可愛いをつくろう


「名字でーす、入っていい?」
「どーぞー」

「あ、もう4人しか残ってないんだ」
「珍しいね朝練終わりに名前が部室来るの」
「うん。花巻ーお願いしまーす」
「ハイハイ、こっちおいで」
「はーい」

名前は部室内に置いてある丸椅子に腰掛ける。そして花巻はその背後に椅子を持ってきて座って、着替えたばかりの制服のシャツを腕まくりした。

「どんなのだっけ」
「これー」
「ふんふん」

名前が差し出したスマホを覗き込み、了解と頷いた花巻が名前の髪の毛を掬い上げた。

「あれ、今日名前お出かけ?」
「そー。放課後友達とおしゃれカフェ!」
「だからマッキーに髪やってもらってんのか」
「写真たくさん撮るから映えにしてもらうんだー」
「ほら頭揺らさない」

名前から渡されたヘアゴムを手首に引っ掛け、髪をスイスイと編み込んでいく。その手つきが慣れているのは、彼女のヘアアレンジを3年間手伝ってきた賜物だ。
たまたま名前がアレンジに苦戦していたところに、「こうじゃない?」と協力してみたことがきっかけで才能が開花し、今や何かあるたびに彼女に頼まれている。

「あ、及川〜ついでにお買い物行くんだけど、これとこれどっちがいいかな」
「えー、俺は2枚目の方が秋冬にいいと思うよ」
「色は?」
「グレー」
「やはり…じゃあこれ探してこよっと」

ヘアアレンジが出来上がるまで、最近ハマっているというアパレルブランドのSNSを及川と覗き込み買い物での狙いを定めている。及川の選んだグレーのニットをスクショして満足そうに微笑んだ。

「ほい、どーですかねお客様?」
「わぁ!すごい!さすが花巻〜!やっぱ専属スタイリストになって!」
「名字がもっと可愛くなってフォロワー増えたらネ」
「えー…」

手鏡を覗き、左右も合わせて髪型をチェックして嬉しそうにする名前は、花巻にありがとう!とにっこり笑うと椅子から立ち上がる。そして床に置いたバッグからファッション雑誌を取り出して、今度はロッカーに背中を預けてスマホを弄っている松川の隣へ向かった。

「ね、このリップ似合うかな?」
「…オレンジよりピンクの方がいいと思う。ほらこっちのやつ」
「え、本当に?」
「名字色白だからなぁ」
「そうかぁ。じゃあこっち挑戦してみる!ありがと」
「はいよ」

雑誌を丁寧にバッグに仕舞い込み、名前は扉付近で床に座り込んで漫画を読んでいた岩泉に声をかけた。

「はじめ、お待たせ。教室行こー」
「おう」
「じゃあまた明日ね〜」
「楽しんどいでねー」

3人に手を振って、名前は岩泉と連れ立って出て行った。

「岩ちゃん妬いてたねー」
「彼女が可愛くなるの嬉しくないのかね」
「花巻に髪触らせんのが嫌なんだろ」







「名前、今日楽しそうだな」
「そりゃあね!友達と遊びに行くのすっごい久々だし」
「向こうも今日は時間作れたのか?」
「うん、塾がたまたまお休みなんだって!」

同じクラスの2人は教室までの道のりを少しゆっくりめに歩く。予鈴が鳴るまでまだ時間は十分あるから、2人で過ごす貴重な朝の時間だった。

「ね、はじめ?髪どうかな?可愛い?」
「…可愛いけど」
「けど?」
「花巻に可愛くされたと思うとなんか納得いかねー」
「ぶ、なにそれ!」

綺麗に編み込まれてから少し解された髪を、形が崩れないようにそっと指でなぞって、口を尖らす岩泉を見て名前はけらけらと笑った。

「服も化粧品も俺じゃなくてあいつらに聞くしよ」
「えーやきもち?」
「わりーか」
「ううん!でもさ、はじめにはちゃんと私が身につけたところを見せたいから、まだ内緒ね」
「なんだそれ」

楽しそうに笑う名前を、岩泉はまだつまらなさそうな目で見ている。
それに気付いているのかいないのか、名前は周りに他の生徒がいないことを確認すると岩泉の手をそっと握った。

「新しい服着てリップ付けたら、デート連れてってくれる?」

照れ臭そうにする名前に、岩泉もやっと表情が和らいだ。

「別に部活のジャージ着てても連れてってやるけどな」
「ふふ。じゃあ次の1日オフはお出かけね!」
「はいはい」
「早起きして花巻に髪の毛やってもらおうかなー」
「自分でやれるようになれ」

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
200929

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