赤葦くんの幼馴染み彼女が変質者に遭遇したようです。

※黒尾・研磨出てきます。
※変質者に出会いますので苦手な方は注意してください。


土曜日の朝から元気な木兎さんの、いつもなら気にならないその眩しさが今日の俺にはキツく感じる。
普段から感情が出にくいからか部員たちには気付かれていないようだが、はっきり言って機嫌が悪い。
理由は、いつもならこの場にいる名前がいないこととも関係していて、今朝彼女との電話でのやりとりを思い出してまたムカムカとしてきた。




「まだ?もう待ってるんだけど」
『ちょっと待って、今日寝癖すごくて』
「寝癖なんてどうだってよくない?」
『良くない!京治は女心分かってない!』
「… 名前の髪型なんて誰も見てないよ」
『はぁ!?きっ、今日は1人で行く!先行って!』
「分かった。じゃあね」

何が分かってない…だ。小さい頃からずっと隣にいるし、今だって彼氏彼女で同じ部活で…分かってないわけがない。
…だけど最近時々、俺たちはすれ違うことが多いような気がするのは確かだった。認めたくないけど。







「名字遅いな?」
「もう始まっちゃうよねぇ」
「赤葦、名字は?」
「…今日は先に来たので」

なんて話をしているうちに監督がやってきて部活は始まってしまった。さすがに無断で遅刻してくることなんて今までになかったので心配になるが、とりあえず木兎さんの散らかしたボールを邪魔にならないように避けていると、体育館の扉がそろりと開いたので勢いよく顔を上げる。
しかしそこにいたのは名前ではなく、3年担当の先生だった。珍しいな、と思って横目で見ていると、監督の元にそそくさと駆け寄り何か耳打ちした。

「…なに、警察?」

警察?
確かにそう聞こえた。
監督は椅子から立ち上がると、コーチと少し話してからすぐに体育館を出て行ってしまった。
なんだろう。まさか名前と関係してるなんてこと…。







しばらくして監督が戻ると、マネージャーの2人を呼んで再び体育館から出て行く。しかし今度は扉を出てすぐのところで何か話しているようだった。
マネージャーにだけ伝えて、俺たちには言えないことがあるのか?






ずっと監督とマネージャーのことが気になってしまって、全く集中できないまま部活は終わった。
途中、監督から名前が今日は欠席だと伝えられた以外、彼女に関する情報はなかった。
「珍しいな〜風邪とか」と、話す部員たちと違って、俺は分からないことだらけで少し混乱している。
風邪なんかじゃない。だって朝は部活に行く準備をしていたのだ。






「赤葦?」
雀田さんが少し困った顔をしてちょいちょいと手招いている。後ろでは白福さんも同じような表情で腕を組んでいた。
あまりいい話ではなさそうだけれど、早足で2人の元へ向かった。

「あのさ、 名前から連絡あった?」
「いえ。朝電話したっきりです」
「そっか。赤葦だから話すけどね……」







自宅ではなく直接名前の家に向かった。途中で何度か電話をしたけど通じないので、彼女の家の前に着いたら【家の前にいる】とメッセージを送ると、すぐに折り返して着信があった。

『な、なに?なんで来たの?』
「会える?いま」
『え、やだ』
「なんで?」
『もうパジャマだから出られない』
「じゃあ家に上げてもらうよ」
『ダメ!…待ってて、すぐ行くからっ』

幼い頃から良くしてもらっている名前の両親なら、俺が戸を叩けばすぐに入れてくれるだろう。それを分かっているから彼女もバタバタと慌てながら玄関から飛び出してきた。

「なんの用?」
「今日…部活どうして休んだの?風邪じゃないでしょ?」
「…」

口を噤む名前にそっと近寄ると、不安そうな表情で俺の顔色を窺っている。俺の感情を必死に読もうとしているから、胸の前で組まれている指をなるべく優しく握った。名前は一度その手に視線を落としてから、また俺の顔を見つめる。ずっと言いたかった言葉はすぐに出てきた。

「ごめん」
「…な、なんで京治が謝るの」
「置いていって。本当にごめん」
「私が悪かったんだもん…」
「怖かったでしょ?」
「…!聞いたの?」
「うん。監督とマネさんたちだけ知ってる」

焦りから少しだけ安堵した名前の表情を見て、申し訳なさと不安とそして僅かだけれどほっとした気持ちになる。

「電車でね、お尻触られて」
「…うん」
「どうしようって思って焦ってたら、急にその手がいなくなって…」

彼女が部活に来なかった理由は、大体先ほど聞いたものと同じだった。

1人で電車に乗っていると、背後から触られているように感じた。しかし何も言えずに黙って怯えていると突然その手が捻りあげられた。
振り返ってみると、音駒の黒尾さんが見知らぬ男の手首を掴んでいて、「次で降りろ」と凄んでいる。
しらを切ろうとする男に、黒尾さんの背後からひょっこり現れた孤爪が「証拠の写真は撮ったから」とスマホを見せたとき、ちょうど駅に着いたところで車内から逃走を図った男に名前は突き飛ばされた。
しかし男はすぐに黒尾さんとその他の乗客に取り押さえられ、駅員に引き渡されたもののあまりに抵抗したため警察が来て、詳しい状況を説明するために黒尾さんらと共に名前も警察へ出向いたために学校に来ることができなかった。

「怪我は?してないの?」
「うん、突き飛ばされたけど大丈夫だった」
「その…精神的には…どう?」
「すぐに助けてもらえたし、もう平気」

ここで初めて、大きく息をついた。肩の力もようやく抜けたみたいだ。なので一番気になっていたことを聞いてみる。

「どうして俺にすぐ連絡してくれなかったの?」

一瞬目を丸くした名前は、気まずそうに俺から視線をずらして小さく口を開いた。

「だって…喧嘩してたから。寝癖を京治に見せたくないからって意地張った私が悪かったし、余計に怒らせて嫌われたくなかったの」

俺はやっぱり名前のことを分かっているつもりで分かっていなかったのかもしれない。この子は俺が思うよりずっと俺のことが好きらしい。
ただ、意地っ張りで怖がり。これは小さな頃から変わらないな。
サンダルの爪先で地面をつんつんと蹴っている名前の肩に手を置くと、またこちらを見てくれた。

「嫌だったら断ってくれて構わないけど」
「…うん?」
「抱き締めていい?」
「っえ!?ここで!?」
「うん。今」

周囲をキョロキョロと見渡し、それから自宅を振り返っている。誰も出てこないかどうか確認しているようだった。

「…い、いいよ」

そして今日最も小さな声で紡がれた了承の言葉を聞くや否や、彼女の肩に置いていた手をそのまま背中に回して自分に引き寄せた。
覆いかぶさるように強く強く、名前を胸の中に閉じ込める。
少し苦しそうにしているけど関係ない。今はどうしてもこうしたかったんだ。もう1人にはさせないと、伝わるように。



「私、まさか黒尾さんたちに助けられるとは思わなかった」
「うん…けど、あの人たちがいてくれて良かった」
「今度音駒までお礼しに行こうと思って」
「俺も行く」
「えっなんで?」
「黒尾さんからついさっきムカつくメッセージ来たから」
「どんな?」
「それは言わない。言いたくない」
「え、なにそれこわい」





【赤葦くんの可愛い可愛い名前ちゃん、
すっごく寂しそうに電車乗ってたよ
あんな顔させるなんて赤葦くんてばヒドイ男ね


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201003

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