真実(と仮定している推測)に辿り着いた夜、確かに私は威勢良く「いつも通り接するから」なんて心の中でリーマスに宣言してみせた。
しかし翌朝起きてみると、それでもちゃんとリーマスを前にしても平常心でいられるかどうか、自分が全く自信を持てずにいることに気づいてしまった。

何度でも言うけど、それは彼のことが怖いとか、危険だとか思っているからじゃない。それだけは絶対にない。

ただ、私は"月に一度姿を消す彼"を見ても、今まで通り「大変だね」と何も知らない体で言えるかが心配だった。
必要の部屋へ頻繁に通う4人を見ても、今まで通り「何してるの?」と適度に(いきなり一切黙るのも不自然だし、だからって深く踏み込むこともできないし)尋ね続けられるかが不安だった。

これはもはや、リーマスがどうこうという話じゃない。
私がいかに"知っていることを知らないフリができるか"という問題なのだ。

ああ、余計なことを言ってしまわなければ良いんだけど。あるいは、余計な沈黙を挟んでしまわければ良いんだけど。
うだうだとそんなことを悩みながら、私はそろそろと寝室を後にしたんだけど────ええと…結論から言うと、"大人受けする"リヴィア家の教えが、こんなところでも役に立ってしまった。

「おはようイリス、今日はエバンズと一緒? 僕らこれから4人でクィディッチやるけど、混ざる?」
「おはよう。ごめん、今日はリリーと課題をやっつけようって約束してるから、終わったら遊んで」
「ええっ、まだホリデー初日なのに!?」
「初日だからでしょ。そんなこと言うなら、もうレポート見せてあげないからね」
「僕らにはリーマスがいるからな。どうぞ、ご自由に」
いつ僕が見せるって言った?」

心配事とは大抵その通りに的中してしまうもの。嫌な予感が当たり、朝一から悪戯仕掛人と会っちゃったけど────私は自分でもびっくりするくらい、完璧に"いつも通り"でいられたと思った。
昨日はあまりにも一度に色んなことを考えすぎたせいで、単に気持ちが乱れていただけみたいだ。起きた瞬間にはあれだけ心配していたというのに、実際に少し時間が経ってから当の4人を見たところで、心は全くザワつかなかった。

「いかなる時でも冷静さを欠かないように。たとえそれがただのポーズであったとしても、困惑している姿をさらして隙を見せないのよ」なんて、そんなことを言われたのは一体いつのことだっただろうか。まだ十歳にもなっていなかった頃だと思う。
うちはどこの特殊部隊だと思ったこともありましたが、お母さま、ありがとうございました。その教えのお陰で今私は、普通に4人と喋れています。

クリスマスのホグズミードも、1回目同様とても楽しかった。前回、飛んでいく羽根ペンに散々手こずらされたはずのリリーが、またも懲りずにゾンコで財布を取り出しているのを見て大笑いしたり────私が三本の箒で、それがどんな飲み物かもよく知らずにファイア・ウィスキーを頼んでしまったり(マダム・ロスメルタに「あなたにはまだ早いわ」とたしなめられたので、今度は逆にリリーが盛大に笑っていた)。

課題を早々に終え、ホグズミードを楽しみ、残りの時間はのんびりとリリーや悪戯仕掛人達と遊んで過ごす。
そうしてあっという間にホリデーが明けると、授業は揃って次のステップへと進んで行った。

どんどん難しくなっていく内容、増える課題────私達が必死に学業に精を出している間にも、4人は相変わらず必要の部屋に入り浸っているようだった。
他の3人はともかく、ピーターは今期のテスト、大丈夫なのだろうか…。

ただそんな中で、2月に入ろうかという時────私は彼らの中に、あるひとつの小さな変化が起きていることに気づいた。

「シリウス」

夕食後、スネイプを見かけたので話しかけてくる、と言っていたリリーを玄関ホールに残して談話室に戻る道すがら、ひとりで前を歩いているシリウスを見かけた。

「ああ、イリス」
「最近ジェームズと一緒じゃないね。ケンカ?」

もちろんご飯や授業の席にはいつも一緒についているのを見ているので、ケンカなどしていないことは知っていた。ただ、今まではどんな時でも────それこそ一歩踏み出す分だけの移動でも2人は常にひとりの人間であるかのように行動していたのに、最近はその半身を分かちているようだ。
その様子は、傍から見ていると少しだけ寂しい光景だった。

