キス魔な恋人





「んっ……シ……ふあ」

 後頭部に回った手が熱い。肩を掴んでいたはずのもう一つの手は腰に回って離すまいと私の身体を固定してる。

「シン……ん」

「ん、ごめん。止まれない……」

 唇を付けたまま囁いたシンはキスを再開する。
 何回も啄むような小さなキスが来ると思えば、唇をこじ開けて侵入してきた舌が掻き回しては私の舌を絡め取る。
 かれこれ何分間こうしているのか分からない。

「シン、もうダメ」

 頭が溶けてきそうになったから、何も考えられなくなるのが怖くてシンの胸を押す。
 不服そうに顔を離すシンの唇は赤くなっていた。多分、私も真っ赤になってるんだろう。

「悪い。なんか、全然足りなくて、ごめんな」

 申し訳無さをたっぷりにそう言うとシンの身体が離れる。手が離れたところが急速に熱を失って、それを寂しく感じた。
 いきなり抱き締められると恥ずかしいから拒否してしまうのに、触れられたらそのままでいて欲しいと思う気持ちもある。これは私の我が儘なんだよね。

 ソファーに座っているシンの目を見た。いつも刺すように強い眼差しを持っている瞳がその効力を失っている。シンらしくない。

 何か予備校で悪いことでもあったのかな。でも、聞いていいのか分からないし。そっとしといて欲しいかも。
 こんな時、私はシンに何をしてあげられるの?

「……何」

「何でもないよ。こうしたいだけ」

 隣に腰を下ろしてシンの肩にもたれ掛かってみる。
 ぶっきらぼうな声が突き放して聞こえるけど、それに反して息を呑む音が聞こえた。
 たったこれだけの事でもシンはつらくなったりする。私はキスよりこっちの方が緊張しないのに。男の子って難しい。

 シンの全部欲しいって思う。悩みも希望も全部聞いてあげたいって思う。
 だけどそうするには私には覚悟が足りなくて、だからこうしてただ寄り添うだけでも、安らぎを与える事が出来ない。

 ここで私を抱き締めれば、例の如く逃げられるかもしれないから。
 私はシンの彼女なのに、彼の抱擁にすらまともに応えられてない。

 逃げられるかもしれないって毎回思いながらするってどれだけ怖いんだろう。緊張するんだろう。
 私にはまだまだその辺りを汲むって事が出来てない。駄目な彼女だな。

「シン」

 もたれるのをやめて声を掛けるとシンが此方を向く。
 疲れた顔をしたシンをどうしたら癒せるか。全然分からない。私はシンを抱き締めた。





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