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日曜日、出かけた帰りにコンビニに立ち寄った。
発売したばかりの雑誌を手に取ってから、ついでにスイーツコーナーへ向かう。

新商品!と書かれたポップが目に入ったので覗き込むと、2つ入りのシュークリームが鎮座していた。ザクザク系の生地に、チョコホイップ…。絶対おいしいやつ!

ほぼ無意識の状態で手を伸ばしたところで、同じように伸びてきた手とぶつかった。
ぴたっと止まった大きな手を辿って顔を見ると、若い男の人がぽかんと口を開けてこちらを見ている。
おしゃれな髪型で背が高い、ちょっと洗練された今時男子で緊張してしまう。

「あ、す、すみません…」
「イエ、こちらこそ…どうぞ」
「えっ!いやいや私の方が後だったし」
「や、俺の方が遅かったし…」

お互いペコペコ頭を下げ合いながら後ずさるという気まずい空気。

「こういうのは女子の方が食べるべきっつーか」
「え!」

聞き捨てならない。私はシュークリームの袋を掴むと、ずいっと彼に差し出した。

「スイーツに男も女も関係ないでしょ!スイーツは老若男女、いや全人類すべてに平等なのです!!」



あ、やってしまった。

コンビニにいたお客さんや店員さんたちが静かにこちらを見る。なんとも言えない恥ずかしさがこみ上げてきた。もうこのコンビニ来られない。

「ぶっ」
「え」
「全人類…なんか、どこかの宗教の教祖みたいですね?」
「ああああ」

目の前の男の人は顔を背けながら必死に笑いを抑えようとするけど、肩が震えてますよ。でもドン引きされるよりマシか。

「あの、半分こしませんか?私本当はダイエット中なので」
「え、マジ?」
「幸せは分け合うべきかと」
「また名言っ…」

ブフッと笑うと、男性は私の手からシュークリームを抜き取ってさっさと会計してしまった。

「あ、お金…」

私も急いで雑誌を買って、お店を出たところで待つ彼の元へ向かうと、要らないと言うように手を振られた。

「名言たくさんくれたお礼と、恥ずかしい思いさせちゃったお詫びデス」

「…イケメン」
「スイーツ教の教祖様に言われるなんて光栄〜」

そしてバリッと袋を開き、ひとつ摘んでから袋ごとこちらにくれた。彼が頬張るのを見て、私も同じようにかぶりつく。

「「…イケる!」」

まさか、初対面の人とシュークリームを分け合うことになるとは。多分相手も同じような事を思っている。
一度目を合わせ、照れ笑いを浮かべた私たちはその場で別れた。








地元に着いて歩いていると、後ろからテンポのいい足音が聞こえて振り返る。

「名字さん!」
「あ、影山くんだったの」

ロードワーク中なのか、ジャージ姿の影山くんがこちらを見て少し驚いていた。

「こんなところまで走りにきてるのね〜」
「はい、やっと部活始まったんで気合い入れてます」
「さすがだわ」

ストイックなのは変わらないんだな、となんだか安心した。

「そういえば、王様って呼ばれてたけどそれなに?あだ名?」

ふと気になったことを尋ねてみると、影山くんは表情を暗くした黙り込んでしまった。あれ?あまり嬉しくないのかな。

しばらく地面を見つめてから、影山くんは中学最後の大会の話をしてくれた。また、それに関連した仲間とのいざこざも。あまり長く一緒にいたわけではないから、頭の中ではだいぶ顔の印象がぼやけているけど知った名前もいくつかあって、だんだん悲しい気持ちになってくる。

「すみません。名字さんにそんな顔させて」
「ううん。なんか、寂しいね」
「…」
「でも前に進むしかないもんね」
「はい」

励みになるような言葉をあげることができなくて申し訳ない。そう思って隣を歩く影山くんを見上げると、彼は真っ直ぐ前を向いていて、その目に迷いはなさそうだった。
そうだね、今は日向くんたちがいるもんね。

昨日のバレー部の様子を思い浮かべると根拠はないのに不思議と安心できた。


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201209




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