「クィディッチだよ」
「えっ、こんな夜に?」
「今年のうちのキャプテン…デイヴィスがマジでやばいんだ」

デイヴィスといえば、7年生のチェイサーだ。ジェームズが1年生の時からグリフィンドールのレギュラーメンバーを務めていて、体格に恵まれている上に箒のコントロールも上手な名プレーヤーだった。

「ジェームズ、相当期待されててさ。チームの練習以外の時間でも、チェイサーの特別訓練とか言ってしょっちゅう駆り出されてるんだ」

談話室への道をだらだらと2人で歩きながら喋る。シリウスと2人で歩くことなんてほとんどなかったからあんまり気にしてこなかったけど、すれ違う女子生徒の視線が思った以上にすごかった。まるでシリウスに"目を奪われる魔法"がかかってるんじゃないかと思うほど。
シリウスの姿を見た瞬間まずぽっと顔が赤くなる子、真顔ですれ違ってこっそり後から振り返る子、反応は様々だったけど、出会う女子の半分くらいがシリウスに囚われているみたいだった。

すごいな、格好良いのは知ってるつもりだったけど、変につるんできたこの2年ちょっとのせいで"身内感"が生まれ、いつの間にかその客観的な評価がぼやけてたみたいだ。

「相棒がクィディッチに駆り出されてる間、シリウスは女の子にしょっちゅう駆り出されてるってとこかな?」

当然、その視線に気づかないシリウスじゃない。ちょっとした皮肉もこめてそう言って笑うと、シリウスは大きな溜息をついた。

「持って生まれたものだけで判断する人間は好きじゃない」
「一貫してるね。でもジェームズが聞いたら怒りそう」
「怒りたきゃ怒れば良い。顔ならいつでも交換してやるさ」
「良いじゃん。ポリジュース薬でも使ってシリウスはクィディッチをして、ジェームズはモテモテ体験をするの」
「はは、そりゃ悪くない。僕はあいつの目の色、結構好きだしな」
「シリウスの灰色の目も綺麗だよ」
「そりゃどうも」

本気で言ったのになあ。どうやらシリウスにはそんな言葉でさえお世辞だとしか思ってもらえないらしい。
私は別にシリウスのことを男の子として意識したことがないから構わないけど、本当にシリウスのことを好きになってしまった女の子からしたら、この人のこのスタンスはとっても厄介だと思う。一体今までどれだけの女の子を泣かせてきたんだろうか。

「イリスこそ、エバンズは?」
「スネイプと格闘中」
「はっ、よくやるよ」
「とは言っても、そろそろ愛想尽かしちゃうんじゃないかって心配なんだけどね。スネイプ、リリーに言われる毎に意固地になってる気がして…」
「なんで君がそれを心配するんだ? エバンズだって、あんな奴とはさっさと縁を切った方が良いだろ」
「うーん…」
「なんだ、君もスニベルスの肩を持つのか?」

シリウスの声が少し上擦った。でもそれは違うことだけは明らかなので、「そうじゃない」とひとまずすぐに否定してから、私は改めて言葉を選ぶ。

私はスネイプの肩を持ったりは、しない。
スネイプが私を敵視している以上、私がスネイプの味方をすることはない。
だから、私が迷ってしまうのは────。

「私はリリーに傷ついてほしくないんだよね。小さい頃に仲良くなって、魔法使いとしての素質があることを教えてもらって、マグルの街中で"魔法使い"として一緒に過ごしてきた友達は…きっとリリーにとって、すごく特別なんだよ。当然、スネイプもその頃は今みたいに闇の魔術にどっぷりじゃなかったはずだし」
「…それで?」
「そう、だからリリーはまだ子供の時のままの気持ちでスネイプと接したがってるんだと思うの。なのにスネイプは、そんなリリーの気持ちを理解しないまま闇の魔術にハマッていってるから…」

