線香花火が足の上に落ちる人。





夕食の時間は、それはもう盛り上がっていた。

明日の午前中は練習があるのだから、浮かれすぎるなよと監督や笠松先輩に釘を刺されても部員(私含む)のうきうきはとどまるところを知らない。

最終的になぜか黄瀬くんがシバかれて落ち着いた。






予め2年生たちが買っておいた花火を出してくる。

結構な量があるが、きっと今年も買い足すことになるだろう。

さっき近所のコンビニに寄った際に花火が売っていたことは確認済みだ。




しょっぱなから打ち上げ花火を飛ばし、暗くて見えないのにパラシュートをキャッチするために走る。

練習中と変わらないテンションの部員たちは、いったいどれだけ花火が好きなのだろうかと少し引きたくなる。

地味に花火を楽しんでいる監督の姿も微笑ましい。



私もお約束通り、早川に向けてロケット花火を発射させるが、もちろん彼は上手に避ける。

避けるだろうことを見越して早川を標的にしているのだから当然だけれど。





「あ、火が消えた〜」

「つけろつけろ」



いざ手持ちに火をつけようとすると、ちょうどロウソクの火が消えてしまったらしく、部員が慌てて付け直そうとしている。

私はその群れから離れ、火のついた花火を持っている人から分けてもらおうと近寄った。


「あ、笠松先輩、火ください」

「おぉ」

先輩がぼうぼうと色とりどりの火を放つ花火を差し出してくれたので、私も先輩の隣に立って自分の持っている花火を近づけた。

向かい合ってはお互いにダメージを受けるだけなので、隣に立ったのだが少し距離が近くてどきどきする。

周りが暗くて、花火の明かりだけしかないというこの環境も私の心臓に少なからずの影響を与えているだろう。




「あれ、なかなかつきませんね」



たまにあることだが、きちんと火種を近づけているのになかなか発火してくれない。

早くしないと先輩の花火も終わってしまう。


「貸せ」

そう言って先輩は私の手から花火を奪った。

一瞬触れた手があたたかくてまたどきりとする。





先輩が上手に火をつけてくれたため、私の花火にも無事火が付いた。

ほら、と渡してくれるのを受け取って、じゃあと言って去るのもなんなのでその場で火を見つめる。

カラフルな火に目がちかちかとした。





先輩は言葉を発さないので私も黙っていた。

やがて先に先輩の花火が消え、先輩が小さな声で「あ、死んだ」と呟いたのを私は聞き逃さなかった。


そして一瞬の間があいた後、私の花火も「死んだ」。

2人の花火が消え、先ほどまで明るかった周りが暗くなってしまう。

少し離れたところで他の人たちの花火が燃えているのが眼の端に映った。



「あの、さ」

「はい?」


笠松先輩が小さく声をかけてきたので、答えながら顔をあげる。

先輩が何かを言おうと口を開きかけたとき



「先輩たちー!今から森山先輩とハリポタごっこするんで見てください!!」



突然現れた黄瀬くんによって、先輩の口は閉じられてしまった。

話の腰を折られた先輩が怒ってしまうのではと、内心ヒヤヒヤする私をよそに、先輩は少し肩を揺らした後ため息をついて黄瀬くんについていく。


「ほら、行くぞ」

「え、あ、はい」


くるりと顔だけこちらに振り返ってそう言うので、私も続いた。






黄瀬くんと森山先輩のハリポタごっこは実にくだらなかった。

お互いに花火を向け合い、なにやら妙なポーズをしながら呪文を唱えている。

でも花火の明るさが、映画で見たあの杖から出てくる光と被って、ついつい笑いが込み上げてきた。

気が付くと他の部員も同じことをして盛り上がっていて、笑い声も大きくなる。

爆笑しながら隣を見ると、笠松先輩も少し笑いをこらえるような表情をして黄瀬くんたちを見つめていた。

私たちもやりますかという提案は一瞬にして却下されたが。







「笠松、花火が底を尽きる」



森山先輩が真剣な表情で訴えに来た。

笠松先輩は予想していたとばかりに、やっぱりかと言って立ち上がり、監督のもとへ向かう。


「今年はいくら分買わせてもらえるかな」

森山先輩の下衆な表情に私もついにやにやとしてしまった。




「ほら」


笠松先輩がぴらりと札を見せてくるので、私と森山先輩はガッツポーズをした。今年も太っ腹である。あ、見た目じゃないよ。



「じゃあ私行ってきますね」

笠松先輩の手からお金を抜き取り、コンビニへ向かおうとくるりと彼らに背を向けた。

すると2人の先輩方は慌てたような声を出して私を引き留める。森山先輩はなぜか必死に私の腕を掴んでいた。セクハラですか。



