ええ…そんなに時間をかけないとデートにも誘えないの?」
「誘わない方が良いと思うね、正直」
「そんなあ…。僕、それまで我慢できるかなあ…」

できなさそうだな、と思ったけど、それを私が言うわけにはいかないので黙っておいた。

「まずジェームズにやってほしいのは、リリーの前であんまりスリザリン…というかスネイプをバカにしないこと。今まで通り友達を大事にすること。それから、もう少し大人しくすること」
「大人しく…?」

本気でわけがわからないというように首を傾げられてしまった。
規則を守れ、と言ってしまうのが一番簡単なんだけど…それを想像したら、なぜか私の方が寂しくなってしまった。

プライドが高くて自慢ばっかりなところにウンザリすることもあるけど、いつも目立っていて、みんなの中心にいるジェームズ。リリーからの評価に限って言えば最底辺にいることは間違いないんだけど────他の大勢から見れば、彼は確かにヒーローであり、そんな行動は彼の良いところでもあるのだ。私だって、ジェームズのそういうところ、結局嫌いになれないなあって思ってるし。
だからそれを潰してしまうのは…なんだかもったいないな、と思った。
何よりリリーの心を掴むためだけにそんなことをして、本来のジェームズを殺してしまうようなことはしたくない。それは、私が小さい頃にやって破滅したやり方と同じだったから。

「…ううん、最後のは良いや。ひとまずスネイプにあんまり構わないで。あとはいつも通りで良いよ。ジェームズのフォローは私からもするから、少しずつでもジェームズの良いところをリリーにわかってもらえるよう、一緒に頑張ろう」
「もう僕…たまにイリスのことが女神に見えるよ。マジで」
「ありがと。でもそれをリリーが聞くかはわかんないからね?」
「うん、うん、なんでも良いよ。ありがとう、本当にありがとう」

熱烈なジェームズを見て、口元がニヤける。
今まであんまり色恋に関わったことがないから、私もこればっかりは何が正解なのかわからない。
でも、この恋は絶対に叶ってほしいと思った。



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