リリーが本来嫌っているのは、邪悪な魔法、それだけだ。スネイプの方じゃない。

呪いの会得に秀でているのは確かにすごいことだと思う。でもそれは、薬と同じ。正しく使えば人の命を守ってくれるけど、ひとつでも使い方を間違えれば猛毒になる。

スネイプは確実に、毒となる使い方をしていた。
それは単に自分の強さを証明したいだけなのかもしれないし────もしかしたら、うちの寮でヒーローと讃えられているジェームズに対抗したいという気持ちもあるのかもしれない。

どちらにしろ、そのやり方が却ってリリーを傷つけているのは間違いなかった。
何の邪心もなく付き合えていたあの頃から、どんどん遠ざかっていく。
何度引き戻そうと手を伸ばしても、振り払われてしまう。

「大好きな幼馴染がどんどん自分の嫌いな魔法に浸かっていって、理解しあえなくなって、もし本当に最後に悪い決別の仕方をしちゃったら…きっとすごくリリーは傷つく。私は別に、リリーがスネイプと縁を切ろうが切るまいが…そこはどっちでも良いんだ。ただ、リリーに傷ついてほしくないってだけなの」

シリウスは気のない風に「なるほどな」と言った。私の言いたいことはわかってもらえたようだけど、それでもやっぱり彼にとってはどうでも良い話題だったみたいだ。

「エバンズも意外と情に溢れてるんだな」
「だからこそジェームズにもあそこまで固執してるんでしょ。情がなければ人のことをわざわざ嫌ったりもしないよ。エネルギーの無駄」
「それは君の話か?」
「残念、シリウスの話でした」

嫌味の応酬で笑い合う私達。シリウスの場合は素であんまり他人に興味がないのかもしれないけど、私の場合は「無駄な敵を作るな。近づく人間だけを選んであとは切り捨てろ」と教えてこられた弊害によるものだ。ちなみに、今は絶賛その教えに背こうキャンペーンを実施中なので、私の情はここを卒業する頃にはもう少し育っている…予定。

「まあでも、確かに君もだいぶ人間らしくなったよ」

笑いが落ち着いた頃、シリウスがぽそっと言い添えた。

「そうかな」
「ああ。1年の時に比べたら、かなり"今のは君自身の意見なんだな"っていうのがわかるようになってきた」
「良かった。まあでも、まだ人間3年生みたいなものだから、かなり言葉を選んじゃうところは変わらないんだけどね」
「それでも立派な成長だよ、ミス・リヴィア。グリフィンドールに300点」
「はは、寮杯ゲット間違いなしだ」

一瞬だけ真面目に褒めてもらったのに、またすぐ冗談に逆戻り。絶え間なく笑いながら2人で談話室に戻ると、ちょうど寮を出て行こうとしていたらしい同室のシルヴィア・ディケンズと会った。

「あ、シルヴィア、これからご飯?」

私は基本的に寝る時しか寝室に行かないし、行ったとしてもだいたい隣のベッドのリリーとばかり話しているから、そこまでシルヴィアとは特別仲が良いってわけじゃなかった。でも一応毎日顔は合わせているし、あいさつくらいは友達としてする"普通の仲"だったから、今もこうして気軽な気持ちで話しかけた。…の、だけど。

────まさか、そこで無視されるとは思わなかった。

シルヴィアは私とシリウスが並んでいるところを一瞬見ると、わざとらしく視線を外して、そのまま無言ですれ違い去ってしまったのだ。

「────聞こえなかったんだと思う?」
「いや、無視されたんだと思う」

横に立っていたシリウスの言葉は手厳しい。

「私、何かしたのかな」
「寝言でディケンズの悪口でも言ったんじゃないか?」
「悪口言えるほどシルヴィアのこと知らない…」
「じゃあ嫉妬とかそんなんだろ。理由のない嫌悪はだいたい嫉妬って相場が決まってる。君はリヴィア家自慢の優等生だからな」
「えー…」

シリウスは相変わらず興味がなさそうだったけど、私はそれに納得していなかった。
2年半同じ部屋にいるけど、シルヴィアがあんな風につっけんどんな態度を取ってきたことはなかったから。リリーほど親しみのある態度を取られたことは確かになかったかもしれないけど…でもリリーは私より優秀な魔女だし、やっぱり嫉妬という線は考えにくい。私は単に、シルヴィアからあんまり性格が合わないって判断されたんだとばかり思っていた。

