ゲレンデの神様は

注意
誠凛と桐皇のメンバーによる逆ハー気味なただのギャグです。
火神・青峰・若松メイン。くだらないです。
そしてかなり長いです。グダグダです。
細かいことは気にしないで読んでください!






誠凛バスケ部がスノーボードをするためにやってきたスキー場で、なぜか桐皇バスケ部と鉢合わせた。いつものように言い争った後は好きなように行動している各校のバスケ部員たち。
そんな中、スノーボード初体験の誠凛マネージャー名字名前は、産まれたての仔鹿のように震えていた。

「カントク、怖いです」
「大丈夫よ。ほらそのまま滑って」
「ひ、ひええ」
「おー進んでるぞ名字」
「木吉先輩笑ってないで助けてください」

スキー場の麓で、リコから直々に指導を受けている。とにかく足に板をつけて立てるようになることが目先の目標だ。




「大丈夫そうね。それじゃあちょっと休憩」

しばらくの練習のあと、その場を去るリコの言葉にホッと息を吐きながら尻もちをつくと、側にしゃがんでいる2人に目をやった。

「黒子くん、桜井くん、何してるの?」
「雪うさぎを作っています」
「そうです、すみませんっ」

板を雪に突き刺したまま、彼らは雪で作るうさぎに夢中になっている。あぁ、癒される。と名前は目を閉じた。



「名字」
「…火神くん」

頭上から聞こえた声に首を捻って見上げると、片足に板をつけたままの火神が立っていた。

「上、行ってみようぜ」
「は?今やっと少し滑れるようになったところなのに」

ムリムリと手を振ったのだが、火神にその手をぐいと引かれて立ち上がると、文句を言う間もなくリフトの方へ連れていかれた。
習うより慣れろ、と爽やかなドヤ顔をしながら名前を連行する火神に、黒子と桜井は微妙な表情で手を振った。


「リフトがまず怖い」
「そうか?」
「火神くんはスノボ出来るんだね」
「去年始めたばっかだけどな。サーフィンと似ててすぐ出来るようになったぜ」
「嫌味かこのスポーツマンめ」

リフトで頂上へ向かう。乗ることがまず困難だったが、係員と火神になんとか座らせてもらった。リフトを止めなかっただけ褒めてもらいたいほどの苦労がそこにはあった。
そしてなんとか下りると、名前はすでに疲れ切った顔で麓を見下ろす。黒子と桜井はどこだろう。リコはどうしているのか。

「おし、行くぞ」
「え、ちょ、ま…」

一方の火神はさっさと立ち上がり滑り始めるので、名前もなんとか立ち上がって坂を下る。

「お、滑れてるな

「これは滑れてると言えるのかな」

名前はまだターンをすることも出来ず、前を向いたまま坂をズルズルと抉るようにして下りるのが精一杯だ。
そんな彼女の横を様々なスノーボーダーたちがスイスイと滑っていく。彼らを恨めしそうに眺め、名前も少しスピードをあげてみた。

「結構掴んできたみたいだな」
「そ、そうかな?」
「じゃあもうちょい下行ってるから、スピード出して下りてこいよ」
「は?」

火神はそういうや否や、名前を残して滑って行ってしまった。かなり下りていったので、目を凝らしてなんとか姿を確認できる程度だ。名前は焦る気持ちを抑えつつ、少しずつまた雪の坂を下りた。

ハプニングはわりとすぐに起きた。
斜めになったボードが、名前の行きたい所とは逆の方向へ進み始めたのだ。このままでは木にぶつかるという恐怖から、わざと尻もちをついて停止する。そのまま背中をべったりと地面につき、空を仰ぎながらはぁーっと呼吸を整えるべく息を吐いた。

