で、デキてるってどーいうことだよ!
全然そんなんじゃねえっつーの!
口では否定するも、顔の火照りは収まらない。
ちらりと見える金色の歯が特徴のこのじいちゃん、名前を矢薙と言うらしい。
「俺は遊夜だよ、宜しくな矢薙のじいちゃん!」
「おっ、あんちゃんは優しいねえ!そこのあんちゃんは名前すら教えてくれなかったんだよお!」
そう言うと矢薙のじいちゃんが俺の隣にいる遊星を指差す。
なんだよ、名前ぐらい教えてやれよ遊星ー。
しかし遊星はそれを無視した。
「…まだ質問に答えてない」
「え?何のことだ?」
「赤い竜のことだ」
赤い、龍…って遊星とジャックがデュエルしたときに現れたあの赤い龍のことか?
え、矢薙のじいちゃん何か知ってんの?
遊星が備え付けのベッドに腰を下ろしたため俺も隣に座った。
お、意外に柔らかいなこのベッド。
「デッキは持ってきたかい?話はそれからよ!」
デッキ…?
持ち込めるわけねえじゃん、没収されちゃったんだし。
遊星に視線を送ると遊星も取られてしまったのか、ふるふると首を横に振った。
「じゃーん!じゃじゃじゃーん!」
変な効果音とともにじいちゃんが取り出したのは数枚のカード。
え、なんで持ってんの?
「ワシはさあ、あちこちの収容所渡り歩いているうちに、どこでもデッキが要るって分かったのよ!」
「此処でデュエルをやるのか?」
「外も中もおんなじさね!収容所の中でも仕切る奴と仕切られる奴がいる!そいつを決めるのが…」
「デュエルってわけか!」
まさか此処でもデュエルがあるとは…。
何故デッキまで没収されたのか、何となく分かった気がするよ。
***
ネオ童実野シティの某所に建てられたとある建物の一室。
空間に複数のデータが表示され、その中でも一番大きく球体の形をした映像の中に【スターダスト・ドラゴン】が映し出されている。
「ご覧のよ〜に、【レッド・デーモンズ・ドラゴン】と【スターダスト・ドラゴン】が直接の激突をする瞬間、モォーメントの回転数が飛躍的に上昇しておりますですはい」
その映像の中には【レッド・デーモンズ・ドラゴン】の姿もあり、昨夜の遊星とジャックのデュエルの様子のようだ。
広い室内に設置されている机に肘を乗せ、手を組んで考える仕草をする銀色をした長髪の男が無言のままそれを見つめている。
「これはやはり、古の赤き竜が甦るための条件を裏づけるものと言えましょうねえ…。イッヒッヒッヒ」
ブルーラベンダーの髪に、顔にマーカーとは違う赤い線が入った小柄な男が独特の笑い声を出す。
「そお――なのです!ネオ童実野シティの全域をモォーメント化する計画が定まった矢先のこの出来事!まさに副因とも言うべきものでしょ――う!…っ!?」
くるくると回りながらオーバーリアクションを取る科学者のような男が、突然暗転した画面を見て驚いた。
小柄な男は冷静に説明する。
「ここで停電になりまして、記録されているのはここまでです」
「そうですか…、赤き竜は明確には映っていないのですね」
ようやく銀髪の男が口を開く。
しかし彼の表情は依然として何か考え込んでいるものだった。
それは赤き竜が映っていないことに落胆しているかにも見える。
「このよ〜に!キングが2体同時に出した段階ではモォーメントの暴走は起こっておりませんでしたあぁ!」
とあるデータを使いながら説明する。
背後の映像には何時の間に復活したのか、【レッド・デーモンズ・ドラゴン】が映っていた。
「ぶつかり合ってから…つまりこの2体が戦うことに意味があることでしょうか」
「……ん?」
突然部屋の扉が開かれたため、銀髪の男が顔を上げる。
そこにはジャックと青色の髪をした女性がいた。
「ああっ、申し訳ありません長官!」
「…っ、何だこれは!何故お前たちがこんなものを見ている!?」