「言っただろ、ステータスで判断してくる奴にろくな奴はいないって」
「自分だってスリザリンってステータスだけでスリザリン生を嫌ってるじゃん」
「僕は"スリザリンという概念"を親愛なる母上からきちんと学んだ上で、正当に嫌ってるんだ。その概念にどっぷり浸かったスリザリンの化身どもと仲良くしろっていう方が無理だね」

言い訳になっているのかなっていないのか全くわからない論調で、シリウスは反スリザリン精神を正当化してきた。言い出したのは私だけど、この話をしても平行線を辿るだけなので、早々に白旗を挙げる。

「私には関係ないから良いけど。…じゃ、おやすみ」
「ああ、また明日」

私は一足先に寝室に戻り、シャワーを浴びてから、リリーが帰ってくるのを待つことにした。
今日は泣いてないと良いんだけどな、と思いながらふとシルヴィアのベッドを見た時、あるものが目に入る。

親愛なるシリウス・ブラック様 愛を込めて

────それは、バレンタインのチョコレートだった。そうだと一目でわかるほどのものだった。
ハート形の赤い紙でラッピングされた、両手に抱えるほどの大きなお菓子の箱。ハニーデュークスの名前が刻まれているその箱を、私はこの間ホグズミードで見た。バレンタインに、と大きな宣伝文句が掲げられていたのもよく覚えている。

…無視された理由、わかっちゃったかもしれない。

そりゃあ同室の同級生が好きな人と仲良くしてたら、良い気分にはならないよね。あからさまにシリウスを嫌ってるリリーの方がずっと親しみやすいよね。
どうやら、変化が起きたのはシリウスとジェームズの距離感だけではなかったらしい。彼らが2人でいる時間が減れば減るほど、私とシリウスの一緒にいる時間が増える。

もちろんそれは、特別2人きりになる時間を意識して増やしているわけじゃない。私からしてみれば、今までジェームズがいた時と同じようにシリウス個人にも接しているだけだ。ただ今はそこにジェームズがいないから、どうしたって取り残されたシリウスとの"2人の時間"に見えてしまうというだけで。
やましいことが何もないのに、シリウスと離れるつもりなんてない。あいさつくらいしかしない同室の女の子より、休暇さえ一緒に過ごす友達を優先するのは「当然のことだ」と思った。

────ただ、それを「当然だ」と思うまでに、5分くらいかかってしまったけど。

敵を作るなという教えには、まだ完全に背ききれていない。
自分の信条を確立させて、変わったっていう実感を持つって目標には届いてない。

ほらあ、やっぱり"グリフィンドールならみんな友達"、"スリザリンはみんな敵"、なんて簡単な考えじゃやっていけないじゃん。
ああ、それとも私が問題を深く考えすぎなのかな。
もう少しシリウス達みたいに直感で"良い奴"、"嫌な奴"って判断しちゃって良いのかな────いや、彼らはあまりに直情的すぎると思うんだけど。

ああもう、全部面倒くさいっ!
「イリスーッ!!」

思わず声を荒げながらベッドに倒れ込んだのと、リリーが泣きべそをかいて戻ってきたのは同じタイミングだった。シルヴィアのことなんかは一旦忘れることにして、私はぴょんと座り直す。

「え、ええと…あなたもあなたで大変そうね…。何かあったの?」
「ううん、全然たいしたことない。シリウスのファンからちょっとやっかまれただけ。それよりリリーは? スネイプと話せた?」
「それがね…」

リリーは「本当に大丈夫?」と一度私の心配をしてくれた上で、悲しそうに今しがたのスネイプとの会話を聞かせてくれた。内容は以前までとほとんど同じ。「呪いで誰かを苦しめないで」「ポッター達はどうなるんだ」、これの応酬。
そりゃあ私だって────幼馴染はいないけど(監督生じゃない方の、幼少期に仲良くしていたミラとは、ホグワーツに行くようになって以来一切連絡を取らなくなってしまった)────例えばこんなに大事に思ってるリリーが人に喜んで呪いをかけるような魔女になってしまったら、私だってきっと泣きながら「もうやめて」ってお願いしに行ってただろう。そしてその手を振り払われたのなら、こうやって泣いて帰ってきただろう。