「ぶっ」

そんな名前の顔に、頭上から大量の雪がかかってきた。思いがけない衝撃に、慌てて起き上がる。

「大丈夫か?」

聞こえた声に振り返ると、そこにいたのは火神ではなく。

「青峰!」
「何ひっくりかえってんだよこんな所で」

どうやら名前の頭のそばで止まったので、ボードが雪を削って彼女の顔に浴びせることとなったらしい。そこには、悪びれる様子のない中学の同級生である青峰が立っていた。

「なにしてくれてんの!顔じゅう雪だらけ!」
「んなところで寝てるから悪いんだろ。眠いならホテル戻れ」
「寝てたんじゃない。倒れてたの」
「はぁ?」

名前は自分のスノーボードの初心者具合と、ここに今いる経緯を青峰に軽く説明した。それを黙って聞いていた青峰は、ふぅんと興味のなさそうな声を出す。

「まぁ火神の言う通りだな。滑って慣れるしかねぇ」
「青峰も滑れるんだ」
「天才舐めんな」
「むかつく」

青峰は地面に尻をつけて偉そうに笑った。オレが教えてやろうか?と。そんな態度を見せられて、お願いしますと言えるわけがない。
名前はぷいと顔を背けた。

「間に合ってます」
「強がんなよ」
「私には優しい火神コーチがいますので」
「お前のこと置いていくようなやつだけど?」
「ぐっ…」

図星を突かれて悔しがる名前と、ニヤニヤ笑う青峰の背後に人の気配がした。揃って振り返れば、たった今話題にしていた人物が。

「遅いぞ名字…ってか青峰もなにしてんだよ」
「火神くんが置いてくから!」
「そうだぜ。オレは転んで泣いてる名字を助けてやったんだ」
「泣いてない!」

へーへーと鼻をほじる青峰に、名前はムキになって殴りかかっている。そんな様子を見て火神は面白くないといった顔をした。

「心配してわざわざまた上ってきてやったのに」
「心配するなら置いていかないでよ」
「ふん、お前教えるの下手なんじゃねーか」
「なんだと?お前よりは上手く滑れる!」
「あぁ?オレの方が上手いに決まってんだろ」
「じゃあ、どっちが先に下まで行けるか勝負するか?」
「あぁいいぜ。やってやる」
「後で泣くなよ」
「言ってろ。オレに勝てるのはオレだけだ」

スタート!
その一言で火神と青峰は同時にものすごい速さで坂を下って行った。
残された名前は呆然と彼らの小さくなっていく後ろ姿を見つめる。なんだ、あの役立たず共は…。

とりあえず、自分もなんとか麓へ戻ろう。そして黒子や桜井と雪遊びでもしてこの荒んだ心を癒すんだ。練習はそれからだ。
そう決心して起き上がり、ソロソロと坂を下った。

そして何度目かの尻もちをついたとき、名前はついに空を見つめたまま動かなくなった。お尻が痛い。自分は何をしているのか…。火神と青峰に怒りが込み上げる。絶対に仕返ししてやる。

「あ、誠凛のマネージャー」
「あん?」

物騒なことを考えていた表情のまま、声のする方に振り向いてしまった。するとそこには、少し怯えたような顔をした桐皇バスケ部の若松がいた。慌てて姿勢を正して挨拶をする。他校とはいえ、先輩である。

「わ、若松さん。どうも…」
「おう。1人、なのか?」
「はい。火神くんとそちらの青峰くんに見捨てられまして」
「見捨て…?」

名前が再度ここまでの経緯を説明すると、若松はどうやら同情してくれたらしい。彼女を立ち上がらせて言った。

「お、オレで良ければ教えるけど」
「本当ですか?!」

神様が現れた。初心者なのに1人で不安を抱えながら滑らなければならなかったこの寂しさ。それを埋めてくれる人がいたなんて。
名前はすぐに頭を下げて、指導をお願いする。

「とりあえず下まで無事に辿り着きたいんです」
「それならターンも出来るようになるべきだ」
「へ?」
「その方が速く行ける」

そ、そうなんですか。まっすぐ滑り下りてもいいと思うのだが、折角付き合ってくれるというのに機嫌を損ねてはいけないと、名前は納得した。

「まずは山の上の方向きながら後ろ向きに滑ってみるか」
「は、はい」
「…そうだ。いいぞ」

一歩ずつという表現が相応しいのかは分からないが、少しずつ後ろ向きに坂を下る。若松もそれに合わせてゆっくりと隣を滑った。そしてしばらく行くと、そのまま身体を麓への方へ向けるように指示した。ターンの練習の始まりである。

「こ、怖いんですけど」
「素早く回れば大丈夫だ」
「えいっ」

気合いを入れて身体を捻った。しかしボードが進行方向と水平になった瞬間、スピードが出て名前はパニックになる。そのまま尻もちをついた。

「大丈夫か?」
「し、死ぬかと思いました」
「でもそんな感じだぞ。もっと回転を速くしてみろ」
「うえぇ…」

何度か繰り返した。その度に尻をつくか、膝をつくか。なかなか恐怖心が消えずにすぐに転んでしまう。勢いをつけて覚悟を決めて行ったターンも空回り、ベタッと地面に這いつくばる結果になった。

地面の雪が舞い、名前の前髪に被さる。そのまま倒れている名前の側に若松が屈み、髪についた雪を軽く払った。

「すみません、なかなか出来なくて」
「最初はみんなそんなもんだ」

慰めてくれる若松に、涙が出そうになるほど名前は感動していた。先ほどの2人とは異なり、なんと面倒見の良い人なのだろうか。先輩になるとこうも違うのか。

「それじゃ、もう少し頑張…」
「まだこんな所にいたのかよ」
「また倒れてんな。つーか、なんで若松がいんだよ」
「あぁ?」

折角若松が雪を払ってくれたというのに、また頭に雪がかかった。犯人は顔を見ずとも分かる2人だ。名前はぶるぶると頭を振って雪を落とし、座り込んだ火神と青峰を睨みあげた。

