81
「止めなさい」
 懐かしい声がした。
 かつての唯一無二の存在。自身の知識に絶対的な自信を持っており、それを証明するために生きていた、天才科学者。否、あまりに大きすぎる彼の自信と野望は、彼を天才から変貌させてしまった。
 彼の名は、アルティフ・シアル。
 成るべくして成った、狂気の科学者。

 貫かれるとばかり思っていた風の刃は思ったより浅いところで止まった。とは言っても刺さっていることに変わりはないので、痛いことに違いはない。
「ああ、何だ。騙された」
 無言で痛みに耐えるセツの前で、クサカはそうぽつりと呟くと、糸が切れたかのように崩れ落ちる。
 が、膝から床に落ちる前に気が付いたのか、セツの腰を掴んで落下を防ぐ。抉られた下腹部にまともに負荷を加えられ、セツの腹部から勢いよく血が出る。が、彼女は痛いだの止めろだの一切言わずにクサカが立ち上がるのを待った。
「うわ、ありえねえ……。お前の血で汚れた」
 開口早々罵倒されるのも最早慣れたもので、すみませんと短く謝れば、忌々しげに舌打ちをされる。が、それが彼なりの照れ隠しだというのも分かっている。
「大丈夫か?」
 さすがに流血しているのを放っておくのは不味いと考えたのか、結界で幹部を覆い、結界樹の樹液で傷口の修復を図るセツとクサカへとココーが歩み寄る。どうやら、彼を捕縛していた結界はクサカの攻撃が当たると同時に解除されたようだ。
「俺は別に……。というか、途中から何も覚えていませんし……」
「あー、えっと、まあ疲れてたんじゃないかな?」
 白々しく頭を掻きながら、クロハエは言葉を濁す。
 先ほどのアルティフの声はクロハエが行ったものだった。彼はあらゆる人の声を真似し、操ることが出来る能力を持っている。他のシキと比べてとりわけ戦闘に役立つ訳ではなく、能力自体も地味であるが、諜報や情報操作に関しては彼の前に立つ者はいない。
 間接的に大量の命を奪えるという点では、普段は温厚で他の仲間達に足蹴にされることの多い彼は誰よりも恐ろしい存在とも言える。
「セツ、大丈夫か?」
「問題ありません。修復可能な範囲です」
「そうか、だがお前のあの行動は褒められたものではない。二度とするな」
 珍しくココーの言葉には棘があった。相当腹に据えかねているのだろう。無理もない、セツは攻撃を食らう寸前で両手を広げ、まるで殺せと言うように無抵抗だったのだから。
 考えておきます。と返事を保留にし、傷口の修復を終えたセツは改めて周囲を見渡す。
 廊下に溢れるのは自分の複製の死体死体死体……。よくもまあここまで殺せたなと感心するほどの死体で溢れかえっていた。それはセツの複製造りに執着しているフラウデの狂気の象徴に思え、薄ら寒いものを感じた。
「もうこの場所には求めているのものはありませんので、早く戻りましょう」
「んー、まあ早く出たいのは本音だよね。この先に何があるのか少し気になるけど。ほんの少しだけね」
「朽ちる樹が一つあっただけです」
 そう呟いたセツの目はどこか遠い場所を見ているようであった。
 あの良く喋る複製はいつまであの場所にいるつもりなのだろうか。体が樹に変化しつつある彼女は、他の魔物とは違い日光と水があれば生きながらえることが出来る。
 一年、二年。はたまた十年以上、彼女は誰も来ないこの地で自分への恨み辛みを口にしながら生きるのだろうか。最も、それは彼女が選んだことなので、此方が気にしてもどうすることも出来ないのだが。
 進むにつれ複製の死体は少なくなり、やがて何の変哲もない廊下へと変わる。出口の光が見えてきたとき、セツはおもむろにココーとクロハエに囁く。
「もう一件付き合っていただきたいのですが」
