零れ落ちる





 今日はシンとお家デート。徒歩ですぐなのにいつも迎えに来てくれるのが嬉しい。その数分も一緒に居られるから。

「はあ、何でそんな嬉しそうなんだよ」

「シンが迎えに来てくれたから」

「いつもの事だろ」

 呆れた口調でそうは言っても、シンだって私のこのくらいの言葉でいつも照れてる。
 私達は付き合って何ヶ月経ってもお互いにそういうところが変わらない。

 変化が無い事が居心地がよくて安心出来るけど、時々、そんな私と違ってシンはそれじゃ足りないんじゃないかって不安になる。
 現にいつも私ばかりだ。私の方がシンから沢山貰ってる。私からはほとんど何も渡せないで、そんな私と一緒でシンはしんどくないのかな。


「適当に上がって……って何いきなり暗い顔してるんだよ」

「え? ああ、何でもないよ。お邪魔します」

 シンの視線が一瞬鋭くなる。シンは洞察力に長けてるから誤魔化す時はいつも必死。ほとんど誤魔化せてないから、今回も何て躱そうか今から考えなきゃ。

「何か淹れるけど、おまえ紅茶でいいよな?」

「うん。手伝うよ」

「いや、いい。客なんだから座ってろ」

 そういうとこ律儀なんだから。
 私は手伝いたいって口実に、その時間すら一緒に過ごしたいと思ってるよ。これもやっぱりワガママに入るのかな。

 シンが大学に合格して、私も春休みで会える日が増えて本当に嬉しい。
 でも少しだけ顔を覗かせている不安があるのも本当。

 合格してすぐに初めてシンに抱かれた。それからもう一ヶ月近く。キス以上が無い。
 するまでは凄く恥ずかしかったのに、いざしてみるとそれ以上に幸せで、こんなに幸せならまたしたいと思うくらい。
 でも何もない。私、そんなに良くなかったかな。私は幸せでも、シンがどれくらいの満足度かなんて分からない。

 壁に立てかけてあるベースの弦に触れる。ベースですら触ってもらえるのに、私ときたら。って楽器に嫉妬してどうするの。

 今どんな曲練習してるんだろう。楽譜を探してうろうろしていたらゴミ箱が目に入ってきた。
 くしゃくしゃに丸まったティッシュの山。シン、花粉症? そう言えば今年も大変な飛散量なんだっけ。

「なあ、砂糖とミルク――」

 お茶を持って帰ってきたシンが目を見開いて一瞬固まった後、テーブルにお茶を置いて私の目の前からゴミ箱を部屋の外に持ち去っていく早さはとんでもなかった。

 それから間もなく空になったゴミ箱を抱えてシンが戻ってくる。





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