遊星は淡々とデュエルを進めていく。
「チューナーモンスター【ニトロ・シンクロン】を召喚!」
【ニトロ・シンクロン】
ATK 300
顔に【ゴヨウ・ガーディアン】と似たような赤い模様が入ったガスボンベのようなモンスターが現れる。
「またチューナーか!シンクロするモンスターもいないくせに、悪あがきか?クズめ!」
「…そこにいる」
そこにいるって…、目の前には捕まっている【ジャンク・ウォリアー】と【ゴヨウ・ガーディアン】、【ゲート・ブロッカー】ぐらいしか…。
【ゴヨウ・ガーディアン】と【ゲート・ブロッカー】はゲジ眉のモンスターだし、どうするんだ?
「“Sp-(スピードスペル)”発動!【ダッシュ・ピルファー】!」
え、遊星が“Sp-(スピードスペル)”を発動した…?
ちょっと待て、確か遊星は【ゲート・ブロッカー】の所為でスピードカウンターが溜まらないんじゃ…。
ゲジ眉も同じことを思っているのか、目を大きく見開く。
「…スピードカウンターはある」
「何ィ!?…あっ、あああああああっ!!【スリップ・ストリーム】かあああっ!!」
【スリップ・ストリーム】…?
そういえばゲジ眉が2回目の【ソニック・バスター】を使った時、遊星が何かしてたな…。
もしかしてその時に発動させたのか?
「そうだ!アンタが“Sp-(スピードスペル)”を使うのを待っていた!」
【スリップ・ストリーム】は、自分のスピードカウンターが相手のスピードカウンターより少ないとき、相手が“Sp-(スピードスペル)”を使った時に発動できる罠カード。
次の自分のターンで自分のスピードカウンターを相手と同じ数にすることができるらしい。
D・ホイールの画面を覗いてみると、スピードカウンターが5つになっていた。
遊星がグッとハンドルを握ると、D・ホイールが段々加速していく。
「こいつ…!クズカードばかりの分際で、まだナメた真似を!」
「【ダッシュ・ピルファー】!【ジャンク・ウォリアー】を解放しろ!」
【ダッシュ・ピルファー】から光が発せられ、巻きついていたロープが切れて【ジャンク・ウォリアー】が遊星の許に戻ってきた。
因みに【ダッシュ・ピルファー】はスピードカウンターが4つ以上あるときに発動可能。
このターンのみ相手フィールド上に存在する守備表示モンスター1体のコントロールを得ることができる。
「…そうか!奴らはあそこを狙ってやがるのか!」
「今更気付いても遅いんだよこのゲジ眉!」
「まもなくゴミが流れ込んでくる。降りてもいいぞ」
遥か前方にメンテナンスハッチが見えてきた。
あともう少しで…!
「冗談じゃねえ!負けが見えてるからって今度は挑発かァ!?」
後方でゲジ眉がスピードを上げた音が聞こえた。
遊星がペダルを踏み込むと、画面の速度が増えていく。
「行くぞ!【ジャンク・ウォリアー】に【ニトロ・シンクロン】をチューニング!集いし思いがここに新たな力となる。光さす道となれ!シンクロ召喚!燃え上がれ!【ニトロ・ウォリアー】!」
【ニトロ・ウォリアー】
ATK 2800
な、なんか俺がイメージしてたビジュアルとちょっと違う…。
【ジャンク・ウォリアー】の面影が消え、厳ついデーモンみたいな顔をしている。
「【ニトロ・ウォリアー】は“Sp-(スピードスペル)”を使ったターンにおいて、相手モンスターとバトルする場合一度だけ攻撃力を1000ポイントアップする」
「何っ!?」
元々の攻撃力2800に1000ポイント加えて、【ニトロ・ウォリアー】の攻撃力は3800ポイントになった。
「【ニトロ・ウォリアー】!砕け!ダイナマイト・ナックル!」
【ニトロ・ウォリアー】が天井近くまで飛び上がり、【ゴヨウ・ガーディアン】に両手を突き出しながら突っ込んでいく。
【ゴヨウ・ガーディアン】が破壊されたことによってゲジ眉のライフが2050に減った。
「くっ、やりやがったな!」
「さらに、モンスター効果。【ニトロ・ウォリアー】がモンスター1体をバトルで破壊した時、相手の守備表示モンスター1体を攻撃表示にしてバトルできる!」
ゲジ眉のフィールドには【ゲート・ブロッカー】が残っている。
強制的に攻撃表示へと変更された。
【ゲート・ブロッカー】
ATK 100
「何だこの効果!!」
「遊星すげえ!」
【ニトロ・ウォリアー】の攻撃力は元の2800に戻る。
しかし【ゲート・ブロッカー】を攻撃するには充分だ。
問答無用で【ニトロ・ウォリアー】が【ゲート・ブロッカー】に拳を叩きこむ。
「うわあああああっ!!」
【ゲート・ブロッカー】との攻撃力分の差である2700ポイントがゲジ眉のライフの2050から引かれる。
ライフが0になり、ゲジ眉のD・ホイールから煙が生じ、途中で停止した。
ここで喜びを分かちたいのはやまやまだったが、メンテナンスハッチのゲートが閉まり始めていた。
「遊星…!」
「!!」
さらに目の前の扉から大量のごみが流れ出してきた。
大きな粗大ごみが雪崩のように降り注ぐ。
遊星はぶつからないよう、隙間を見つけて走り続ける。
「遊夜、しっかり捕まってろ…っ!」
離れないよう腕に力を入れた瞬間、機体がパイプラインの壁を伝い天井を走り出した。
もう重力とかそんなの関係ない。
一瞬の出来事で俺も頭がついていけなかったし!
気がつけば再び通常運転に戻っていた。
目の前にとてつもなく大きなゴミが流れてきて、機体を斜めに倒し地面スレスレを走る。
そしてメンテナンスハッチの僅かな隙間にD・ホイールを滑り込ませ、何とかパイプラインを抜けることに成功したのだ。
一人取り残されたあのゲジ眉がどうなったのか気になるところだけど、今は無事に突破できたことに対しての嬉しさでいっぱいだった。
メンテナンスハッチから大きく飛び出したD・ホイールはしばらくの間空中を飛び続け、なんとか着地してそのまま走り続ける。
「遊星っ!やったな…!」
「ああ…。遊夜、怪我はないか?」
「大丈夫!無傷で怖いくらい…わぷっ」
そんな会話をしているとD・ホイールが急停止した。
反動で思わず遊星の後頭部に顔をぶつけてしまった。
なんで急停止するんだよ…とぶつけたところを押さえながら遊星を見る。
遊星はヘルメットを外し、近くに聳え立つ道路の上を見つめていた。
「…ジャック」
そう声をかけると、頭上から笑い声が聞こえてきた。
「ふふふ…、久しぶりだなあ、遊星!」
月明かりに照らされてその姿が露になる。
金髪の髪に白いライダースーツを身に纏った男…そいつは数日前にパソコンの画面の中にいた男と同一人物だった。
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