「乗りかかった船だ。この際構わん」
「感謝します。それともう一つお願いが」
 クサカはもう外へと出ていた。振り返る余裕もないところを見るに、どうやら思っていたよりも彼の体力の消費は激しいようだ。
 外から聞こえるケミの騒がしい声を聞きながら、セツは更に声を潜める。
「クサカの件、あれの原因は私です」
 どうしてかと尋ねるより早く、外に出たセツは説明を求めるケミによって引きずられてゆく。
 多くの謎を生み出した施設振り返ると、施設の上空には無数の鳥が集まっていた。恐らくセツの複製の死臭を嗅ぎつけてきたのだろう。空のみならす、周囲も獣の気配が色濃くなっていた。
 ここで彼はこの地の自然が妙に豊かな理由に気付いた。元々自然豊かであることはもちろんであるが、ここは食料に困らないのだ。なにせ複製の躯が山と出るのだから。
 この地は、セツの躯に築かれた歪んだ食物連鎖によって成り立つ作り物の楽園であった。

 ・

 青白い光が破れた天窓から差し込む。
 樹に癒着し、動くことの出来ないセツの複製はまぶしそうに夜空を見上げ、今夜はいつもより綺麗に見える。と、言葉とは裏腹に不快そうに呟く。
 その原因は彼女がいる広間の手前から聞こえる咀嚼音にあった。死骸の臭いを嗅ぎつけたカラスや鷹などの鳥類が頭上の天窓から入ってから、この咀嚼音は休むことなくずっと続いている。
 それは今までもあったことなのだが、四つ足の獣が入ってきたのは今回が初めてであった。鳥類と違い、牙を持つ獣の咀嚼音は耳障りであり、彼女は獣が現れ始めた夕刻から神経を尖らせていた。
 この地の獣は廃棄された死骸を主食としていた為、生きている自分を襲うことはないとは分かっているのだが、それでもやはり居心地が良いとは言えない。
「あの失敗作、戸を閉めることすら出来ないんですねぇ」
 獣が入ってきた理由は十中八九セツが扉を閉めなかったからだろう。それに対して嫌みたっぷりに皮肉るも、反応するものはいない。当たり前のことなのだが、昼間に話し相手がいた分少し退屈に思えた。
 ふと思い立ち、指先に意識を集中させる。が、指先に淡い光が一瞬宿っただけで、特に何も起こらない。
 能力を発動させたらどうなるのか。それを彼女は知らない。失敗作である彼女は能力を発動させることが出来ないからだ。オリジナルであるセツが来たことで、やっと能力を目にすることが出来ると思ったが、セツはいくら挑発しようとも能力を使用しようとしなかった。
「どこまでコケにしているのやら」
 呆れたようにため息を吐き、彼女はセツの顔を思い出す。
 最後に自分の顔を鏡で見たのはいつだっただろうか。しかし、あの顔は自分に少し似ていたような気がする。まあ、私はあの細胞から作られた訳ではないから、違っていて当たり前なのだけど。と、寸部も変わらぬ無表情を思い浮かべて彼女は一人納得する。
 セツを生み出す計画は難航を示しており、言葉を操る者はほぼ皆無と言った状況であった。そこで当時此処を指揮していた者は考えた。魔物と同じように、人にセツの細胞を注入すれば、完成とは行かなくとも言葉を解するまでは出来るのではないかと。
 そこでフラウデは人を浚い、彼らにセツの細胞を与えた。既に器が出来ているとはいえ、自分以外の遺伝子を投与されるとなれば拒否反応は必須で、浚われた人の殆どは廃人と化していた。そんな折り、彼女は言葉を解し、その足で外を歩いた。
 試験管の外を歩き、指揮者に笑いかけたとき、彼女は人生の頂点にいた。顔をしわくちゃにして喜ぶ彼を見、ほめたたえられた彼女は自分がこの世の王者になったような気がした。能力を使えと言われるまでは。
