13

「ふー…悪!お腹いっぱいになっちった」
ず…と茶を啜り、試験官(女)はそう宣った。
その言葉を私と刑部は余裕を持って聞いていた。
「二次試験、合格者は二人よ!」
ふはは!諸君、そんな恨みがましい目を向けてきても無駄だ。不合格者はさっさと家に帰りなさい。


さて、少し回想でもしてみようか。
「いーい?形は大事よ!ニギリズシの形をしてないものは、味見の対象にもなんないわよ!」
どっかの馬鹿が寿司には魚を使うとばらしやがったせいだろうか、試験官(女)の前には受験生が何人か並んでいる。しかし食べてもらえた者はまだいないようだ。
「あんたも403番と全く同レベル!」
クラ…金髪君の皿が試験官(女)に放り投げられる。
一体どんな…ちょっとした好奇心で見てみたら、どう贔屓目に見ても人に振舞う料理とは到底思えないその出来に顔が引き攣った。
貴様らはその物体を人から出されて食えるのか?無理だろ。
とかなんとかやっている内に次は私の番だ、と試験官(女)へと目を向けたらさりげなく刑部が合格したようだった。
ちぇっ、先を越されちゃったぜ。
「ふーん…アンタもなのね」
「変わりダネだがなくはないだろ?」
私の寿司。鳥のタタキに塩をぱらりと振ってスダチに似た柑橘を絞ったもの、それを見て含みのある言葉をつぶやく試験官(女)に牽制の意味を込めて皿を突き出す。魚じゃないからダメ、なんて言われたら困る。
それにしても私『も』とは…刑部も魚じゃないネタだったのか。
彼女はにんまりと笑い、私の力作を箸で摘まみ上げ……
「ええ、モチロンよ。…美味しければね」
そのまま口へ。
「!…身が柔らかく、しかもクセがない……そしてこの果汁のおかげでさっぱりとしているから何個でも食べられそう」
味を分析する様はさすが美食ハンターといったところか。
私としてはさっさと合否を教えて欲しいのだが。…と思っても口には出さない私はとても紳士的ではなかろうか。
「いいわ、合格よ!…他の受験生に教えられたら困るからここにいなさいね」
「分かった」
その後もやいのやいのと受験生らが己が思う『スシ』を持ってくる。が、それらが試験官(女)の胃に入る事はない。未確認物体ばかりが量産されていく。
この試験長くかかりそうだ………読みかけの本持ってくればよかったと少し後悔。
「暇だな刑部」
「暇よナ三成」
「…。ねえ、」
『原作』ってヤツはほとんど覚えていないがこんなに試験って長かったかな。
ページに描かれない地味に過ぎていく時間が長い、長過ぎるッ!
あんまり暇だからか試験官(女)が話しかけてきた。
「なんでアンタたちは魚じゃないスシにしたの?『スシ』知ってんでしょ?」
刑部は何を作ったんだ?え、野菜の寿司…?それでよく合格もらえたものだ。
あー…それで何故魚を使わなかったか、だな。
「別に……人に食べさせるのに沼の魚では匂いがキツいかと思っただけだ」
「然様。それに淡水魚は寄生虫の虞れも有るユエ他人様の口に入れるにはちと憚るのよ」
一瞬、虚をつかれた顔。
「そうよ、そう!アンタたち分かってるわ。食べる人の事を考える…これが食の基本よねっ!他の受験生に見習わせたいわー!」
そしてすぐさまその顔は輝いた。あ、可愛いかも。
力説する彼女はまたもや受験生の物体Xを放り投げる。…苦労してるな。
そんな風に中々進まない試験だった(初めっから諦めているのかボク女はやる気なさそうに酢飯を突付いている)が、ついに!満を持して!自信たっぷり顔のハゲゾーの登場である。
まあコイツは日本…ジャポン出身だし寿司は知ってて当たり前だな。
「どうだ!これがスシだろ!」
出してきたのは確かに寿司、紛うかたなき寿司であった。それにしても「ドヤァッ!」と言わんばかりの顔が鬱陶しい。
…ま、合格だろ…と思った、が、
「マズイ、ダメ、やり直し」
試験官(女)はばっさりと一刀両断してしまった。
えーと、まさか私と刑部が『スシ』のハードルを上げた…なんて事はないよな…?
「スシってのは、飯を一口サイズの長方形に握って、その上にワサビと魚の切り身を乗せるだけのお手軽料理だろーが!!こんなもん誰が作ったって味に大差ねーべ!?」
ハゲゾーがバラしたせいでその後は寿司ラッシュ。もはや味で審査するしかなくなった試験官(女)は情けも容赦もなくばっさばっさと切り捨てていく。

―そして冒頭へと繋がるのであった。

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