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(僕の馬鹿…)
冷たいジャッカルの視線を見るに、レノはとことん嫌われてしまったらしい。
こんな自分をほっとけというくらいだ。
ジャッカルの中ではこうして厄介事ばかり持ってくるレノなど、死んだところでどうでもいいのだろう。
ジャッカルは昔から、弟弟子であるレノのことをあまりよく思っていないのか、すぐに冷たい言葉を浴びせる。師匠のリクゼには礼節を重んじて、敬語で物腰柔らかく話しているのに対し、いつもレノには距離を置き、冷たく対応する。
レノは確かに、秀でたところはない。
獣人で愛らしい顔をしているといっても、本当に愛らしい獣人ばかりの猫型と比べれば劣ってしまうし、何より狼の血を引くのに非力だ。
こんなんじゃジャッカルが呆れ見放してしまう・・・と、わかっているのに、ミスをしないようにすればするほど意識してしまい更にミスを多発していた。
「僕…治らない…ですか…?」
ペタリ、と耳を伏せて悲しげな瞳をむけるレノ。
そんなレノを安心させるようにリクゼは優しく頭を撫でる。
「いや…大丈夫…だよ、うん…」
「…ほん…と…」
「う、うん…ただ…ねぇ…」
リクゼは、言いづらそうに言葉を止める 。
この触手の卵。
触手の幼虫がかえる前に卵を死滅させればいいのだが…
返ってしまうとなると、取り返しのつかないことになる。
卵がかえる前に死滅させる方法もあるにはあるのだが・・・
「ジャッカル…君の身体を借りてもいいだろうか…」
「はっ…」
リクゼの言葉に、いつも生真面目で男前なジャッカルの顔が一瞬間が抜けた顔になる。
リクゼは「あの…」と混乱するジャッカルを他所に言葉を続ける。
「この卵、獣人の精液に弱いらしくてね…
僕は獣人ではないし、卵がかえらぬよう魔力で止めなきゃいけないし?だからね、君の身体を借りたいの」
「身体…精液…、つまり…」
「うん、つまりね、レノを抱いてくれないかなぁってこと。レノの身体に精液をかけてほしいんだよ」
ニッコリととんでもないことをさらりと言ってのけたリクゼに、ジャッカルは、あの…と言いよどむ。
いくら、普段真面目にリクゼの事付を守っているジャッカルもいきなりのリクゼの発言にはいそうですか、とも言えないらしい。
なにせ、相手は弟弟子であるレノ。そのレノを触手の卵死滅のためにいきなりだくなどと・・・。
「君しかいないんだよ…」
「ですが…」
「だ、駄…目です…」
二人の会話を遮るようにレノが叫んだ。
「ジャッカルは…駄目…」
ジャッカルには嫌われたくない。こんな形で抱かれたくない。
好きだから。自分の好きな人には、迷惑かけたくない。
「ジャッカルだけは…」
ジャッカルが好きだから。密かに思うしかできないから。
だからこそ、レノはリクゼにジャッカルに抱かれるのは嫌だというのだが…
どうやら、ジャッカルは言葉そのまま受け止めたらしく、ギリ、と歯を鳴らす。
顔を上げた後、ジャッカルはギロリと獣の目をしてレノを睨んだ。
「師匠」
「ん…」
「俺、こいつを抱きます」
「え…っ…や…」
宣言し、レノを抱き上げるジャッカル。
小柄なレノを抱き上げることなど、大柄のジャッカルには簡単だったのだろう。
ジャッカルは、自分の寝室にレノを運ぶと、レノをベッドに転がした。