 彼女は人並みの知能と運動能力を持っていたが、能力を持っていなかった。浚われる前と何も変わっていなかった。
 途端、彼女は興味のない目で見られた。冷たく、さげずむ目。それは娼婦の母の元で生まれたときに嫌と言うほど向けられた眼差しであった。
 気がつけば彼女は懇願していた。私には適合能力がある。もっと投与すればきっと能力が生まれるはずだと。やっと手に入れた自分の地位を逃したくなかったのだ。
 指揮者はそれを快く承諾し、彼女に再度セツの遺伝子を投与した。しかし、結果は出ない。何度も何度も懇願していく内に、やがて彼女の願いは思いがけぬ形で成就する。下肢が樹木化し始めたのだ。
 それを期に指揮者は完全に彼女を不要と決め、生体投与の計画を中止した。そして広間の片隅で根を張りつつある彼女を見て見ぬ振りをして、本来の計画に戻り、やがてはこの施設をも放棄した。
 ろくでもない人生だというのは自負している。彼女が胸を張って言える事柄だからだ。だが、そんな彼女でも誇りに思うことが一つある。
 彼女は人生で唯一目を奪われた者がいた。根を張りつつある中で、指揮者が成功だと叫んだあの日。彼女は絶対的な存在を目にした。割れた試験管の中から現れた、真っ白な肌をした一人の少女。肌と同じくらい白い髪をした少女は、彼女以来の言葉を解す存在であり、能力を備えた成功作であった。
 当初、彼女は自分と少女は遠すぎる存在で、交わることは決してないと思っていた。事実、彼女が生まれてから数日してこの施設は廃棄されることになったのだから。
 だが、彼らが施設を離れる前夜。ずっと指揮者に付きっきりであった少女は月光に照らされる彼女の元に来た。交わした言葉はほんの一言二言。しかし、それでも今まで無視され続けていた彼女にとっては待ちわびていた人との対話であった。 
 そして月日は流れ数日前。成長した少女は再び彼女の前に現れた。セツが来たら荒野の施設に行けと伝えてくれという伝令を携え。そして、その変わりに願いを一つ叶えてやると。
 通路に人の気配を感じ、意識を戻す。いつしか耳障りだった咀嚼音は消え、暗がりの奥には一つの陰があった。
「こんばんは。今夜は月が綺麗ですね」
 挨拶が返ってこないことは分かっていた。相手にとって、挨拶など何の特にもならないのだから。けれど、慕う相手を前にして言わずにはいられなかった。
「伝えておきましたよ」
 そう。と短く返事が来る。言いようのない達成感と喜びが乾ききった胸中を巡る。
 自分は彼女との約束を果たした。次は恐れ多くも彼女が約束を果たす番だった。声に出さずとも分かったのか、はたまた最初からそうするつもりがったのか、周囲の気温がぐっと下がり、暗がりの中にくるくると一本の氷柱が踊り始める。
 ああ、綺麗だ。思わず呟く。自分が求めてやまなかった能力。しかし、相手にとっては望まれたものと違う力だった。それが彼女にとっては理解できなかったが、いつだって弱者は強者の考えを理解することが出来ない。よって仕方がないことだと考えている。
「もういいか?」
「ええ、いつでも」
 月明かりに照らされ、白銀の髪がきらきらと光る。普段は指揮者だけを見ている目が自分一人に注がれている事に、彼女は人生二度目の優越感に浸った。そして同時に、同じ造形なのに此方の方がずっと美しいと思った。
 彼女が交わした約束は、この地から解き放つこと。体が樹に変容しつつある彼女がこの地から離れるには、死ぬしかない。だが、恐怖感はなかった。むしろ願った相手に殺されることを幸せに思っていた。
「やはり貴女こそが……」
