能力者×鈍感2


 幼馴染みに振られてから二週間。ただ今、俺、嶋圭一(シマケイイチ)は非常に焦っています。

「それで、その人がすげーイケメンでさあ」
「へー」
「気障ったらしくないし、むちゃくちゃ優しかったんだ。爽やかな好青年って感じで、」
「ふーん」
「ちょっと、聞いてんのかよ!」

 ええ。聞いてますよ、聞いてますとも。
俺の幼馴染みである幸太はつい最近バイトを始めた。駅前の小さな喫茶店で、なかなかに雰囲気がいい。幸太は昔から思ったことをそのまま口に出してしまうようなやつで、あまり人と上手く付き合うことが出来なかったから、こうして接客の仕事をするのはかなりいい経験だと思う。
そう思うのだが、ここの所、幸太はそこの先輩とやらのことばかり口にするのだ。楽しそうな明るいオーラを振り撒きながら、ニコニコ笑って俺の隣で知らない男の名前を呼ぶ。その度に俺の胸の辺りがどす黒いものに支配されて、モヤモヤと全身を包み込んでいく。
酷いやつだと思う。幸太はただ純粋に自分の尊敬する人のことを語っているに過ぎないのに、俺が勝手にむかついて、勝手に嫉妬しているだけなのだ。きっと今、俺のオーラはひどい色をしているだろう。

「けーいちも会ってみたら絶対驚くって。本当にかっこいいんだって!」

そう言って笑う幸太の顔を見てられなくて、俺は目をそらす。そして、ぽつりと呟いた。

「……俺と、どっちがかっこいい?」

こんな聞き方は卑怯だと思う。でも俺は、俺に向けられたその桃色のオーラがいつか違う人に向いてしまうのではないかと恐くて仕方ないのだ。
自分があまりにも情けなくて、俺はゆるりと項垂れた。

そんな俺に、

「けーいちはかっこよくないじゃん」

幸太は当たり前といった様子で答えた。その言葉に心臓がズキリと痛む。

「女の子には結構評判なんだけどな……」
「そんなのけーいちの上辺だけじゃん。けーいちって他の人の前ではかっこつけてるけど、本当は全然違う」

幸太はいつになく真剣な眼差しをこちらに向けて、俺はぐっと息を呑む。

「虫が苦手でいつも俺に退治させるし、料理下手だし、ゲーム弱いし、しょっぱい物ばっか食べて野菜食べないし、雷だって苦手だし、全然かっこよくない」
「お、おまえな……」

そこまで言うか。でも、俺の悪いところを次々にあげていく幸太のオーラは、何故かとても穏やかで、ほわほわと暖かい。そのギャップに戸惑う俺に、幸太は照れ臭そうにはにかんだ。

「かっこよくないけど……、俺はそういうけーいちの方がいい」

その言葉に心臓がトクリと鼓動を刻んだかと思うと、それはどんどん速さを増して、遂には俺の身体全体がドクドクと音をたてる。全身から幸太への気持ちが溢れて、地面に川を作る。

ああ、もう。

「好きだ」
「え?」
「幸太が好きだ。誰よりも、何よりも、俺は幸太が好きだ」

そう素直に口にすると、次の瞬間には幸太に頭を叩かれていた。

「ば、ばっかじゃねーの!? 何言ってんだよ、いきなり!」
「いや、ごめん。つい、言っちゃった」
「ついじゃねーよ、馬鹿! ばーか!」

幸太はぱっと視線を逸らすと俺に背を向けてしまう。そうやって顔を隠してもオーラはだだ漏れだし、それに何より耳まで真っ赤だ。そんな幸太のオーラからは、嬉しい、恥ずかしい、馬鹿、なんて可愛らしい感情が伝わってくる。
そして今日は更にもう一つ、

戸惑い。

幸太は何で自分が俺の言葉に喜んでいるのか、戸惑っている。
堪らなくなって俺は思わず口元を手で覆った。やばい、顔がにやける。

「な、何でおまえが照れるんだよ!」
「仕方無いだろ、」

おまえが自分の気持ちを自覚し始めてるんだから。

とは言わないけれど。


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