「なんでお前が行くんだよ!バカなのか!?」

「しかも1人で!」


ぎゃいぎゃいと騒ぐ2人に軽く顔をしかめつつ、私はコンビニの場所を知っていること、去年もマネージャーで買いに行ったことを伝えた。

すると笠松先輩が怒るようにして

「1人で行こうとするな!」

と頭をはたいてきた。



だって今年はマネージャーが1人しかいないから…と言い訳しようとしたが、さらにシバかれそうなのでやめておく。

笠松先輩は大きなため息をついて、オレも行くと言い出した。



「は?いや!主将が買い出しって!!」

つい半笑いで反応してしまい、なんだその顔は!とまた理不尽な形でシバかれる。うん、結局シバかれたのだ。


森山先輩はひぃひぃとお腹を抱えて笑っていた。なにがそんなにおもしろかったのかは分からない。

(まさか私の顔ではあるまいな)




結局2人で歩いて15分ほどの距離にあるコンビニへ向かった。

お店の花火を独占する勢いで購入し、2つに分けられた袋を1つずつ持って歩く。

最初笠松先輩は両方持つと言い出したので、今度は私が先輩をシバいて1つブン取った。




ちかちかと点いては消える電灯の道を歩く中で、沈黙になってしまった。

もちろん緊張はするのだが、海風を感じながら笠松先輩と黙って歩くのはなぜか心地好い。

そんなことを思っていると、笠松先輩の歩くスピードが少し落ちた気がした。

私も少しペースを落とす。まさか疲れたとか?







「さっきの話だけど」

「はい?」



ひゅっと息を飲む音が聞こえたとほぼ同時に、笠松先輩が言葉を発した。

思わず先輩を見上げるが、先輩は変わらず前を向いて歩いている。



「お前って、その、レギュラー以外とも仲良いんだな」

「え?」

「や、普段オレたちと一緒のことが多いから、それ以外のやつらとあんま関わってないのかなって思ってて」

意外だった、と先輩にしては珍しく弱弱しい声色で言った。


「そりゃあマネージャーですもん、特に同級生とは校内でもよく会うし話したりするので」

「そ、そうだよな」


まぁ、部活のことで話したりするので自然とレギュラーと一緒にいる時間は長くなるが、私は海常バスケ部のマネージャーである。

部員であれば、1軍であろうと2軍であろうと関係なく接するのは普通のことだ。

笠松先輩はどうしてそんなことを突然言い出したのだろうか。



まさか…

私友だちが少ないとか思われてたんじゃ…!?



「別に友達が少ないとかそういう類の話じゃなくて」

「あ、はい」

「なんだろな、ただ少し驚いたってだけだ」

ごめん、となぜか謝られる。

そして、オレたち以外とも仲良くしてやってくれてありがとうと訳の分からない感謝もされてしまった。

変な先輩。





「あー…この花火使い切ったらおしまいかぁ」

「なんだよ突然」


再びシーンとなってしまった空気を断ち切るため、ふと思ったことを口に出してみた。

すると返ってきた先輩の声が、いつもの凛としたものになっていて安心する。


「なんだかさみしいなって」

「そんなに花火好きなのか?」

「まぁ、好きですね。去年はどこの花火大会にも行けなかったことをまだ根に持つくらいには…」

「引きずりすぎだろ」


笑ってくれた、良かった。

心配することはなさそうだ。


「先輩は去年、花火見ました?」

「あぁ、森山たちと行ったよ」

「へぇーいいなぁ」

「行くか?」

「ふぇっ?」


普通に世間話をしていたはずが、思いもよらない方向に話が進んで驚く。


「花火、どっか見に行くか?」

「え、それは、今年…ですか?」

「あぁ」

「いいいいい行きたいです!!!」

「じゃあ、決まりな」

「は、はい!!」


え、なんだこれ!?

これデートじゃないの!?

なんでナチュラルな感じなの!?

ちょっと期待しちゃ…


「森山たちにも声かけとくわ」

「え、あ、は、はい」


ですよね。

なんで2人だって勘違いしたんだろ私はずかしー。











せっかく買ってきた花火2軍も、あっという間に消費されてしまった。

でもまたひとつ、海常バスケ部との思い出が増えて嬉しい。

ほとんどブレて、ぼやけている花火の写真たちを見返しながら私は眠りに就くのだった。

明日こそ寝坊しませんように。(切実)


























★★★★★★★★★★★★★★★★★★
140131

*












人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -