振り払う手の熱さ。




「じゃあね名前。楽しんでおいで」

「あ、ありがと。あとよろしく」


12時になると外部からの客も多くなってきてやっと文化祭らしくなってきた。

そんな真っ只中に私は浴衣のまま教室を放り出される。

渋い顔をしたままのマイフレンドやその他のクラスメイト達に手を振り、教室を出て曲がったところの階段に向かうと、笠松先輩が壁に凭れるようにして立っていた。


「先輩」

「あ、お、お疲れ様です」

「え、あ、どうも」

なぜか敬語を使う笠松先輩に不信感を抱きつつ、近づくと少し避けられた。気がする。

「…い、行く、か」

「はい…」

笠松先輩は私の方を見ないまま階段を下りていったので少し小走りでついていく。


「なに、食べる」

「えーっと…」

事前に配られていたパンフレットを取り出して、どこかいいところがないか探した。

笠松先輩は相変わらずこっちを見ることなく歩いている。

「あ、塩焼きそばがいいです」

「1年7組 塩焼きそば」と書かれた部分を見せようと、笠松先輩の横に立ってパンフレットを差し出す。

しかし笠松先輩は私が近寄った分、勢いをつけて横に避けた。

「…あ」

「…」

なにこれ。さっきから何なんだろう。

もしかして私といるの嫌なんだろうか。

その可能性は十分すぎるくらいにある。

だって笠松先輩は黄瀬くんに勝負を仕掛けられたからそれに乗っただけであって、私はその勝負についてきたただの副賞というか、迷惑な重りだ。むしろ罰ゲームか。

そうかそうか。それならば仕方ない。

少しでも舞い上がってしまった自分が恥ずかしい。


「先輩」

「あ、あの、名字」

「すいません、私やっぱり戻ります」

「はっ?」

「なんか、迷惑かけちゃってごめんなさい。文化祭だからって浮かれすぎました」

「何言って…」

「森山先輩たちと楽しんでくださいね。じゃあまた」


早口で一方的に捲し立ててしまった気もするが許してほしい。

すぐにでもここを立ち去らなければ私は泣いてしまう。



浴衣であることを気にせず、少し大股気味で踵を返して歩き始めた。

「ちょ、名字!」

しかしすぐ、笠松先輩に腕を掴まれて振り向かされる。

だめ、今は醜い顔をしている。

パッと目が合うと、笠松先輩はたじろいだ。

そんなに私の顔がひどいのか。失礼だな。


「あっ…」

困った顔をしている笠松先輩になんだかムカムカとした。

呼び止めたくせに何も言わないなんて。

言い訳する気もないということか。

真面目で嘘がつけなくて、そういうところが笠松先輩の良いところだし大好きだけど、今の私にとってそれは心の傷を抉る道具にしかならない。

先輩が何も言わないので、私は掴まれた腕をそっと振り払ってまた歩く。

今度は呼び止められなかった。









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140330

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