映像に気付き、ジャックが怒りを露にする。
しかし銀髪の…長官と呼ばれた男は平然とし、椅子から立ち上がった。
「気をお沈め下さい。此処は治安維持局であります。ネオ童実野シティの平和を守る砦…街の異常を知るのは我々の務めなのです」
そしてゆっくりとジャックの隣に歩を進める。
「特に…“星の民”に繋がる情報はとても重要なことなのですよ」
「何か知っているんだな?あの赤い竜が出たとき…俺のこの痣が疼いた!」
バッと自分の腕を捲りあげる。
そこには腕一杯に大きな赤みがかった痣があった。
それは生き物の翼のような形をしている。
「そうですとも。伝説に倣って呼ぶなら貴方様は“シグナー”…竜の印を持つ者なのです」
「“シグナー”?」
“シグナー”その単語が出てきた瞬間、科学者と小柄な男も青髪の女性も右手を自分の心臓に当て、敬意を表するかのような仕草をする。
「貴方様は選ばれし“星の民”なのです…」
「しかしあの遊星にも痣が浮かんだ!俺の痣に呼応するかのように!」
「なんですと?あのサテライト住民に?」
「見てないのか?」
遊星の痣に関しては停電により映像が途切れてしまったため確認することができなかったと言う。
「確かに俺は見た!遊星の腕にも痣があるのを!だが2年前の奴にはそんなものは無かった!それに…」
「それに…?」
「止めろ!!」
長官が聞きなおしたがジャックの大声によって阻まれてしまった。
ジャックは映像を止めろと言う。
科学者の男が慌てて止め、数秒前まで巻き戻す。
「ここを拡大しろ」
ジャックが指したのは2人が爆風に巻き込まれる前で、遊星が映っているシーンだった。
拡大していくとそこには一枚の罠カードが表になっていた。
「…これは!め、【メテオ・ストリーム】…!」
「なるほど【メテオ・ストリーム】ですね。確かキングがその前に発動していた【ジ・エンド・オブ・ストーム】はフィールド上の全てのモンスターを破壊し、そのモンスター1体につきプレイヤーは300ポイントのダメージを受ける…というものですが」
「そうとも!スターダストを我が許に取り戻す手段でもあった!そしてダメージを一身に受け、リリースされた上で俺のフィールドにくるはずだった!それを最後の最後で【メテオ・ストリーム】を仕掛けていたとは…!」
【メテオ・ストリーム】はリリースされたモンスターが復活した時、1000ポイントのダメージを与えるカード。
ということは、そのときジャックのライフは900…このカードの効果を受けていたらライフは0になっていたのだ。
「俺は、負けていたのか…あのとき奴に!この俺は…!!ぐうう…!」
衝撃の事実にジャックは身体を震わせ、悔しそうに拳を作る。
それを長官は優しく宥める。
「あまりお気になさいますな。昨夜の事は誰も知らないこと…」
「俺が知っている!この俺が!キングが!このデュエルを忘れるわけがない!それに…!」
ジャックの頭にはもう1人の顔が浮かんでいた。
そう、観客席で自分たちのデュエルを見ていた男の姿が。
しかしジャックはそのことを他言してはならないと何となく感じて口を噤む。
「…っ、アイツは何処だ!?今何処にいる!?」
「…サテライトより来たりし者は隔離されるが道理…。彼も例外ではありません。今頃は収容所に送られて…」
長官はジャックから離れ、遠くを見つめながらそう話す。
「…奴に会う」
「なりません!キングのお立場を弁えて下さい。“星の民”と“シグナー”の意味を知りたくはありませんか?貴方様が真に何者なのか…」
出口へ向かおうとすれば長官に止められてしまう。
キッと目を吊り上げ、ジャックは長官を見据えた。
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