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「……見なかった事にして」

「え?」

「だから……あ、分かんないなら別にいい」

 出来ればそっちであって欲しいと願うような軽い声。
 そんなに私に知られたくない事?

「えっと、シンって花粉症?」

 そう問えばメロンソーダが気管に入ったらしく大きく噎せだした。

「大丈夫?」

「おまえって……いいから何も考えんな」

 どうやら花粉症は違うらしい。
 一度気になったら答えが分かるまで考えてしまう。でもティッシュってそんなに沢山使う事で、あんまり人に知られたくない事って――――あ。
 もしかして、そういう事の後のティッシュなの? 顔が熱くなってくる。多分赤くなってる。それに気付いたシンは私から顔を背けた。

「あーもう、だから忘れてって」

 シンも顔を赤くして頭を抱える。ソファーに座っているシンの横に腰掛ければ、シンは少しだけ私から距離を取った。
 どうして? その隙間を埋めるように距離を詰めれば、シンは観念したようにもう私から逃げなかった。

「…………私と、そんなにしたくない?」

「は?」

 小声で呟く程の声になってしまったのにシンは聞き逃さないでいてくれた。

「一人の方がいい? 私じゃシンを満たせないのかな……」

「っ……馬鹿かよ」

 強引に抱き締められてシンの腕の中。何だか凄く久しぶりに感じた。
 最近よく会うのに、会っても抱き締めてくれる事がほとんど無かったから。
 シンの匂い、体温、落ち着く。

「だって、シンは良くなかったのかなって。私は凄く幸せだったの。だから、もっとしたいよ」

「……あーもう……おまえって何でオレが引けば追ってくんの」

 後ろの髪を優しく下に引かれて上を向かされたと思えば、間もなく唇を塞がれる。
 そのまま深く、と思えばすぐに離れちゃって寂しくなった。

「すっげえ物欲しそうな顔してる。でもダメ」

「っ、なんで?」

「おまえからキスして」

 艶っぽい声で囁かれてまた顔が熱くなる。

「じゃあ、目瞑っててくれる?」

「いいよ」

 言葉の後すぐに目を閉じるシン。シンの目を閉じた時の顔はキスを待ってるというより、静かに眠ってるみたい。
 そのまま行こうか悩んだけど、シンの足を跨いで向かい合わせに座る。

「……っ……何してんの」

「目、開けないで」

 こうするとこんなに距離が近いんだ。シンを上から見下ろすなんてなかなか出来ない事だから、違う角度から見れて嬉しい。





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