先攻はゲジ眉から。
あ、俺ライディング・デュエルを生で見るの初めてだ…。
こんなときになんだけど、ちょっと楽しみだったりする。
「俺は【ゲート・ブロッカー】を守備表示で召喚!」
【ゲート・ブロッカー】
DEF 2000
俺たちの目の前に大きな石板の形をしたモンスターが現れた。
まるで俺たちを阻むように。
しかも守備力2000はかなりの壁だ。
ゲジ眉はカードを1枚伏せてターンエンドした。
次は遊星のターンだけど、何故か遊星の身体が固まる。
どうしたのかと画面を見れば、“SPC”と表示されている部分が0のままだった。
以前遊星から聞いたことがある。
ライディング・デュエルでは通常の魔法カードが使えず、“Sp-(スピードスペル)”と名のつく専用の魔法カードしか使えない。
それを使うにはスピードカウンターが必要になり、先攻1ターン目を覗くお互いのターンのスタンバイフェイズごとにスピードカウンターが1つ加算されてD・ホイールが加速する。
逆に一度に1000以上のダメージを食らうと1000ダメージ毎にスピードカウンターが1つ減っていく、と。
さっきのゲジ眉のターンではスピードカウンターは置かれないから、遊星のこのターンからスピードカウンターが置かれるはずなのに…。
「小僧…、スピードカウンターが上がらないんじゃないのか?」
「「!?」」
やっぱりゲジ眉の所為か!
「それはなァ、【ゲート・ブロッカー】が表側表示で存在する場合、お前は【スピード・ワールド】の効果を受けられない!よってお前のスピードスペルは…」
「封じられる…」
てことは、加速もできないし魔法効果も使えないってことかよ…!
セキュリティのくせにセコい手使ってんじゃねえよ!
「こいつはデュエルのバランスを大きく左右するモンスターで、使用制限がかかっているすげえ奴よォ!」
使用制限がかかってるくせに使えるのか?
そう思っていたらゲジ眉が頼んでもいないのに説明してくれた。
「だが俺のデッキはセキュリティ特権によって【ゲート・ブロッカー】を自由に使える特殊デッキ!お前らはもう俺から逃げられねえ!」
「きったねえぞゲジ眉!何がセキュリティ特権だ!ただのインチキじゃねえか!」
「誰がゲジ眉だこのクズが!てめーは黙ってろ!」
キーッ!なんだよこいつ!
セキュリティなら暴言吐いたり使用制限のかかってるカードを使ってもいいのかよ!?
しかも気付けば0時になってるし!
一人イライラしてる中で遊星は普段と変わらぬ態度…のように見えた。
「…気に入らねえな」
「……え?」
ぽつり、と遊星が何か呟いた。
D・ホイールの音とあまりの小ささに上手く聞きとれなかった。
「気に入らねえ。俺は…、俺たちは前に進む!」
遊星はグッとペダルを踏み、ハンドルを強く握る。
「俺のターン!【スピード・ウォリアー】を召喚する」
【スピード・ウォリアー】
ATK 900
「はっ!そいつは召喚したターンのバトルで攻撃力を2倍にすることができるんだったなあ!だが甘いぜ!それでも【ゲート・ブロッカー】の守備力には及ばない!」
そう、【ゲート・ブロッカー】の守備力は2000。
【スピード・ウォリアー】の攻撃力が2倍になっても1800…200足りないんだ。
「ラリー、お前のお守り…使わせてもらう」
遊星の右手には1枚のモンスターカード、さっきお守りとしてラリーから渡されたあのカードがあった。
「更に手札より【ワンショット・ブースター】を特殊召喚!」
【ワンショット・ブースター】
ATK 0
「バトル!」
【スピード・ウォリアー】と【ワンショット・ブースター】が飛び上がり、空中で2体が合体する。
合体って言っても、【ワンショット・ブースター】の上に【スピード・ウォリアー】が乗っただけだけど。
「【ワンショット・ブースター】をリリース!」
「ほーう、そこまでするか」
【ワンショット・ブースター】は自身をリリースすることによって、自分のモンスターと戦闘を行った相手モンスター1体を破壊する効果が備わっている。
高ステータスや戦闘で破壊されないモンスターに対する除去カードってところかな。
「甘いぜ!例え【ゲート・ブロッカー】を倒したとしても【ゲート・ブロッカー】の守備力は高い!自分のライフにもダメージが跳ね返ってくるぜ!」
「それでも…!」
【スピード・ウォリアー】はそのまま【ゲート・ブロッカー】に蹴りを入れ【ゲート・ブロッカー】を破壊した。
2体の攻撃力分の差、200ポイントがライフから削られ、遊星は3800ととなった。
反射ダメージは食らうけど、厄介な【ゲート・ブロッカー】が破壊できればこっちのもんさ!
「ラリー、お前のおかげで俺たちは前に進める!」
「感謝しなくちゃな!」
D・ホイールは直進して左折し、接近する建物の中に入っていく。
大きくジャンプしたのち、綺麗に着地し今度は大きな筒状の中を進む。
此処が俺たちが目指していたパイプラインだ。
「…っ!まだ追っかけてくんのかよあのゲジ眉め!」
こんなところでデュエルするのかよ。
早く決着つけないと、もう0時過ぎてるんだぞ…!
パイプラインの中は思っていた以上に明るくて、思わず目を細める。
「へっ、逃がさねえぜ!罠カード【ブロークン・ブロッカー】発動!」
「なっ…!」
俺たちの目の前に先ほど倒したはずの【ゲート・ブロッカー】が2体出現した。
【ブロークン・ブロッカー】は攻撃力より守備力が高い守備表示モンスターがバトルで倒された時発動することができる。
そして破壊されたモンスターと同じ名前のモンスター2体をデッキから特殊召喚するカードだ。
【ゲート・ブロッカー】を3枚も入れてやがったのか…制限もくそもねえじゃんよ!
「見たか!これが権力ってやつよォ!」
「さっきから権力権力五月蠅えんだよバーカ!」
「黙れクズの分際で!」
クズじゃないから黙りませーん!
べーっとゲジ眉に向けて舌を見せる。
遊星はカードを2枚伏せてターンを終了した。
やばいな、残り時間が2分をきってる…。
シミュレーションしたときより全然遅い。
ぎゅ、と遊星の腰に回してる腕に自然と力が入る。
「…遊夜、俺を信じろ」
遊星が俺の腕にそっと手を重ねた。
そうだよな…まだ決着はついてないし、まだ2分もある。
俺が遊星を信じないでどーすんだ!
遊星の言葉に力強く頷いた。
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