 最後まで言葉が紡がれることなく、宙に浮いていた氷柱が真っ直ぐに彼女の胸を貫く。正確に心臓を突かれた彼女は苦しむこともなく静かに事切れる。同時に彼女の樹木化していない体は結晶化してゆく。皮肉にも、彼女が真珠色の光を纏ったのはこれが最初であった。
 見開かれたままの彼女の目が目の前の者の姿を捕らえる。魂の抜けた目に映ったのは、雪のような肌に白銀の髪。そして雪兎のように赤い目をした女ーーハクマの姿であった。

 ・

 施設を出、十数日を経て彼らは再び荒野の施設へと戻ってきた。
 前回訪れたときとは違い、地下から崩された施設は岩のカモフラージュも崩壊し、荒野にぽつんと存在する壊れた建造物となり果てていた。そしてシキの一行も前回とは違い、ウリハリを加えた上、正反対の正確となったセツを引き連れていた。
 状況は、お互いに変化していた。
「やっときたか、型遅れ共。早く来い。私の元に来い! ははははは!!」
 施設にたどり着いたはいいものの、どこに向かえばいいのか迷っていると妙に甲高い声が周囲に木霊する。
 原因は直ぐに周囲に巻き散らかされるようにして点在する声石だと分かった。そしてこの狂ったようにまくし立てる声の主が、フラウデを束ねるヴィヴォだということも。
「あーあ、貴重な声石こんなにバラ撒いて。勿体ないから何個か持って行くよ。あ、あれ入り口っぽいねぇ」
 せっせと声石を集めるクロハエが指さす先には、明らかに不自然に口を広げる地下への階段。否、階段と言うよりは洞穴があった。
 また地下か。誰もが嫌な予感に落胆を隠せずにいる中、セツ一人がさっさと穴へと入っていく。
「セツ、待ちな。罠かもしれない」
「罠だとしても、行かなければなりません。皆さんは此処でお待ちください」
 ケミが止めるも、セツは頑として聞き入れない。
「俺も行こう。お前達は残れ。ここで穴が崩れたらひとたまりもないからな」
「馬鹿言うなよ。お前ポンコツだけど、一応俺らの頭なんだぞ。頭が潰れたら組織は成り立たない。お前が残れ、俺が行く」
「嫌だ」
「嫌って、お前子どもか!!」
「嫌なものは嫌だ」
 やいのやいのとココーとクロハエが言い争う中、おずおずとウリハリが私も行きますと手を挙げる。セツとしてはさっさと用を済ませたいのだが、どうやら仲間達はそれを許してくれないようだ。
 そうこうする内にケミはセツの隣に来、クサカもまた不機嫌そうな面をしながらもセツの元に来る。彼らの行動に気付いたクロハエはパアッと顔を輝かせたものの、全員は全滅の恐れがあるんじゃないか。と、最悪の事態を危惧する。
「ならあんた残りなよ。私は前仲間外れにされたからね。絶対行くわ」
「私も、行きます。セツさんのこと、そして私たちのことを知りたいです」
「……クサカは?」
 一同の顔がクサカ一人に注がれる。
 注目されたクサカは驚いたような顔をしたものの、そっぽを向いてぶっきらぼうに答えた。
「……俺も行く。こいつを殺すのは俺だからな。下手打たねえように見張ってねえと」
「素直じゃないねえ」
「あ?」
 殴り合うクサカとクロハエを傍目に、ケミはセツの頭に手を置き、穏やかな笑みを浮かべた。
「皆、何だかんだでセツのことが心配なのよ。さ、行こう」
「どうしてこうなったんでしょうね」
 ぽつりと呟き、セツは穴へと足を踏み入れた。
 
 お世辞にも足場が良いとは言えない洞穴を黙々と進む。行く手を阻む者はなく、不気味なほどにスムーズに進んだ一同はそれまでの粗末な道とはあまりに場違いな立派な扉の前に出た。
 僕は此処にいるよ。というヴィヴォの声が今にもしそうな扉を前に、セツはゆっくりと向かっていく。が、不意にその前にココーが立ち塞がった。
 ココーに見下ろされる形になったセツは真っ直ぐに彼の赤い目を見据える。彼の目には能力特有の光は見られない。けれど、セツは自分の心が覗かれているような気がした。