「あんたたちが置いて行ったからこんなことになってるんでしょ」
「知るか」「悪い」
「はい、青峰は問答無用で許さないし火神くんは2回目ということで許さない」
「どっちも許さないんじゃねーか!」
「うるさい!私はもう若松さんに縋って生きることにしたの!勝負でもなんでもしてなさい!」
「若松、名字に何したんだ」
「ターン教えてるだけだ!てか、呼び捨てやめろ!」

ぎゃんぎゃんと言い争う大男3人に華奢な女が1人。他の客が何事かとチラチラ彼らに視線をやりながら通り過ぎて行くがそんな視線を物ともせず4人は騒ぐ。

「名字、こいつは絶対下心あるから気をつけろ」
「んなもんねーよ!お前と一緒にすんな!」
「おい、うちのマネージャーに何手ェ出そうとしてるんだよ」
「だからちげーって!」
「うるさいバカ神にアホ峰!失礼でしょ!」

大体、と名前はうつ伏せになった姿勢からなんとかして地面に座る。さりげなく支えてくれた青峰には一応礼を述べて。

「火神くんが最初から置いて行くからいけないんでしょ」
「そ、それは悪かった」

隣でしょぼんと眉を下げる火神を見上げ、まぁいいけどと名前はため息をつく。

「青峰だって教えてくれるとか言いながら火神くんのこと挑発して行っちゃうし」
「お前がいらねーっつったんだろ」
「そ、それは、強がっただけ!」

なんだよツンデレかよと呟いた青峰の後頭部は名前によってはたかれた。そんな青峰を見て若松はざまあみろとばかりに舌を出す。

「で、呆然としていた私を若松さんが助けてくれたの!すごくありがたかったんだから」
「けっ」

照れて頬を掻く若松に、青峰と火神はつまらなそうな表情をする。しかしすぐに火神が立ち上がった。

「それなら今からはオレが教えてやる。行くぞ名字」
「何言ってやがる、さっき教えてねーから今度はオレだ」
「ふざけんなガキ共。最後までオレが面倒見る」

合わせて青峰と若松も立ち上がり火花を散らせた。その様子を呆れた顔で名前は眺める。なんでこうも燃えやすいのだこいつらは。沸点が低すぎる。

「大体うちのマネージャーだろ!桐皇は関係ねー!」
「こいつは帝光中だ」
「んなもんどーでもいいだろうが!」
「じゃあお前ら名字の好きな食べ物知ってんのかよ?」
「むしろ3サイズ知ってんのか火神」
「あ、青峰てめぇ何言ってんだ!」

いつしか3人はわけの分からない争いを始めており、誰がスノーボードを教えるかという話からは随分と論点がずれているようだった。

「じゃ、バスケで決着つけよーぜ!」
「なめんなよ。お前らごとがこのオレに敵うわけねぇ」
「1年の癖に生意気言いやがって。泣いて謝っても知らねーぞ!」



「そうやそうやーうまいな」
「わぁ、出来ました!」
「な、簡単やろ?」
「はい!やったー!」

「「「!?」」」

少し離れた所から聞こえた声に、大男3人が視線を向けた。そこでは名前が桐皇バスケ部主将の今吉からターンを教わっている。しかも彼女はくるりと上手に回ってみせた。

「おうお前らここにいたんか」
「い、今吉さんなんで…?」
「偶々通りかかった所で誠凛のマネージャーが転んでてな。ターン出来へん言うから…」

教えとった、とさらりと今吉は言った。その隣には満足気な名前。今吉に教えられ、ターンを習得したらしい。

「今吉さん、ありがとうございます!」
「ええってええって」
「私、みんなに見せてきます」
「おー気ぃつけてな」

名前は嬉しそうに手を振ると、くるくると器用に回りながらさっさと滑っていった。先ほどまでひっくり返っていた少女と同一人物とは思えない成長ぶりである。

残された火神、青峰、若松はぽかんと彼女の後姿を見送ったあと、笑っている今吉に向き直った。

「いやぁ筋がええなあの子」
「てめぇ…」
「いつの間に…」
「…(怖い)」

今吉は人の悪い笑みを浮かべ、声を低くして囁いた。

「あかんでー、目ェ離したら」
「「「…っ」」」

今吉のアドバイスのおかげで無事に麓に到着した名前は、まず黒子と桜井と共に雪うさぎを作り、その後リコと一緒にリフトへ乗り込んだ。

「あれ?」
「どうしました?」
「あれ、火神くんたちよね?」
「え?」

リコがゲレンデを指差すので、名前もその指先を目で辿る。そこには紛れもない先ほどの3人がいて、まだ何か言い争っているようだ。今吉はすでにいない。

「カントク…」
「ん?」
「男の子って、単純でバカばっかりですよね」
「…まぁねー。でもそれが良いところなんじゃない?」
「…確かにそうですね」

名前は彼らを見下ろすと、優しい表情で笑った。

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