3月、イースター休暇の終わり頃に、私達は再びリリーを交えて6年生用の男子寝室で相談会を開いていた。
この2ヶ月近く、校内の身を隠せる場所でピーターが色々と噂を嗅ぎ回ってきたらしく、今日はその報告を聞いてほしいと呼ばれていた。
もし相手が回り回ってヴォルデモートに直接通じているのなら、これ以上リリーをこの問題に巻き込んで良いのだろうかと、誘われた時に一瞬だけ迷った。だって悪戯仕掛人達はそういう揉め事が大好きで、自ら首を突っ込んでくるような性質だが────リリーは本当なら、平穏無事に学校生活を送りたいと思っているはず。

しかし、彼女に迷いはなかった。

「自分の目の前で邪悪なことをしている人がいるのに、放ってなんておけないわ」

その言葉を聞いた瞬間、一度でも彼女の安全を考えた自分を恥じた。リリーは最初から、私よりずっと気高く、勇敢で、そして正義感の強い女の子だった。

そういうわけで、ピーターの周りに集まって彼の偵察結果を聞く私達5人。

「えーと、確かにスリザリンの誰かがグループを組んで、他の寮からも死喰い人を募ろうとしてるのは間違いない、みたい…。聞いた話だと、レイブンクローとグリフィンドールにも確かに死喰い人に関わろうとしてる人はいたみたいだよ…。あ、って言ってもレイブンクローの監督生はすごく怖いし、グリフィンドールには僕らとイリスとエバンズがいるからってなかなか言い出せないみたいだけど。それに、結局イリスとかのお陰で、スリザリン以外の調査はほとんどできてないんだって」
グリフィンドールにまで死喰い人みたいな腐れ連中とつるもうとしてる奴がいるのか!?

ジェームズが怒ったようにピーターの言葉を遮る。私もその事実にはショックを受けたが、「まずは最後まで聞こうよ」と促すことにする。

彼の情報収集能力には目を見張るものがあった。校内の抜け道や隠し部屋を知り尽くしていることはわかっていたつもりだったが、彼がまさかそれをフルに使って本当に校内の深い噂まで嗅ぎつけてくるとは思っていなかったのだ。
気弱で、お世辞にも勇敢とはいえず、まず保身を考えるタイプのピーター ────しかし彼もまた、悪戯仕掛人のれっきとしたメンバーだった。

「あっうん…でも、その人達も例のあの人に心からついて行きたいって思ってるわけじゃなくて、反抗して殺されるくらいなら素直に従った方が良いんじゃないかって思ってるみたいで…」
「叡智と勇気の寮が聞いて呆れるな。脳みそと心臓をそれぞれロウェナ・レイブンクローとゴドリック・グリフィンドールにでも捧げた方が良い。それで、ハッフルパフは?」
「う、うん。これは僕もちょっとびっくりしたんだけど、ハッフルパフからは1人も賛同者が出なかったんだ。そっちこそ、あの人に従って自分の手を汚すくらいなら、殺された方がまだマシって」

シリウス達は感心したように「へえ、あのハッフルパフがねえ…」と言っていたが、私はなんとなくその答えを予想していた。

数日前、薬草学の時間でハッフルパフと合同授業を行った時。
私はハッフルパフの監督生、アンナ・キングトンにバレンタインの前日のことを報告しておくことにした。

「アンナ、1ヶ月くらい前の話になるんだけど…スリザリンの生徒がハッフルパフの生徒を脅してたって話、聞いてる?」

少し怖がりで、とても温厚なアンナ。嫌そうに眉根を寄せていたけど、「うん、聞いてるよ」と答えた。

「その時の生徒がキングトンっていう5年生だったらしくて…もしかしてアンナの親戚かなって思ったんだけど」
「そう、キールは私の妹なの。だからあの後すぐに本人から話を聞いたわ。あなたとリリーが助けてくれたともね。ありがとう」

私と、私の隣で会話を聞いていないふりをしていたリリーにアンナがお礼を言ってくれた。私はもちろん、実はちゃんと話を聞いていたリリーも急いで顔を上げて「どういたしまして」と答える。

