07-2.懊悩

どこへ向かっているのだろう。
「ぬしの悩み事は三成であろ」
ワシの前を行く刑部はしばらく黙って輿を進めていたが、まったくの不意に、唐突なタイミングで、振り返りもせずにそう言ってきた。
一瞬誤魔化そうかと思ったがあまりにも断定口調だったため、
「…ああ、うん。何で分かったんだ?」
大人しく肯定を返す。
どこか間の抜けたワシの声に刑部はくつくつと笑う。
その間にも輿は迷いなくどこかへと進んでいる。
「ぬしらは分かり易い」
そうかなあ、と溢れた言葉は刑部の背中にすら届かなかったようだ。特に反応はなかった。
何を考えているか分からない伸びた背があるだけだ。
「ぬしの悩み…話の種に一つ我に話してみせ」
多分、だが。刑部は心配してこう言ってくれているに違いない(と思いたい)。…からかうような口調だがそれはいつもの事だろう。
「えー?うーん、」
刑部に執り成してもらったら?そんな考えがないわけじゃない。
三成から絶対の信頼を寄せられている刑部ならそれが出来るだろう。必ず今の状況を変えてくれる。
…でも、それじゃ駄目だ。
見掛けだけ元通りに戻ったって、もう決して前と同じには振る舞えない。ワシも、三成も。
「…遠慮するよ。きっともう駄目だから」
「然様か」
「ああ」
はあ、と大仰な溜め息を吐く背中。きしりと音を立てながら輿が立ち止まり、
「……ふぅ……分かり易い、ハズなのだがナァ。ナニユエぬしらは行き違う」
ここではじめて刑部はワシの方へと体ごと振り返る。困ったように頬を掻いていた。
刑部らしくない反応だと思わないでもない。
「…?すまないがそれはどういう意味だ?」
「我から言えることは一つ、ぬしの悩みはすぐにでも無くなろう……ホレ」
問い掛けへの答えはなく包帯の巻かれた指の向いた場所。


ワシを睨み付ける三成がそこには立っていた。

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