kitty
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「大丈夫。あの頃の私はもういない」
玄関でローファーの爪先をトントンと鳴らして、姿見に映る自分に笑いかける。
その笑顔がまだぎこちなく、そして見慣れないものだということには気づかないふりをして…
「いってきます!」
宮城の桜はまだ咲かない。
まだあまり慣れない道を、慣れない制服に身を包んで歩く。
予定していた時間より幾分か早い朝の澄んだ空気は、新たな門出を祝福してくれているような気がして、今まで長く下げていた目線が、自然と正面まで上がってきた。
「えっ!」
上がった視線が、少し先にある交差点を捉える。
正確には、交差点の真ん中で怯えたように立ち尽くす子猫と、遠くから近づいてくるエンジンの音。
とにかく、走るしかなかった。
間一髪のところで子猫を捕まえ、そのまま反対側の道路までダイブすると、私の後ろをバイクが大きな音を立ててスピードを緩めることもなく通り過ぎていった。
「…気を付けろよっ」
走り去った相手に届くことなんてないと分かっていながらも、恐怖でつい強くなってしまった口調に、腕の中の子猫が身体をびくつかせる。
「あっ…ごめん。君に言ったわけじゃないんだよ」
よしよし、野良かな。親とはぐれちゃったのかな。
怯える子猫の姿が何故だか他人に思えなくてぎゅうっと抱きしめていると、後ろからぱちぱちと音が聞こえて血の気がひいた。
「…かっけぇ」
「すごーい」
対照的な声色だけど、その低さはどちらも若い男のようだと分かって、首を軋ませながらゆっくり振り向いた。
「っふぁ…」
「新入生デスカ?見事なスライディング〜」
背の高い方の男は、人の良さそうな笑顔を浮かべて拍手をしている。
「…おわった」
子猫を抱いたまま脱力し、私が立ち上がることもできずにいる訳は、彼ら2人の着ている服が、私も同じデザインの制服だったからである。
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200917
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