「キールね、すごく怯えてたの。あなた達が来てくれて本当に安心したと思うわ」
「でもすごかったよ、彼女。7年生のデカい男の子に怒られても、"闇の魔術に関心はない"ってハッキリ言ってたもん」
「ああ…ハッフルパフはね、我慢強くて誠実な生徒が多いの。闇の魔術は確かに高度な魔法だから"勉強"のために使うことはあるけど────他のどの寮でもないこの寮選ばれた生徒は、決して誰かを貶めてまで自分の価値を上げようとは思わないわ

アンナにしては珍しく、自信に満ちた口調だった。

「私、この寮の監督生になれたことが唯一の誇りなの。大丈夫、この6年ハッフルパフで過ごし続けた私が保証するわ。今のハッフルパフが、闇の魔法に惹かれることはない

劣等生だとか、他の寮の素質を持っていない生徒の引受先だとか、ハッフルパフについてはスリザリンとはまた違った意味であまり良くない噂を立てられている。それを小耳に挟んできていた私にとって、アンナが胸を張って「うちの寮は闇の魔術と関わらない」と言う姿は、とても眩しいものに見えたのだ。

なるほど、我慢強くて誠実で、誰かを貶めてまで自分の価値を上げようとは思わない、か────。

変に威張り散らす傾向の高いグリフィンドールや、自分さえ良ければ他人を蹴落とすことも厭わないレイブンクローにはない素質だ。頭が良くて気品のあるスリザリンの素質を備えていながらも私達と平等に接してくれるヘンリーを見た時にも思ったが、やはりどの寮のどの生徒にも、誇るべきところと慎むべきところが両方ともあるのだ。

「だから、ハッフルパフは大丈夫だと思う。グリフィンドールとレイブンクローも、僕らや…えーと、レイブンクローの監督生のマゴットだっけ? あの人がいる限り、少なくとも在学中に死喰い人になる人はいないんじゃないかな」

頭の中で、またシモンズに怒鳴りつけるメイリアの声が鳴り響いた。何度思い出しても芯から震えるような、恐ろしい雷だった。

「となると…問題はやっぱりスリザリンか」

リーマスが腕を組んで唸る。彼の言う通り、スリザリン生には既にヴォルデモートの内通者(誰かは知らないが)に手を貸して、他の寮生に危害を加えようとしている事実がある。

「首謀者に関する噂は何かあったか?」
「ううん。ただ、その…グループ? 死喰い人リストを作ろうとしてるグループは、今まで出てきた名前の人達…ええと…」
「6年生のスネイプ、7年生のメルボーン、シモンズ、バナマン、5年生のクーパー、バロン、ローウェン、だな」

スラスラと今までの計画に加担してきた生徒の名前を挙げるシリウス。

「そう、その人達。その人達以外にこれに関わってる人っていったら…あ、4年生の時にシリウスに呪いをかけたあの人、あの人がいたよ」
「バートラム・オーブリーか? …あいつも加わってると?」
「そうみたい。なんか定期的に、僕らみたいにこうやって集まって悪い話をしてるって、スリザリンに入ったばっかりの1年生の子達が怯えてた…のを、ええと、監督生のヘンリーが慰めてあげてるところを見た」

ここで出揃った名前を改めて並べ、彼らの中でリーダーになりそうな者は誰だろうと考える。

「────例えば、リーダーはスネイプで、バナマンがそこに乗っかってるっていう説はどう?」

誰の顔を思い出しても、明らかにリーダーとわかるようなカリスマ性を持っている人はいなかった(目の前に"ホグワーツ"のカリスマが揃っているせいで余計霞むのかもしれない)。だからひとまず、私が知る限り最も闇の魔術に傾倒していそうなスネイプを頂点に据え、スネイプに従わなさそうな人間(メルボーンやシモンズ)は、そのスネイプに賛同したバナマンに従っているという二大支配構造を提案してみる。

