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20


「…っ」
「わたたた…」
「っと、危ねーだろ!押すなよ!」

ドンと身体を押された。
振り返ると十数人の暑苦しそうな男どもが俺たちを見て嗤っている。

事の発端は数分前。
矢薙のじいちゃんと遊星と3人で部屋で大人しくしていたらいきなり部屋の扉が開いた。
誰だよノックも無しに開けるのは…と思い扉を見てみれば、厳つい顔をした大きい男が立っていたんだ。
で、いきなり掴まれて有無を言わさず広い体育館みたいなところへ連れてこられたってわけ。

「ようこそ、我がデュエル場へ!」

デュエル場…?
よく見れば床に白い線が引かれていて、簡易なデュエルフィールドのようになっている。

ウニのように刺々しい水色の髪の男がいきなりデュエルディスクを作動させた。
ちょ、いきなりデュエルモードかよ何か説明しろ!

「俺は氷室。此処を仕切っている」

俺と遊星の後ろに隠れていた矢薙のじいちゃんが驚いた顔をしながら隣に出てきた。

収容所には中と外、2つのルールがあるらしい。
この氷室が仕切っているのは“中”だとさ。
つーか顔近いってば!
そんなに顔近づけないと見えねえのかよ。

「ああ〜!アンタ、プロデュエリストの氷室仁だろう!?ななな、そうだろう!?」

矢薙のじいちゃんが目をハートにして氷室に近づく。
へえ、こいつプロなんだ…でもなんでプロが収容所に?

「黙れジジイ!」
「うわ〜すげえ!こんなところで会えるたあ、わしゃラッキーだよう!」

氷室の声に耳も貸さず、さらにハートを振りまくじいちゃん。
これはとんだミーハーだな…。

「なあ、あんちゃんたち。わしゃテレビで何回か見たことあるんだが…」
「昔の事を言うな!」

後ろの取り巻きがこそこそと耳打ちをする。
氷室には昔のことは禁句なのにーとかって聞こえたけど…。
ってことは今はプロじゃないってこと?

「ジジイ、中のルールってのは俺とデュエルをしてこの中での格付けを決めるってことだ。それが決まれば下の者は上の者に絶対服従だ!」
「ひひひ、やっぱりね!そんなこったろうと思ってワシもデッキを持ってきてるぜ!」

ほう、と氷室が笑顔を見せる。
しかしその笑顔は悪い意味で、だ。

「ワシのデッキはすげえよォ!レア中のレア、名付けて秘宝デッキだーっ!」

ほれほれ、と身体の色んなところからカードを取り出して見せつける。
秘宝デッキ…、なんだろう凄い気になる。
もしかして新しいシリーズなのかな。

それにしてもカードを持ってる時のじいちゃんの顔、これ以上とないくらい嬉しそうだ。
よっぽど自分のデッキが好きなんだろうなー。

「ふふふ、準備がいいじゃないか。お前らは?」

氷室が今まで蚊帳の外だった俺たちを振り返る。

「…持ってない」
「俺も無いや」

そう言えば小馬鹿にしたような笑みを見せる。
しょーがねえだろ、奪われちゃったんだし。

「お前らサテライトからの不法侵入者だったなあ!それじゃあデッキなんか持ってるわけないか!」

氷室が顔を近づけて覗き込んでくる。

「サテライト住民ってだけで下の下だ!」
「うっせーな、此処に来る前に取られたんだよ!つーかお前らだって此処にいるんだから同じだろ!」
「何だと!?」

ああもう我慢できない!
隣で遊星が止めとけとか何とか言ってるけど限界だ!オーバーリミット!リミッター解除!
リアルファイトは図体がでかけりゃ良いってもんじゃねえってことを教えてやんよ!

と思っていたら俺と氷室の間に矢薙のじいちゃんが入りこんできた。

「まあまあまあ!このあんちゃんたちは何も知らなかったんだからさあ!お手柔らかにいこうよ氷室ちゃ〜ん!」
「その呼び方は止めろ!!」

もう少しでリアルファイト突入だったのになあ。
ていうか氷室ちゃん呼びは嫌いなのか…ふーん、へーえ。
いつか煽りに使ってやろう、さっき馬鹿にした罰だ。

「へっへっへ!んじゃ、デュエルディスクを貸してくれよ!」

結局矢薙のじいちゃんと氷室がデュエルをするってことで話は進んでいる。
デュエルディスクを装着したじいちゃんはすげえ嬉しそうだ。

俺と遊星は少し離れたところで観戦することにした。
デッキ持ってないからどうしようもできないし。

「見てなあんちゃんたち!」
「おう!じいちゃん頑張れよー!」

じいちゃんに向かってひらひらと手を振る。

先攻はじいちゃんからということでデュエルが始まった。



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