そんなの、簡単に想像できる話だ。

「どうしてなのかしら。魔法って、人を傷つけるためにあるんじゃないと思うのに…」
「そうだね、私もそう思うよ」
「魔法でも人を傷つけて、言葉でも人を傷つけて、態度でも人を傷つけて…どうしてあの人達、誰かを傷つけることにしか生きがいを見いだせないの?」
「…そうだね…」

そっと、シルヴィアのベッドを盗み見る。
シルヴィアに無視されて傷ついたのは嘘じゃない。でもきっとシルヴィアは、私とシリウスが(傍目から見れば)仲良く2人で歩いていたのを見て、私よりずっと傷ついたことだろう。

「────もしかしたらあの人達も、傷ついてたのかもね」
「あんな人達が?」

リリーが信じられないと言うような声で顔を上げる。新しい涙が次々と溢れ出てしまうので、私はティッシュ箱をそのままリリーに渡した。

「うん。たぶん、誰にとっても完璧に良い人も、誰にとっても完璧に悪い人もいないんだと思うんだ。リリーにとって、それとこれは私にとってもだけど、スリザリンの一部の生徒は悪い人だなって確かに思う。でもその人達も、昔はいじめられてたり、親からちゃんと育ててもらえなかったり、悲しい気持ちをたくさん抱えてきたのかもしれない。人を嫌いになるだけの理由を、大きくしてきちゃったのかもしれない」
「イリス…」
「あっ! 待って、ごめん。リリーの言ってることが間違ってるって言いたいわけじゃないんだよ。私はひとまず、リリーの言ってることは正しいって思ってる。あの人達がどれだけ傷ついていたとしても、それをぶつける相手は間違ってるわけだし、擁護する気はない。でも────傷つけたくなる理由もどこかにあるのかもな、って、そこだけは事実として、なんとなく思ったの」

弱ってる人にこんな客観論を聞かせるなんて、ものすごく今、私、ナンセンスなのでは…!?
言ってから冷や汗がダラダラと流れる。でも慌てたところで良い慰めの言葉なんて思いつかないし、そもそもここで急ごしらえの言い訳を並べても、賢いリリーにはすぐさま見抜かれてしまうだろう。

だから私は内心すごくドキドキしながら、「あくまで客観論の話ね。私はリリーの言ってることに賛成してるよ」とだけなんとか絞り出した。それだけが精一杯、言葉を選ばずに言える本音だった。

「────スリザリン生だからって軽蔑するポッター達のことを嫌ってたけど、私ももしかしたら偏ってたのかもね。私、セブに"邪悪な魔法を使う人は性根も腐ってる"、なんて言っちゃった…」

…ちょっと想像してしまった。勢いに任せてスネイプを否定するような言葉を吐いてしまうリリーの怒りが。スネイプのことは好きじゃないので別にそこはどうでも良いんだけど、それを言ってしまったことでリリーが自分を責めてしまうのは、悲しいことだと思った。

「ううん、リリーはただ正義感が強いだけだよ。そうだね…あの人達を"闇の魔法使い"って呼ぶなら、リリーのことは"光の魔法使い"って呼ぶのが一番ぴったりだと思うな。良いと思うよ、別に邪悪な魔法を嫌っても、嫌いなものに対して腐ってるって言っても。────リリーが、前私にそう言ってくれたようにね」

言いたいことをそのまま言えば良いのよ、と言ってくれたリリーに、私は心から救われていた。でも今、そのリリーが同じ状況に立たされている。"誰に対しても"口を利けなかった私がようやく"大事な人には"口を開けるようになったと思ったら、"誰に対しても"ハッキリものを言えるリリーの方が、"大事な人に"言葉を選ぶようになってしまった。

もしかしたら(私の教育は偏っていたので)、仲の良い子に本音を伝えることの方が余程難しいのかもしれない。

「スネイプのやってることは、正直個人的には受け入れられない。最近の彼の行動はかなりエスカレートしてると思う」
「私も…そう思うの…でも、あんまり言うと余計にのめりこんでしまいそうで…。彼ね、私に闇の魔術の正当性を見せつけるためにどんどん闇に染まっているのよ…」

