「へぇ〜慢性的な不眠症なんて大変だなぁ」
『もう慣れましたけど』
「いや、それもそれで問題だろ」
『いいんです』

どうやら朔は私の血液の変貌、それに夢の中の話までは聞いていないらしい。
時がくればこの人も知ることにはなるんだと思うけどその時までは自分の口から言うのはやめておいた。


「それで?ここの生活には慣れたか?」
『そこそこ…よくしてもらってます』

そこそこどころかかなり親切にしてもらっている気がする。食事もおいしいし個室も準備してくれて。だけど私の性格上馴れ合いはそれこそ慣れていない。だから時々思う。面倒なんだろうなって。もし私が與儀たちの立場なら確実に面倒な女だと思う。


「ふーん…居心地は悪くはないってところか」
『…はい』

あれ?ていうかここが壱組ってことは…


「あ、そういえばこの前アイツと会っただろ」
『アイツ…?』
「喰だよ。眼鏡かけたひょろっこい男、見たんじゃねぇのか?」
『あぁ…』

そういえばそうだったかも。印象はそこそこ良かったけど平門に執拗に問い質してた気がする。笑顔を振りまいてはいたけどそれが不自然すぎるくらいイイ人を演出しようとしてて逆にこの人は絶対腹黒いって思ったくらいだ。


「何か言ってたか?」
『強いて言えば私に対して不審感を抱いていたことですかね。しかもその喰っていう子、頭良さそうだけどそれがいいように捻くれてません?』
「へぇ!お前面白いこと言うんだな!まぁ否定はしねーけどな」

あれでも可愛いところがあるって笑うけどそれはまぁ今は置いといて。


「前にも言われたかもしれねぇけどお前はクロノメイの卒業生になっている。だがそれは数年のタイムラグがあってからの此処の配属になっているはずだ。理由はまぁ、どうにでもなる。訳有りな奴等が蔓延っているからそこまで深刻になる必要はない」
『深刻に見えますか私』
「念の為だよ」

深刻になったって仕方が無いしこうなる運命だったんじゃないかって、そう思えば至って当たり前のことだしその時がきたんだと思えばいい。

平門に拾われたことが果たして良かったのか、それともカフカにそのまま身を預けていたらまた境遇は違っていたのかもしれない。


『……』

嘉録が欲しがってるコレもいつか渡すことになるのなら、


「蒼」
『…はい』
「お前は此処に在るべき人間なんだよ。平門に拾われたことも俺たちと出逢うことにもちゃんと意味がある」
『…?』
「お前は考えすぎだ。もっとラクに構えてもいいと俺は思うぜ?」
『朔は考えなさすぎ』

とは言うものの両肩をポンと叩かれて顔を上げればなんてことはないいつもの朔。だけどその穏やかな眼差しのせいなのか心なしか少しだけ、肩の力が抜けた気がする。

実はこうして話してる間も耳鳴りがしてる。まるで呼ばれてるようで気味が悪いけど朔のフランクな喋りのおかげかそこまで気にはならなかった。

蒼…逢いたいな

この声もただの空耳、私はそこには行かない。

行きたく、ない。



Psychedelic
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