「ココーさん、退いてください」
「違う」
 怪訝な顔でココーを見ると、彼はそれは叔父に、アルティフに名付けられた名だ。とぶっきらぼうに言う。
 途端、クロハエを除く全員がざわめき立った。
「今だから言っておく。アルティフは俺の……」
「ココーさん、止めてください」
「嫌だ。俺は両親を物心つく前に亡くした。幼少期から俺の面倒を見たのは叔父であるあいつだった。あいつは俺の親のようなものだ」
「止めろ!」
 セツが初めて声をあらげた。ココーの発言はもちろん、セツの声にも驚いた一同は、声を失って二人を見つめる。
「俺は事実を述べているだけだ。今まで黙っていて悪かった。アルティフは俺の親のような存在だ。それでも、お前達は俺に着いてくるか?」
 ああ、終わった。自分の計画が失敗に終わったことに、セツは静かに閉目する。彼等が事実を知る必要など無いのに。幸せな、都合のいい事柄だけを見て、ただ生きていればいいのに。
「で? って感じですね」
 クサカの声にセツは目を開ける。
 不信感を露わにしているとばかり思っていたのに、彼等はその様な色を一切見せなかった。それどころか、それが何かと言いたげな表情を浮かべている。
「別に博士に育てられたからと言って、貴方に対する態度は変わりません」
「まあ、びっくりはしたけど、裏切ったわけでもないし。そもそも何年前の話だってことになるわよね」
 想像とは正反対の彼らの意見に閉口していると、黙って聞いていたクロハエがセツの肩を叩く。
「育ちや生まれがどうであれ、俺たちの歩いた旅路は変わらないだろ? なあ、セツ。いい加減一人で重いもの背負い込むのはやめにしたらどうだ? 言いたくはないけど、全部抱えて死ぬつもりだったんだろ?」
 やめろ。やめてくれ。勘違いも甚だしい。私はそんな言葉を望んでいない。そんな対応が欲しい訳じゃない。
 封じられていた激情が胸を引き裂こうとするが如く暴れる。それに呼応するようにセツの首から下げられた小さな結晶が忙しく瞬く。
「いい加減にしてください。私は貴方達の仲間ごっこに付き合うつもりはありません。私は目的を達成できればそれで良いのです」
 目の奥が酷く痛む。
 激痛をこらえながら、絞り出すようにそう吐き捨ててセツは扉に手を掛けた。途端、背筋に冷たいものが走る。この感覚には覚えがあった。何度も煮え湯を飲まされた宿敵、ハクマがこの先にいるのだ。そして不可解なことに近くに懐かしい気配も感じる。
 アルティフの後釜に、宿敵ハクマ。やっと、長い戦いが終わる。セツの緊張感が伝わったのか、仲間達もまた神妙な面もちで扉を見る。
「時間は無い、か。セツ、戦いが終わるまでに俺の名を思い出せなかったら、洗いざらい話せ」
「……それまでなんとお呼びすれば?」
 好きに呼べ。そうぶっきらぼうに吐き捨てると、ココーの名を捨てた男はセツの隣に手を置く。では、ココーさんと呼ばせていただきます。と言うと不機嫌そうに鼻を鳴らされる。
 好きに呼べと言った癖に。小さく呟いていると、扉に置かれた手が一つ、また一つと増え、やがてその場にいた全員が手を添えた。
 彼等は皆一様ににやにやと笑みを浮かべてセツを見ている。
「分かりました」
 棒読みで返答し、セツは扉に掛けた手に力を入れる。
 石同士が摩擦しあう乾いた音に包まれつつ、思い扉は徐々に開かれてゆく。
 終わった頃には、私はもう居ませんけどね。
 セツの小さな呟きは、石の音に紛れて誰の耳に届くこともなかった。


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