「千歳!」
私を呼び止める声がした。
あぁ、この声は…
『何か御用ですか、壱矢さん。』
「嗚呼、おみつを知らんか?」
思ってたより早いな…流石壱矢さん。
『おみつさんがどうかしたんですか?』
「さっきの話だが…おみつが何処かへ出掛けようとしていたのでな、何処へ行くのか聞いたらこの有り様だ。」
この有り様、と壱矢さんが指したのは見事な程に手形の形に腫れている頬。
うわ、痛そう…。
この人の事だからこれも愛の証だなとか考えてそうだけど。
『ごめんなさい、私は存じません。』
「そうか…」
残念そうに肩を落とす壱矢さんについ本当の事を話しそうになる。
駄目駄目、ここでバラしたら今までの行動が水の泡よ。
「何が水の泡なんだ?」
『それは今までの苦労が…ってあれ!?』
…まさか、私口に出してた…?
「そりゃあ、盛大に。」
だっはっはっはっ!と豪快に笑う壱矢さんに絶望を抱く。
何やってんだ私…。
「…で、何が水の泡なんだ?」
『あー…えっと…。』
おみつさん早く戻ってきて…。
「壱矢、何をしている。」
「『おみつ!/おみつさん!』」
おみつさん、貴方は私の救世主です…。
「おみつ、今まで何処に行っていた。」
壱矢さんに問われ、おみつさんは一瞬戸惑ったが、私の方をチラリと見た後ある物を取り出した。
「…受け取れ。」
「おみつ?これは…」
「いいから受け取れっ!」
半ば押し付けるように壱矢さんの掌に乗ったのは、薄紫色の髪結い紐。
「…貴様の髪紐が今にも千切れそうだったから城下で買ってきた。別に私からも贈り物をしたいから千歳に貴様を引き止めてもらって買いに行ったとかではない。勘違いをするな。」
おみつさんがツンデレだ…!
何なの、石田一族はツンデレ一族なの?
「おみつ…!」
あ、壱矢さん凄く嬉しそう。
『おみつさん、良かったですね。喜んでもらえたみたいで。』
「…あぁ…。」
顔真っ赤のおみつさんも可愛いです。
こんな日も悪くはない
おみつさんは微笑を浮かべながら言った。