12-1.初芽

私は家康様にお仕えする忍。
敬愛という言葉では足らないほど強く家康様の事を想っている。


実は私は平成から転生してきた人間だ。
…いや、正しくは憑依なのかもしれない。気付けばこの『初芽』と呼ばれる体に意識が入っていた。この体が幼稚園生くらいの時のことだ(正確な年は知らない)。
『初芽』の一族は忍で、もちろん『初芽』…私も忍術修行をさせられた。
と、言う訳で私は忍となったのだが



私は孤独だった。ここは、この世界は『初芽』の世界だ。私の世界じゃない。
修行をして強くなればなるほどに孤独感に押し潰されそうになっていった。
そんな時私は『現代』の頃の歌を歌った、思いっきり。懐かしむように。
その日も、私は修行の合間を縫って私だけの秘密の場所に向かい…
「会いたかった〜会いたかった〜会いたかったぁ〜イエスッ!」
大熱唱。
シリアスかと思った?残念!ギャグでしたー。
いやしかし、これがなかなかどうしていい。
声を出すってのは精神安定剤にもなるね、アイドルの歌なのはご愛嬌。
「会いたかった〜会いたかった〜会いたかったぁ〜イエスッ!きっみっにぃぃ〜」
「え、ああ、うん…ありが、とう…?」
君に…と指差した先には少年がいた。
何これ死にたい。


山吹色の着物に濃いほとんど黒に見える焦げ茶色の袴を穿いた少年…『初芽』より二つか三つほど年が下だろう…は竹千代と名乗った。
そこで私はピーンと来ちゃいましたよ。この子徳川家康だ…って。
同時に初めて気付いた、ここが戦国BASARAの世界だと。
だって茶髪で短髪がツンツンしてるよこの子。間違いない。
でも「忠勝〜忠勝〜!」と機動戦士に頼ってる風には見えないしっかりした顔つきだ。
だからだろうか。
私は誰にも話したことのない『私』の話を洗い浚い家康少年にぶちまけてしまっていた。
もうコレっきり会うこともないだろう、その考えが私の口をよく動かす。
拒絶される恐怖がないわけじゃない。それ以上に溜め込んだ思いを吐き出せる爽快感があった。
私が話し尽くすまで、彼は否定も肯定もせず黙って聞いてくれた。かといって適当に聞き流しているわけでもなく真剣な目で一言一言に聞き入っていた多分。
「おめぇ名は?」
「…初芽」
話し終わって、少し沈黙が落ちて……そんな時に名前を聞かれた。
答えると「いい名前だな」と女ったらしのような言葉が返ってくる。
なんと返していいか分からず私は黙ったままだったと思う。もしかしたら「…普通」と無愛想に言ったかもしれない。
そして。
「初芽!ワシと契約して魔法少…徳川忍軍に入ってよ」
はつめ☆マギカってやつですか。ていうかソレって…えええ!?
混乱した頭じゃ反応なんか出来やしない、黙って頷くことすらできなかった。
そんな私を家康少年はニコニコ(ニヤニヤ)と見ていたのだった。

(14/16)
*prev | Title | next#



×
- ナノ -