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「悪いな、上山」
羽住から、上山をレイプしろ、とお願いされて、二週間。
俺は上山を体育倉庫に呼び出していた。
大抵、俺を警戒して、呼び出しても俺から捕まえないといけないパターンがほとんどなのだが、上山は俺の呼びつけに律儀にも応じ、どこかこわごわと俺を見つめていた。
「あ・・・の…、」
黒い、大きな瞳。まるで女の子のように愛らしい小さくまとめられた顔。
羽住が嫉妬するのもわかる、可愛らしい少年。
上山は俺をじっと見つめ、俺を観察していた。
「ぼくをどうするつもりですか・・・」
うつむき震えながら、上山が俺に問う。
怖いんだろうか。
ぷるぷると震えるその姿は、まるで、小動物のようだ。
良心が痛む。
いや、今まで羽住が気に食わない人間は、毎回呼び出し脅してきたのに。
上山があまりにも可愛らしい顔で、怖がっているから、どうもいつもと同じではいられない。
でも、忠告しなければ。
このまま会長のそばにいるな、と言わなければ。
羽住が悲しんでしまう。
「会長と離れろ。これは、警告だ」
「けい・・・こく?」
「お前をよく思っていないやつがいるんだ。俺はそいつに頼まれた。だから・・・会長から離れ」
「いや・・・です」
きっぱりと、俺の言葉を遮る言葉。
予想だにしていなかった言葉に、一瞬息をするのも忘れる。
「だって、ぼく、会長のこと、好きだから・・・」
そういって、顔をあげる上山。
その瞳は、芯のあり、まっすぐ前を向いていた。
好きだから。
好きだから・・・か。
馬鹿らしい。
人を好きでいても、辛い思いをするだけなのに。
俺のように。
俺の忠告が聞けないならば、それでもいい。
傷つくのは、自分だから、
他の誰かに襲われてしまうのは、上山だから。
俺は忠告したまで、だ。
「そうか・・・」
そういって、上山に背を向ける。
いうだけのことは、した。
これ以上は、時間の無駄だ。
羽住には申し訳ないが、たたなかった、抵抗された、とでもいおう。
誰かしら、羽住のシンパが、上山をそのうち襲うかもしれない。
でも、それは俺の責任じゃない。
「・・・ど、どこへ・・・?」
どこか焦って俺を呼ぶ上山。
「忠告は、した」
「あ、貴方は・・・しないの?」
「…なに?」
「レイプ。貴方がレイプしたって・・・。会長に近づく人間を、あなたがレイプしたって…だから、僕…」
「・・・、」
俺がレイプした、ね。こいつもやっぱり噂を信じていた一人か。
震えていたもんな。
「あいにく、お前にゃたたねぇから安心しろよ」
そういって、今度こそ、上山に背を向けた。
他のシンパが上山を襲うのはいつだろう、
そうどこか他人事のように思いながら。