スネイプの名前を出す時、ちらりとリリーの顔色を窺ったが、彼女がそれを気にした様子はなかった。床を見つめて何かぶつぶつ呟きながら、ピーターの言葉を反芻している。

「現状では一番可能性が高いな」

最初に私に賛成したのはリーマスだった。しかしジェームズがそれに異を唱える。

「それにしてはメンバーがバラバラ過ぎる。スネイプは神経質がそのまま人間になったような奴だ。スネイプが選ぶなら、もう少し自分でも物を考えられる奴を選ぶはず」

────それは、5年半敵対し続けてきたが故に相手のことを理解しきった発現だった。

「そうね」と続くのは、更にそれを越え────ホグワーツに入学する前から彼と付き合っていたリリー。

「スネイプがもし何か団体を組織するなら、間違いなく自分の言うことを聞かせられる下級生の中から才能のある人を選ぶはず。あの人、案外序列とか気にするから…7年生を喜んで迎え入れる可能性は低いと思うわ」

これには、私達全員がリリーの方をまじまじと見てしまった。
だってまさか、リリーがスネイプが不利になるような情報を自ら提供するとは思っていなかったのだから。

「…何よ」
「え、ええと…大丈夫かなあって」

何がどう大丈夫なのかわからないまま、とりあえず代表してみんなの心を私が言葉にした。
それに対しても彼女はただ鼻で笑うだけだった。────どこかそれは────スネイプを、というより自分自身を嘲っているようにも見えて、私は少しだけ苦しくなってしまう。

「もう今更なことよ。これはホグワーツと、私達と、大勢の罪のない人が危険に晒されている許されない計画なんだから。幼馴染だろうがなんだろうが…ううん、それだからこそ、私は決然とスネイプにも立ち向かわなきゃ」
「エバンズ…」

ジェームズも、この時ばかりは唇を噛み締めていた。大人になって、少しは人の気持ちを考えられるようになったジェームズ。これまでなら「スネイプとなんて早く縁を切れ」ってそればっかりだったが、今はリリーの複雑といってあまりある心情を思いやり、私と同じように掛ける言葉もないままやり場のない思いを抱えているのだろう。

「あくまで上級生で固めつつ…7年生をも簡単に指揮して…一見関係のない人達を統率する人物…」
「メルボーン、シモンズ、バナマンを従えてる点だけ考えるならクィディッチの関係者っていう線もありだけどな」
「うーん…でもバナマンは誰かを従えられるほど賢くないんでしょ?」
「そうだよ。あいつがキャプテンなのは単に力が強いから。それだけさ。練習を偵察しに行ったこともあったけど、むしろあいつ以外の選手が自主的に指揮を執りつつ進めてるって感じだったな。あいつのことはちっっっちゃいベイビートロールとでも思ってくれ」

ベイビートロール…確かに自分の配下に収まれば使い勝手は良いが、それをリーダーに据えようとは誰も思わないだろう。
メルボーンとシモンズのどちらかがリーダーだったとか? いやでもメルボーンはスラグホーン先生に化けることを相当嫌がってたし、シモンズはそれこそリーダーというにはあまりに軽率すぎる言動が目立っていた。
かといってスネイプをリーダーと仮定するとそのメンバー編成に矛盾が出てくるわけで…。
5年生の3人は論外だろう。シリウスとリーマスの前に、完全に敵意を喪失してへにゃりと座り込んでいたあの時のことを思い出す。あんな簡単にやられるような人が、死喰い人という大人でさえ手こずる敵の一員になるとは思えない。

「じゃあ、残るのはオーブリー?」
「ううん、オーブリーはリーダーじゃない…と思うよ」

私の言葉を即座に否定したのはピーターだった。

「オーブリーは4年生の時、イリスに脅されたことを相当怖がってたんだって。だからあれ以来自分から動くことはなくて、作戦会議に加わって色々提案することはあっても実行犯にはならないらしいよ」
「おっどろき。君、2年前にして既に死喰い人候補に一生モノのトラウマを背負わせてたのか」
「いや…もうその話はやめてったら…」

ジェームズの茶々はともかく、そうするとオーブリーがリーダーという説も消えてしまう。
一体誰がホグワーツを危機に晒しているのだろう。一体誰が、ヴォルデモートから唯一身を守ってくれるこの城に、その手を伸ばそうとしているのだろう。

もしかして、リーダーなんて本当はどこにもいなくて、彼らはそれぞれヴォルデモートからの指示を受けて動いているのだろうか?