ああ、やっぱり。そんなところだろうとは思っていた。

「幼馴染で、昔から友達だった人を否定することを言うのは…辛いよね」

上辺だけのつもりじゃなかった。ちょっと想像しただけで胃が痛くなってしまった私の顔を見て、リリーが少し笑う。いや、これは冗談ではなく本当に痛いんです。

「私から"こうしたら良いよ"とは言…えないんだけど、言えたとしても言わないでおくね。そうしたら、せっかくの"リリーの意見"が消えちゃうかもしれないし。でも、どうかリリーはリリーの大事なものを大事にしてほしいな。それでリリーが"自分の正義"を選んで、スネイプと決裂することになっても、私が"リリーは間違ってない"って何度でも言うから。あ、でも、もしリリーが"幼馴染"を選んで一緒に闇の魔術を勉強するようになったら、私にもそれを教えてほしいな。私、身を守るお守りだってわかってるのに未だに防衛術が上達しなくて…」

言い方は変えたけど、私はリリーにもらったものと同じ言葉を返したつもりだった。
私はリリーのことが大好きだから、どんな選択をとってもこの友情に変わりはないよ、と。

そりゃあ、私も闇の魔術をリリーと同じくらい嫌ってたら話は変わるかもしれないけど。別に私、あれをそこまで嫌ってはいないし。ちょっと怖いなって思ってるだけで。
それにリリーがもし闇の魔術に傾倒するって言うのなら、そこには彼女なりのちゃんとした理由があるはず。スネイプのことはもう私にはどうしようもできないけど、2年間ずっと一緒にいたこの子がそれでも闇の魔術を正当化するなら、そっちの方はきっと私にでも受け入れられるはずだと確信していた。

スリザリンだから悪いわけじゃない。
グリフィンドールだから良いわけじゃない。

そうじゃなくて、私は自分自身が"誰の味方をしたいのか"、"何を大事にしたいのか"ということで、人付き合いを考えていきたかった。それはこの2年で、リリーと悪戯仕掛人の4人が教えてくれた、私にとっての金科玉条だから。

だから、リリーが迷う時は────あるいはあの4人が迷う時は(でも彼らは迷うことがあるんだろうか?)、彼らから教えてもらったあの時の言葉を、そのまま"私の答え"として返していこうと思う。

「ありがとう、イリス。……私、絶対に自分の正義感を裏切るような真似はしないわ。でも、セブのことも、まだ諦めない。まだあの頃の…子供の頃に戻れるように、精一杯頑張る。その代わり、最大限に手を尽くしてもまだどうしてもそっち側へ行ってしまうんだってわかる日が来たら、もうそれを限りに手を引くわ」

そして、そう言われた時にすぐ自分の立ち位置を修正できるリリーは、本当に強い子だと思う。何年経っても、この子の強さには尊敬させられるばかりだ。

「あなたのお陰でちょっとグルグルになっちゃってた考え事が整理できたわ。…うまくいくかはわかんないし…正直このままじゃ決裂しちゃうんじゃないかって……そっちの気持ちの方が強いんだけど……」
「その時は私も今までの人生で一番悲しかった話を頑張って思い出して喋るから、2人で一晩中泣こう」

私に言えることなんて、それくらいだった。
ごめんね、リリー。仲を取り持てなくて。

でも、私みたいに"とりあえず状況を丸め込む"ことしかできないような人間に、人間の信頼関係なんていう"とりあえず"じゃ到底構築できないものを手助けすることはできないと思う。多分、余計こじらせて終わるだけだ。去年みたいに。

だからリリー、私はせめていつもあなたの傍にいるよ。
あなたがひとりじゃないってことだけは、ずっと言い続けるよ。

誰かと誰かの関係がどれだけ変わったとしても、私とリリーの関係だけは絶対に変えたくない。少しずつ進む時の中で、良くも悪くも成長しながら自分の道を選ぼうとする私達の誰もが、そうやって徐々に、互いの本当にあるべき居場所を模索しているようだった。



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