シャボンディ諸島 64

らしさ

 ケイミーの言う"はっちん"を救出し、何やらサンジに因縁のあるらしいデュバルという名の人攫い集団の頭。ルフィによって剥がされた鉄仮面の下は、痛ましい程サンジの落書き手配書にそっくりな顔があった。世の中、よく似た人間が三人いると言うが、まったく残念な方に似てしまったものだ。手配書じゃなくて、サンジ本人に似ていた方がまだ良かっただろうに。海軍に追われるにしても、見る分にしても。
 だがそれもサンジの足での整形は何とか事は収まった。その後意識をなくしたジュバルとその子分を置いて、「たこ焼き食おう!」のルフィの叫びで心機一転。トビウオライダーズのアジトから離れた沖合でハチが所有するたこ焼き屋台舟をサニー号に横つけしてたこ焼きをご馳走になる事になった。

 たこ焼きの下拵えをしている間、キアーラはさっき言ってしまった言葉の事をナミに謝った。「突然あんな事言い出すから驚いた」と言うナミは驚愕と同時にキアーラへ一抹の恐怖も感じたようで、更に申し訳なくなる。「本当にごめんなさい」と再度謝ると、「過ぎた事だからもう大丈夫」だと許してくれた。

「ニュ〜!たこ焼きできたぞおめーら!!おれ達を助けてくれたから、今日はいくら食ってもタダだぞ!!」
「「「うお〜〜〜!!」」」

 屋台舟から食欲が唆る香ばしい匂いがした。サニー号の甲板にいたキアーラとナミは下を眺めると、早速屋台でルフィやウソップ達が食べ始めていた。「うめェうめェ!」と口いっぱいに頬張る彼らに、キアーラとナミは顔を見合わせて笑いあった。

「私達も食べようか」
「はい!」



 初めて体験するたこ焼きの屋台。いや、そもそもキアーラはたこ焼きを食べること事体が初めてだ。だから屋台の席でたこ焼きを食したかったのだが、生憎、席は先に陣取っていたルフィ達でうまっていて、ナミと一緒に屋台船の柵の上に座って食べる事になった。
 過去の因縁のせいで、初めこそハチとナミの間にはやはりまだギスギスした空気が残っていたが、ナミが割り切る形でその件も円満解決。ルフィとウソップとサンジのイーストブルー出身者達のほっと安堵した顔が印象的だった。

「おい人魚コッチも追加だ!!」
「はいただいま〜〜!!」

 甲板で食べていたフランキーの注文を受け、六パックも抱えてサニー号に上がろうとするケイミー。人魚の身で梯子を上がるつもりか?と思ったキアーラは、そっとたこ焼きを全てケイミーから取り上げて笑いかけた。伝家の宝刀、愛想笑いである。

「私が持って行くので構いませんよ」
「あ、ありがとう!キアーラちん優しいんだね!!」
「…いえ、や、優しいなんて…。どうぞ、ハチさんのお手伝いをしてください」
「うん!!」

 果たして、他人に優しいなんて言われた事などあっただろうか。自分では優しさとは掛け離れた性格をしていると自覚しているし、今のだって、たこ焼きをご馳走してくれるお礼として行動したつもりだった。利害の一致、ギブアンドテイク、等価交換。キアーラはこの三つを基本として行動しているし、それが自分自身の中では当たり前になっている。

 私が、優しい…優しい、………優しい?
 元来無縁だったその言葉に、心を掻き乱される。

「あら、キアーラが持って来てくれたのね」
「あ、あぁはい」
「…どうしたお前ェ」
「何か考え事か?」
「いや、大した事ないよ」

 甲板で食べていた三人にたこ焼きを渡して、キアーラはロビンの横に腰をおろした。屋台舟で鱈腹食べてきたから、風通りの良い甲板は休むにはとても心地が良い。
 とてもじゃないが、彼らに「私は優しいのか」と聞く気にはならなかった。自分は海賊、彼らも海賊。優しいのかと聞くことはヤボである。ケイミーは純粋な性格をしているようだから見たまま感じたままの事を言ったのだろうが、キアーラの分厚く張り付いた愛想笑いに気づけなかったという事にしておく。


「若旦那ァ〜!!!」
「あん?何だ?」

 結局、甲板に腰を落ち着かせたキアーラは、ロビンとたこ焼きを分け合っていた。聞き覚えのある声が、豪快な波音とたてながら次第に近づいて来ているのが分かる。たこ焼きで頬を膨らませていたキアーラは徐に立ち上がり海を見渡すと、声の主は下にあるたこ焼き屋台に嬉しそうに近寄っていた。

「あれは…」
「さっきの人攫い集団の人ね」
「サンジさんが顔の骨格ごと変えたって言ってたけど、なんか変わりすぎじゃない?」
「まァ、さっきよりは見れる顔にはなったな」

 劇的に変化したジュバルは性格までもが変わったようで、口々にハンサムだ何やらとのたまっている。本人がそれで満足ならもう大丈夫だろう。キアーラは風のように去って行くトビウオライダース改め、人生バラ色ライダースを横目に見送った。



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