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この世界には、人間と獣の他に、獣人がいる。
半分人間の半分獣の血をひく、獣の人、である獣人。
見た目はにんげんそっくりな半獣は、能力は獣のものをひいており、人間ではありえないパワーを出す。人との違いは、獣耳と、獣の力を持っていることくらいだ。
獣の言葉も人間の言葉もわかり、人間のように理性や考える脳もある。
そのため、半獣は少数民族でありながら、迫害されることもなく重宝されてきた。
フィズレイン、マフィア市コダク森。
人里離れた森にも、二人の獣人がいた。
「おししょうさま!」
狼の血をひく半獣レノは、泣きながら部屋に帰ってきた。
ルウイの服はボロボロで、下半身に至ってはなにも身につけておらず、レノ自身もフラフラと今にも崩れ落ちそうであった。少し大きめの上着から、艶かしい足が覗き、扇情的だ。
足元はおぼつかない状態で、顔は真っ赤に赤らんでいる。
ぐしゃぐしゃに濡れた顔に、あとからあとから涙が流れていた。
「レノ・・・?」
レノのあまりの泣きじゃくった表情に師匠である、魔道士・リクゼ・ブルクは、目を見開く。
師匠の隣にいた、豹の血をひく兄弟子ジャッカルはそんなレオを見て、眉を潜めた。
「ぼく・・・」
「騒々しいぞ、レノ」
きつい声で咎めるジャッカルに、レノは身体を小さくし俯いた。
威圧感ある、ジャッカルの鋭い瞳にレノができることと言えば、身体を縮めることくらいだ。
ぐずぐずと静かになくレノに、師匠であるリクゼは腰を曲げてレノの視線まで合わせる。
「どうしました?レノ…」
「ぼ、僕…あの…あの…」
ひくひくと嗚咽を交え、なく、レノ。
あまりの嗚咽に言葉にならずレノがなにをいっているかわからないリクゼは、どうしたものか…と困った顔をした。
よくよくレノを観察してみれば、上半身しか衣服を身につけておらず、剥き出しにされた細い滑らかな足は白い乳色の粘着性のある液体で濡れていた。
その現状を見るに、導き出されるある可能性≠ノ、リグゼは頭を抱える。
「まさかこの服…リタの森に…?」
リクゼが尋ねれば、レノは小さく震えながらもコクりと頷く。
「は、はい…」
「馬鹿ですね…リタの森は繁殖シーズンであれほど…」
「ご、ごめんなさい」
しゅん、と頭を下げるレノ。
リタの森といえば、レノたちがいる小屋よりも少し距離がある森で、今ちょうど繁殖シーズンの触手達がいる。
その触手達は子孫を残そうと、繁殖シーズンはどの生物にも寄生してしまうのだ。
触手達は、雄でも雌でも穴があれば寄生し、体内に入り、卵を産む。
その卵はやがて寄生者の肉体を壊し外へ出てくる。つまり寄生されたが最後、卵がかえってしまえば、寄生者はそのうまれたての触手に肉を食いつぶされて殺されてしまうのだ。
どうやら、レノは、卵をうめつけられたらしい。苦しげに息をはき、えぐえぐとこの世の終わりのように泣いていた
「卵…生み付けられたのですね?」
リクゼの問いにコクリと頷くレノ。
リクゼはやれやれ…と天を仰いだ。
―全く、このドジっ子がまた厄介を…
レノは、いかつい形が多い獣人にしては愛らしく可愛らしい顔をしている。
性格も非常に素直で天真爛漫。いつも笑顔を絶やさない優しい子である。
しかし、こと何かをすると、ミスを多発してしまうのだ。
その度に師匠であるリクゼと兄弟子である同じ獣神のジャッカルは尻拭いに翻弄されるのだ。
「師匠…そいつは師匠の言い付けを破った…そのまま殺してしまってもよいのでは…」
忌々しそうに、レノを睨みつけるジャッカル。
「これ、ジャッカル。そんな事いうんじゃないよ…」
ジャッカルの冷たい言葉に師匠は駄目だよ、と優しく咎めた。
(ジャッカル…)
レノはジャッカルの言葉にゆるゆると瞳を潤ませた。
そもそも、レノが危険を犯してまでリタの森にいったのは、ジャッカルの誕生日プレゼントにリタの森に生えている『ケプネ草』を取りにいきたかったからだ。
ケプネ草は大変貴重な種で、リタの森にしか生えていない。
ケプネ草はとても綺麗な花で、鑑賞だけじゃなく万病にもきくと言われている。
ジャッカルはいかつい生真面目そうな容姿に見えて、薬草にも詳しいから、あげればきっと喜ぶと思い、危険を承知でレノは森へとはいってしまったのだ…