絶対絶対誰よりも


「名前ー!」

「あ、おはよう」

「おはようじゃないっ」

「え、なに?」


朝から怒っている友達。

「今昇降口で聞いたんだけど、」

カバンを持ったまま私の席に来て、屈む。

「何を?」

「笠松先輩、女の子とデートするらしいよ」


……………………

「は?」

「1年のすっごい可愛い子と!」

「なに言って…」

「その1年の子が言ってたんだから本当だよ!」

マジかぁ…。




笠松先輩、バスケ部主将の彼とは、幼なじみだ。

私は1つ下だが、小さいときからいつも一緒だった。

バスケ部にも彼について入部した。

部活以外では、幸男と呼ぶほどに、仲が良い…はずだ。

そんな彼に、いつからか恋心を抱いていた私。

私が幸男のことで知らないことなんてなかったのに…。




「ねぇ名前!どうすんの?」

「どうすんのって…」

「先輩取られちゃうよ!?」

「でも、幸男が好きな子なら仕方ないし…」

「それがね、」

急に真剣な顔になる。

「なに?」

「その1年の子、女子の間ですっごい評判悪いの!」

「はぁ?」

「男の前だと全然性格違うんだって!」

「噂でしょ?」

「そうだけど…」

私はそういう噂は嫌いだ。

きっと彼女に嫉妬した子たちがついた嘘だろう。



「もうこの話終わり!大体私と幸男はただの幼なじみだし…」

「またそんなこと言う…」

友達が眉を顰めるが、私は見なかったことにした。




1年生かぁー…。

そんなに可愛いんだ。

なんでまた幸男を。

黄瀬くんのが明らかにイケメンなのに…。

それに私、そんな話知らなかったな。

幸男とはいつも一緒だったのに。




少し悶々としながら部活に行く。

「お疲れ様でーす」

体育館に入る前、気持ちを入れ替えた。


「おう」

「笠松先輩、お疲れ様です」

いつもの笑顔を見せた。

部活中は先輩と後輩。

それが私たちのルール。




「名前、帰るぞ」

「うん」

部活後は、先輩後輩から幼なじみに戻る。

そして一緒に帰るのだ。


幸男に彼女が出来たら、これも終わりかぁ…。

幸男に彼女なんて、考えたこともなかったなぁ。

いつも隣にいるのは自分だと思ってたし…。

どれだけ危機感ないんだ私。



「名前?」

「へっ…あっ何?」

「着いたぞ」


「あ…」

ふと気付くと、私の家の前に来ていて、幸男が私の顔を覗いていた。

「今日元気なくねぇか?」

「そ、そんなことないよ!」

慌てて嘘をつく私。

「ならいいけど…」

無理すんなよと私の頭を撫でる。

…ばか。

また好きになっちゃうじゃん。



「ところでさ、」

幸せに浸っていると、幸男が話題を変えた。

「明日、一緒に帰れねぇ」


どきっ…。

まさか。

「あ、聞いたよ〜!1年生の子と遊ぶらしいね!」

「なんだ、知ってたのか…」

少し照れくさそうに頭を掻く幸男。

なんか、やだ。

そんな顔見たことない。

「やるねぇ〜!いつ知り合ったの?」

「2週間前」

「ふぅーん」

私、何も聞いてないよ。

「で、どこ行くの?」

「明日は一緒に帰るだけだ」

「え?」

「今度の日曜、部活休みだから遊びに行く」

「そうなんだ…」


それ、本当にデートじゃん…。

私、日曜日には幸男んちでゲームしたかったのになぁ。


「だから、明日悪いな」

「いえいえ!別に平気だし、楽しんで来てね!」

私、上手く笑えてる?

「名前…」

「あ、うまくいったら報告してよねー!」

「…あぁ」

ふっと幸男は笑顔を見せ、帰って行った。




「ただいまー」

ボフッとベッドに倒れる。

ふと目に付くのは、小さい頃に撮った幸男との写真。

「これももう、仕舞わなきゃね」

幸男はこれから可愛い彼女が出来るんだ。

そしたら今までみたいに、
一緒に登下校したり
自転車に2人乗りしたり
家に行ってゲームしたり
出来なくなるんだなぁ…。


「結構、きついなぁ…」

私は写真立てを、引き出しの奥に閉まった。




「解散!」

「ありがとうございました!!」

翌日、部活が終わった。

部員が着替えに行き、片付けをしているとき…

「あの、」

入口から声がした。

「はい」

振り返ると、とても可愛い子が立っていた。

「笠松さんは…」

「あ、今着替えてるから…」

この子か。

本当に可愛いなぁー。

小柄で、髪ふわふわで、色白で目大きくて、脚は細い。

うん…これは惚れるわ。


ガチャ

「あ、」

部室から幸男たちが出て来る。

「笠松先輩!」

ぱあっと顔を輝かせる女の子。
幸男は足早にこちらへやって来た。

「ごめん、待たせて」

「いえいえ!」

嬉しそうに手を振るこの子は、本当に可愛い。

「帰るか。じゃあな名前」

幸男がこっちを見る。

「さよなら、主将」

にっこり笑う私。

こんなに可愛い子に勘違いさせたらダメだから、呼び名に距離を含めた。

2人の後ろ姿を見て、小さくため息をついた。



「あれ、笠松の彼女?」

森山先輩がふっと現れた。

「まだ、みたいですけど」

急いで笑顔を作り、そう告げる。

「可愛いなぁ〜」

「そうですねー」

「でも俺は、名前ちゃんが笠松の彼女かと思ってたよ」

どきり。

「や、やだやめてくださいよ」

私だって出来ることなら…。

そう思いながら笑った。




次の日。

2人のことが気になり、あまり眠れなかった。

私、思ってたより幸男のこと好きだったんだな。

今更実感しても、遅いけど…。



寝不足の頭をそのままに、昇降口に入った。

「ねぇ、昨日どうだったー?」

「あ、笠松先輩?」

突然聞こえた名前。

横目に見ると、昨日の子がいた。

友達と楽しそうに話しながら靴を履き替える。

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