「…この中にいない"本物の首謀者"が、姿も────噂すら見せず、暗躍してるのかもな」

しかしそれまでずっと口を開いていなかったシリウスが、重々しげに私の考えていたことと全く違う方向からの予想を呟いた。
ただ実際、それは私達の誰もが一度は考えたことであり────同時に、それだけはあってほしくないと願っていたことでもあった。

リーダーが彼らの中にいるのなら話は早い。リーダーがそもそも存在しないのなら、ことは厄介だが追えないことはない。

ただ、本当のリーダーがまだ他にいるとなると、その人は────学年が違う生徒を複数人従わせられる手腕を持ち、ヴォルデモートの計画を忠実に遂行して私達(あるいは先生方)の危機意識を高め、その上で完全に自分の身を隠すという────10代の子供にはおおよそできもしないようなことをやってのけていることになる。

だってこれは、「一緒にゴブストーンクラブに入ろうよ!」なんていう話とはわけが違う。死喰い人の仲間に加わらせようとして動くとなれば、相当のリスクが伴うはずなのだ。先生の目だって光っている中で、嫌がる生徒の方が多い中で、平然とそんなことができる相手がいるとなると────その相手は、かなり強力な魔法使いだと考えざるをえない。

「まあ、あくまで"かもしれない"の話だからな。影も形もわからないリーダーを追うより、ひとまず僕達は身元の割れてるスネイプ達の動向に注意していよう」

沈痛な雰囲気になってしまったその場を取り繕うように、シリウスが明るく言った。ジェームズも「そうだな。ここらでいっちょ、こっちだって本物のヒーローになるっていうのも悪くない」と軽く返す。

今はただ、それだけが救いだった。
彼らの"有事の時こそ笑顔を忘るるなかれ"────まさかそんなでっちあげの合言葉を私までもが唱える羽目になるとは思わなかったのだが。それでももう、そんな強がった言葉に縋ることでしか、私は未知なる敵から身を守り────そして必要とあらば敵対する覚悟なんて、とても持てやしなかったのだ。





そして、イースター休暇明けを間近に控え────事は、起きてしまった。





その日はリリーと一緒に夕食を食べてから、寝室で1月から始まっていた"姿現し"の練習をしようと言っていたところだった。年明けから始まったその訓練は、ホグワーツのような防御魔法がかかっている場所以外であればどこにでも瞬時に飛んでいけるという、瞬間移動そのものを会得するために開催されている。
失敗すると体がばらけて、一部だけを置き去りにどこか知らないところへ放り出される────なんて恐ろしい事例もあったそうで、私達は訓練でこそうまく姿現しをしてみせても、まだ実践に対する緊張感が拭えていなかった。

当然、この訓練を心待ちにしていたらしいシリウスとジェームズは一発目から成功させて大広間からの喝采を受けていた。リーマスのレベルは私とリリーと同じくらい(つまり、訓練の上でなら問題ないけど実際に誰も見ていないところでできるか、と言われると自信をなくしてしまうレベル)。ピーターはまだ、全く姿現しを成功させられていなかった。

「ねえ、イリス、エバンズ。夕食後に姿現しの訓練をするんだって?」

訓練の時には、"姿現し"の練習ができるよう、特別に先生の監視付きで大広間のみの防御魔法を解除することが許されていた。だから、それ以外の時間にそれ以外の場所で練習したところであくまでイメージトレーニングしかできないのだが────それでも、そんな私達に話しかけてきたのは、真向かいに座っていたピーターだった。

「よ、良かったら僕も一緒に練習させてもらえないかなあ…?」

今まで何度か一緒に話し合ってきて、リリーが別に気難しい頑固頭なだけの女の子じゃないとようやくわかってくれたらしいピーター。彼女が私達の相談に一緒に腰を落ち着けることがなければ、今もきっと話しかけてはこなかっただろうが────その話を持ち掛けられて、私はきっと今までだってピーターは私だけじゃなく、リリーにも助けてもらいたいと思っていたんだろうと思った。だって魔法薬学のテスト前とか、ピーター、涙目でこっちをチラチラ見ていたのだから(当然ながら私は魔法薬学がそこまで得意というわけじゃない。リーマスはむしろ苦手と言っていたし、シリウスとジェームズは誰かに何かを教えるという気が皆無だった)。

私はもちろん構わないので、リリーの返事を待つ。
悪戯仕掛人側から"真っ当な話"をされたのが初めてだったリリーはかなり驚いたようだ。「えっと…イリス、良いかしら?」と逆に私に許可を求められてしまった。

「もちろん良いよ。そういうことなら、ちょっと恥ずかしいけど談話室で練習しようか」

原因を思えば悪いことばかりだったが、今こうしてリリーと悪戯仕掛人の距離が少しずつ縮まってきている────そのことが、私は嬉しかった。だって私はその日を、6年近く夢見ていたのだから。

「あ、そういうことなら僕もぜひご一緒させてほしいな」

ピーターの隣にいたリーマスも乗ってくる。お互い自信のない者同士、一緒に練習できる機会はこちらとしてもありがたい。ピーターが話しかけてきたことで最初の驚きを乗り越えたリリーは、「もちろんよ」と言っている。そもそもリリーはこの2人に対しては元よりそこまでの抵抗感を持っていなかったというのもあるだろう。また一歩、彼らとリリーが近づく。

だから、まあ…。

「じゃあ僕も」
「僕も」
「あなた達は練習中これ見よがしに散々姿現しばっかりして、挙句の果てには先生が指示していないタイミングでまで移動したって減点を食らったばかりでしょう!」

────残りの2人が悪乗りしてくるなりリリーの機嫌が悪くなるのも、また当然のことだった。
なんだろうね、この一歩進んで二歩下がる感。

それでも、状況は変わっていた。
だって一体誰が今まで、私とリリーと悪戯仕掛人が"一緒に"席を立って談話室に戻るなんて、想像できたと思う? とても1年生の時には考えられなかったよ、そんなこと。

たとえ会話の中身が────。

「できる者ができない者を助けるのは当然じゃないか」
「ポッター、だからそれが全く助けになってないって言ってるんじゃない! あなた達が一度でもペティグリューのことを助けてあげたところなんて、見たことがないわ」
「いや、違うんだよ…。何をさせても人並み以下な僕が悪いんだ」
「あっ、ち、違うの。あなたができないって言いたいんじゃなくて、この2人が本当に万能な稀代のカリスマなら、あなたがたまたま苦手に思ってる分野の手助けだってできるでしょって話」
「どうしたエバンズ、さっきからワームテールには優しいな」
「ええブラック、そうよ。私、謙虚な人が好きなの」
「僕も謙虚だと思うんだけどな」
「自分で言ってる時点でどんどんかけ離れてることにどうして気づかないの? あなたは"傲慢"の具現化よ、ポッター」

────こんな風に、仲の良さを微塵も感じさせられないような雰囲気だったとしても。

「────なんだかエバンズ、だいぶ馴染んだみたいだね」

後ろで彼らの言い争いを眺めていたリーマスが、同じく全てを諦めていた私に耳打ちして楽しそうに笑っていた。

「うん。スネイプと決裂したことが良かったことなのかはわからないけど…少なくとも、最近のリリーは全く泣かなくなったかな」
「少しはうちのプロングズが貢献したと言っても良いかな?」
「まあね。ジェームズが頑張ってるのはわかるよ、一応」

そんな風にそれぞれ会話をしながら、階段を昇ろうとした、その時────。

ステューピファイ!

階段の裏の死角になっているところから、失神呪文を唱える大声が玄関ホール中に響き渡った。

「!?」

どこから、誰が、誰に向けて撃ったのか。
何もわからず、私達は反射的に杖を構え、周りの様子を確認すると────。

ワームテール!

ジェームズの叫び声が聞こえた。

────足元には、麻痺させられて床に倒れ込んでいる、ピーターの姿があった。



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